大阪医科大学の宮武伸一特任教授や京都大学、医薬品事業のステラファーマ(大阪市)、住友重機械工業などは、悪性脳腫瘍を治療する新技術を開発した。がん細胞の内側から強い放射線を出すことでがん細胞だけを死滅させ、周囲の正常な細胞を傷つけない。皮膚がんや肺がんなどでも治療効果と副作用の軽減が期待される。
共同チームは実験用原子炉から取りだした中性子でがん細胞だけを狙い撃ちする新療法「ホウ素中性子捕捉療法」を研究してきた。新たに開発したのは、中性子を作る装置を、原子炉に代えて加速器という装置を使う手法だ。
加速器の大きさは約3メートル四方。全体の施設費は20億〜30億円ともされるが、原子炉と違って病院内にも建設できる。副作用を抑えつつ、がん細胞だけを死滅させる次世代の治療が身近になる。
脳腫瘍の一種「膠芽腫」が再発した患者を対象にした臨床試験(治験)を医薬品医療機器総合機構に申請した。このがんは再発後の余命が約7カ月とも報告されている。大阪医科大の治験審査委員会で認められれば10月にも、治験を始める。
がん細胞だけに集まる特性を持つホウ素化合物を患者に注射し、がん細胞の中に蓄積してから中性子を照射。がん細胞の内部で中性子と反応したホウ素化合物が強い放射線を出すことで、がん細胞だけを壊す。一般の放射線治療で6週間かけて当てる線量の2〜3倍を、1時間で受けるという。
放射線の飛距離は0.009ミリメートルで周辺には広がらない。一般の放射線治療では、がん細胞の周囲の正常な細胞も放射線を浴び、患者は副作用に苦しむ。患部にピンポイントで放射線を照射する方法でも限界がある。
京都大学原子炉実験所(大阪府熊取町)の原子炉を使い、120例以上の治療研究を重ねてきた。脳腫瘍の体積が約7割減った例もあった。同実験所に設けた加速器を使い、2年間で計9人を対象に副作用や安全性を調べる。
(解説)中性子当てる新療法、がん見極めの技術力必要 :日本経済新聞
がんの治療法にはエックス線などを使う放射線療法や、化学療法、外科手術がある。がんを克服できないのは、正常な組織と見分けがつきにくいほか、探し当てても簡単に取り除けないからだ。
一般の放射線治療で根絶やしにしようとすれば、正常な細胞まで傷つける。化学療法にしても同じだ。副作用を気にして手加減すれば、再発の恐れがある。がん細胞だけを選んでたたく技術の開発が課題になっている。
脳腫瘍の中でも最も悪性度の高い神経膠芽腫(こうがしゅ、グリオブラストーマ)は周囲の脳にしみ込むように広がる。腫瘍と正常な細胞の見分けがつかず、手術で取り除くのが難しい。手術後に化学療法や放射線治療をしても、最もよい研究報告でも1年後の生存率は65%ともいわれる。
東京女子医科大学と東京医科大学は光を感じて活性酸素を出す光感受性薬剤で脳腫瘍患者27人の治療研究を始めた。
薬剤ががん細胞に集まった後、脳に弱いレーザー光線をあてる。活性酸素が、がん細胞を攻撃する。がんが大きかった13人は1年で全員が生存。2年でも半数が生きた。
Meiji Seikaファルマとパナソニックヘルスケアは薬剤と光を当てるレーザー機器の製造販売承認を、今秋にも脳腫瘍治療目的で国に申請する計画だ。光線力学療法といわれ、一部の肺がんなどで認められている。