「生きている送電線」・・・ 電子の長距離輸送能力もつ繊維状細菌、米・デンマーク研究チームが発見 « SJN Blog 再生可能エネルギー最新情報
海底の泥の中に生息する送電線型細菌 (Photo/Mingdong Dong, Jie Song and Nils Risgaard-Petersen/Aarhus University)
繊維状細菌(filamentous bacteria)には、細胞の長さの数千倍の距離にわたって電子を伝達する「生きている送電線」としての機能があるとのこと。デンマークのオーフス大学と米・南カリフォルニア大学(USC)の国際研究チームが発見した。2012年10月24日付の Nature オンライン版に論文が掲載されている。
送電線の機能が見つかったのは Desulfobulbus 属の細菌。細胞の長さは数千分の1mm程度しかなく、肉眼で見ることはできない。適切な環境下に置くと、多数の細胞が集まって1本の繊維を形成し、呼吸および摂食プロセスの一部として1cm程の距離の電子伝達を行うようになるという。
「これまでは、生体システム全体の中でこのような長距離の電子移動が起こることはないと考えられていた」とUSCの物理学助教 Moh El-Naggar 氏は話す。
オーフス大学の研究チームは昨年、一見したところ不可解な電流が海底に流れていることを発見していた。この電流を媒介しているのが、生きている送電線の役目をする未知のタイプの長大な多細胞型細菌であることが、新たな実験で明らかになった。
繊維状細菌の顕微鏡像 (Christian Pfeffer et al., Nature (2012) doi:10.1038/nature11586)
研究チームは当初、外的ネットワークを通じて異なる細菌の間で電子が受け渡されるような何らかの共生関係があると考えていたという。「1つの生命体の内部でこのような電子の移動が行われていたというのは実に驚くべきことだ」とオーフス大のバイオサイエンス研究者 Lars Peter Nielsen 氏は話す。
同チームは、海底堆積物中に生息し、硫化水素の酸化反応によって自身へのエネルギー供給を行っている細菌を調査していた。下層部にいる細胞は硫化水素が豊富だが酸素が不足した環境、上層部の細胞は酸素が豊富だが硫化水素が不足した環境に生息している。この環境に適応するため、細菌は長い鎖を形成して下層から上層へと電子を輸送することで化学反応を完成させ、生命維持に必要なエネルギーを作り出していることが明らかになった。
写真(a)は4個の細胞の走査電子顕微鏡(SEM)像。(b)と(c)は繊維の横断面の透過電子顕微鏡(TEM)像。(d)と(e)は細胞間接合部を含む縦断面のTEM像。(f)は細胞間接合部の原子間力顕微鏡(AFM)像。白い曲線は高さ方向の情報を表している。(g)は細胞間接合部1×1μmの領域の電気力顕微鏡(EFM)像。コントラストの明るいところが隆線部分に対応している。
(発表資料)http://bit.ly/RXCuxN