ドライブしながら充電 道路にコイル、電気送る :日本経済新聞
205x年、電気自動車でどこまでもドライブできる時代がやってくるかもしれない。電動歯ブラシや携帯電話を置くだけで充電できるワイヤレス送電技術を電気自動車にも応用する研究開発が進む。駐車するだけで充電する装置が数年以内に実用化し、その後、走りながら充電できる時代が到来すると期待されている。
1周25メートルのコース上を電球を載せた模型自動車が走る。透明なアクリル板の上を通過すると、不思議なことに電球がともった。子どもたちからは「わーっ」と歓声があがる。
昨年11月、国土技術政策総合研究所が公開した実験の1コマだ。明かりがついたのは「アクリル板の下にある送電コイルに電流を流すと磁力が生じ、磁力によって車に取り付けた受電コイルにも電流が流れる」ためと小原弘志・主任研究官は種明かしをする。
交差点の手前数百メートルにわたってコイルを設置すれば、車が減速したときに効率よく充電でき、バッテリー切れを心配せずに電気自動車を運転できるようになるという。
専用の充電車線を設けて、送電コイルを100キロメートル規模で並べれば、高速道路でも電力を車に供給できる。
走行中の車に電力を送るには、普通車でも出力20キロ〜30キロワットで、車と道路に取り付けたコイルの中心部の距離が1メートル程度離れても届くようにしなければならない。
今のところ、直径35センチメートルの送電コイルから70センチ離れた受電コイルに60%の電気を流すことができるが、約1メートル離すと、まだ送電側の電力の19%しか送れない。小原主任研究官は「実用化にはコイル間の距離が90センチで、80%以上の電力を送れるようにする必要がある」という。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2015年ごろに街中の交差点付近で実験を始めて、20年には市街地で実用化。50年ごろには高速道路への拡大を目指すロードマップ(行程表)を描いている。
充電しながら電気自動車が走れるようになると、車の形も大きく変わるかもしれない。
小原主任研究官は、大型のトレーラー車も電動にできると予測する。電動の大型トレーラーはモーターで動くので、座席の下にあったエンジンがいらなくなり、車高が低くなるとみられる。
走行中の電気自動車への充電を実現するには数十年かかりそうだが、ワイヤレス充電は、まず、数年後に家庭での充電から始まる見通しだ。
日産自動車は電磁誘導という方式を使って、ワイヤレスで充電できるシステムを開発中だ。
車庫の床に置いた板の上に電気自動車を止めると、車内にある充電度を示す表示計が100%に近づいていく。充電する電力は3キロワット。24キロワット時のリチウムイオン電池の載った電気自動車では、車庫に一晩置けば充電を終える計算だ。
ただ、ワイヤレス充電では、装置が作る磁力が車の外に漏れ出て、人の体や電子機器などに与える影響が問題となる。
実用化にあたっては、車の表面から20センチ外側で6.25マイクロ(マイクロは100万分の1)テスラ(テスラは磁場の単位)以下にしなければならない。日米欧ではワイヤレス充電システムの標準規格作りが進んでいる。「日米欧は15年の規格発効を目指しており、そのころには実用化の動きが本格化する見通しだ。普及時には装置の価格を数万円にしたい」と同社EVシステム開発部の岩野浩主管は話す。
家庭の次は、一般の駐車場に普及しそうだ。家庭の車庫よりも駐車時間が短くなる場合が多いので、充電パワーを10キロ〜20キロワットに上げ、1時間で充電できるようにしておく必要がある。技術的にはコイルの直径を大きくすれば、パワーは上がるという。
ワイヤレス充電システムは電気自動車だけでなく、家庭のコンセントにつないで充電するプラグインハイブリッド型の車にも応用できる。
電源コードを車につなぐ手間暇から解放されれば、電気自動車などの普及が加速しそうだ。
(編集委員 西山彰彦)