DHAがアルツハイマーに効果確認/京大iPS細胞研究所 井上治久准教授ら | JC-NET(ジェイシーネット)
京都大iPS細胞研究所の井上治久准教授や長崎大学の岩田教授お呼び 同研究所(CiRA)リサーチアシスタントの近藤孝之大学院生らのチームは、認知症の中で最も多いアルツハイマー病患者から作製したiPS細胞(人工多能 性幹細胞)を使って、青魚などに多く含まれる「ドコサヘキサエン酸(DHA)」が、同病の発症予防に役立つ可能性があることを確認したと発表した。
イワシなどの青魚を食事でとることとの関係は、この研究では不明だが、新薬の開発などにつながる成果として、22日付の米科学誌セル・ステムセルに掲載される。
アルツハイマー病患者の脳内では、Aβ(アミロイドベータ)と呼ばれるたんぱく質の「ゴミ」が過剰に蓄積することで、「細胞内ストレス」という有害な現象が起きて神経細胞が死滅し、記憶障害などを引き起こすことが知られている。
研究チームは、50代〜70代の男女の患者計4人の皮膚からiPS細胞を作製、それを神経細胞に変化させ、Aβが細胞内外に過剰に蓄積した病態を再現した。
このうち、細胞内にAβが蓄積した2人の細胞に低濃度のDHAを投与した場合と、投与しなかった場合とで、2週間後に死滅した細胞の割合をそれぞれ比較。その結果、DHA投与の場合、細胞死の割合は15%で、投与しなかった場合は2倍以上の32%だった。
<Aβによる細胞内のストレスは、適切な濃度のDHAで改善する>
APP-E693Δ変異を持つiPS細胞由来の神経系細胞に対して、3種の化合物(活性酸素の生成阻害剤や小胞体ストレスを軽減する試薬など)を添加し、小胞体ストレスに対する治療効果を調べた。
すると、低濃度のDHAを添加した時のみ、小胞体ストレスに応答するタンパク質(BiP、Caspase-4)や酸化ストレス(peroxiredoxin-4、活性酸素種)を減らしたが、残り2種の化合物や高濃度のDHAでは逆に小胞体ストレスを増強してしまった。
さらに、低濃度のDHAを添加することで、APP-E693Δ変異を持つiPS細胞由来神経細胞の自然細胞死を、改善させることができた。
この結果は、適切な有効濃度が存在することを示している。
京大iPS細胞研究所は、今後こうした研究の日本の開発拠点になっていくと思われる。これまでにもイロイロな食材がアルツハイマー病に効果があると学者や医者から発表されており、これらの発表された素材について、iPS細胞で検証作業を行うことにより、最大効果のアルツハイマー病の対策や治療に応用される薬が開発されることになる。
記事参照:京大リリース及び読売新聞。
患者さん由来iPS細胞でアルツハイマー病の病態を解明−iPS細胞技術を用いた先制医療開発へ道筋− — 京都大学
左から近藤氏、井上准教授、岩田 長崎大学教授
近藤孝之 医学研究科大学院生(iPS細胞研究所(CiRA)リサーチアシスタント/科学技術振興機構(JST) CREST)、井上治久 CiRA准教授、岩田修永 長崎大学教授の研究グループは、山中伸弥 CiRA教授らの研究グループと協力し、複数のアルツハイマー病(AD)の患者さんごとに存在する病態を明らかにして、iPS細胞を用いた先制医療への道筋を示しました。
本研究成果は、2013年2月21日(米国東部時間)に米国科学誌「Cell Stem Cell」のオンライン版で公開されました。