鴻海も投資 しぼむデジカメ市場の「革命児」、大ヒットの秘密 :日本経済新聞
■1分間に1コンテンツのペースで投稿
Shaikh氏が挙げたもう一つの理由は、ソーシャルメディアのコミュニティーをうまく作り上げたことである。「ソーシャルメディアのGoProコミュニティーは、とても活発だ。FacebookやYouTubeには、GoProで撮影した写真や動画が1分間に1コンテンツのペースで投稿されている」。
もちろん、Facebookなどを通じたユーザーとのコミュニケーションの工夫はあるが、ここにも利用シーンに合わせたカメラ自体の機能が隠れている。
例えば、ボタン一つで撮影した動画の上下を反転できる機能だ。スポーツの撮影では取り付け位置に制限があるため、カメラを上下逆さまに取り付けなければならないことも多い。そうした場合でも、動画や写真の上下を反転する変換の手間を省いて、ソーシャルメディアにすぐに投稿できる。
170度の広角レンズの採用もその一つだろう。広い視野角ならば、いちいち撮影アングルを気にしなくても、撮影ボタンを押しておくだけで必ず何かが写っている状態にできる。
■放送業界が見初めた価格・画質・利便性
図4 4K動画を撮影できる新機種「HERO3」
「おもちゃのように小さいが故に画質が低い」という指摘もGoProには当てはまらない。放送業界がGoProを本格的に採用していることが、それを裏付けている。
日本でも、バンジージャンプや絶叫マシンに挑戦するシーン、登山などの探検もののシーンでヘルメットに取り付けたGoProをテレビで見ない日はない。これが言い過ぎではないほど、番組制作の現場に浸透している。
最新機種の「HERO3」では、毎秒15フレームとフレーム速度は低いものの、4K×2K(3840×2160画素)のいわゆる「4K」動画を撮影できる機能を加えた(図4)。2012年10月の発売以降、在庫薄の状況が続くほどに売れているという。「すべてのユーザーが4K動画を撮影するわけではない。ただ、プロのユーザーを中心に撮影したい人もいる。そのために機能を用意していくことが大切だ」(Shaikh氏)。
■価格は業務用小型カメラの十分の1
フォックスコンが投資したことからも分かるように、GoProはフォックスコンが生産している。ただ、ハードウエアやソフトウエアの設計は、丸投げではない。すべてWoodman Labsの社内でまかなっている。4年前に7人だった社員は1年前に150人に増え、現在はさらに2倍以上に増えて350人規模になった。
CMOS画像センサーや画像処理LSI(大規模集積回路)は、もちろん外部メーカーのものを採用している。HERO3に搭載されているCMOSセンサーは、ソニーの裏面照射型「IMT117CQT」。画像処理LSIは、米Ambarella製の「A7」である。Ambarellaでマーケティング関連を統括するVPのChris Day氏は、「GoProは他のメーカーと目的意識が違う。画質にはものすごくこだわる」と証言する(図5)。
図5 Ambarella VP of Marketing and Business DevelopmentのChris Day氏
「放送局などのプロに使ってもらうことは、我々の夢だった。だから、とても興奮している。製品を低価格にできたことが大きかった」(GoProのShaikh氏)。同じ用途に使ってきた従来の業務用小型カメラの価格は数千米ドル。それに比べると価格が十分の1ほどの格安カメラで、放送に十分な映像を撮影できる。これが採用拡大の理由だ。
今や、GoProの新製品に歩調を合わせて画像処理LSIを進化させているAmbarellaのDay氏は、次のように指摘する。
■スマホではできないことを追求
「スマホではできないことを追求していく。これが今後のカメラ専用機の方向性だろう。まさにGoProが実践しているカメラ開発だ」(AmbarellaのDay氏)。
ここにきて、大手カメラメーカーは、コンパクト機に搭載するスマホとの連携機能の開発に躍起だ。無線LANやNFC(Near Field Communication)などの近距離無線通信技術を備えるコンパクト機が続々と登場している。スマホを経由してSNSなどに投稿しやすい機能を付加することが通信技術を拡充する目的である。
図6 スマホ連携をアピール。2013年1月の「International CES」では、スマートフォンとの連携機能をデモして見せた
GoProもその方向に進んでいる。HERO3には、無線LAN機能を標準搭載。カメラを操作したり、SNSに投稿しやすくしたりするスマホ向けのアプリも用意した(図6)。2011年3月には、映像編集ソフトを開発する米CineFormを買収。「モビリティは重要なポイント。映像編集をもっと簡単にしたい。それが今後の方向性だ」と、Shaikh氏は買収の背景を説明する。
■異なるスマホに対するアプローチ
しかし、同じ方向を歩んでいても、大手メーカーのカメラとGoProは、スタートポイントとスマホに対峙する立ち位置が大きく異なるように見える。
一方は、開発者自身が「本当に欲しい」と考え、自分が使いたい機能を加えてきたら、いつの間にかプロにも見初められる機器が完成していた。これまでと同じ進化の方向にスマホがパートナーとして存在する。
もう一方の大手メーカーは、従来の枠組みで機能を進化させてきたら、いつの間にかスマホという強力なライバルが出現。そこから逃れるために新たな機能を加えている。
コンパクトカメラの将来を決めるもの。それは、従来の枠組みから抜け出し、本当にユーザーが求める機能を考え抜いた新しい発想の先にある。
(Tech-On! 高橋史忠、日経エレクトロニクス 久米秀尚)
[Tech-On!2013年2月25日の記事を基に再構成]