小水力・洋上風力・太陽光…再生エネ、北関東で広がり :日本経済新聞
太陽光に水力、風力、バイオマス(生物資源)、地熱――。東日本大震災や原子力発電所事故で関心が高まった「再生可能エネルギー」事業が北関東でも広がりをみせている。山林や河川・用水路、海、日照などそれぞれの地理条件を最も生かせる発電方式を模索。行政と企業の連携も目立つ。7月に迫る再生エネルギー電力の全量買い取りや東京電力の電気料金引き上げも検討の動きに拍車をかける。
「実証試験1号機が3月中には動き出す予定」。宇都宮市東部の農業用水路で小水力発電設備を稼働させるのは「栃木県スマートビレッジモデル研究会」。水路の小さな高低差を生かし、流れ下る水で発電する。生み出した電力は電気自動車(EV)の充電や農家のハウス栽培などに使う。
■昼夜問わず発電
研究会には栃木県上三川町に工場を置く日産自動車や農業用水を管理する土地改良区連合、宇都宮大学などが加わる。メンバーの水力発電機メーカー、中川水力(福島市)が手掛ける1号機は出力2.5キロワット。落ち葉やゴミを取る除じん装置を備えた最新機だ。
栃木県では小水力発電にも期待が集まる(那須塩原市の発電設備)
小水力は昼夜を問わず発電できて効率がよい。栃木県は山地から平地に向かう勾配と豊富な水資源で潜在力が大きく、県北の那須野ケ原での実績もある。一方で水利権の許可手続きが煩雑であるなど参入障壁は高い。
そこで規制緩和を求め、国の総合特区に申請し指定されたのが「栃木発再生可能エネルギービジネスモデル創造特区」だ。出力10〜30キロワット程度の発電設備を100カ所近くに導入。2012年度中に実証試験に入る。
事業費は総額10億円。野村アグリプランニング&アドバイザリー(東京・千代田)などが13年にも設立する事業会社が主体となる。足利銀行や地場企業などから出融資を募る。民間資金を取り込み、補助金に頼らず成り立つ仕組みを模索する。
■1.5メガワット級が続々
太陽光発電に乗り出すのは群馬県太田市。1万枚超ものパネルを敷き詰めたメガソーラーを7月に稼働させる。比較的長い日照時間を生かす試み。出力は1.6メガワットと自治体単独の施設では全国最大級だ。12年度予算案ではパネルのリース料を売電収入で賄い、実質ゼロ負担を目指す。
民間も動きはじめた。総合建設会社の美樹工業(兵庫県姫路市)は茨城県つくば市に確保した用地に1.5メガワット級のメガソーラーを建設する。投資額は10億円超で、7月から全量を売電する構えだ。
海に面した茨城県では風力発電も目立つ。国内初の本格洋上風力発電所を神栖市で運営するウィンド・パワー・いばらき(水戸市)は増設を検討。県も2月に入り、神栖市の下水処理場に初の風力発電を稼働させた。出力は2千キロワット。下水処理に使う消費電力を2割減らす。
栃木県では下水汚泥処理で出るメタンガスを使うバイオガス発電設備も県央浄化センター(上三川町)に導入する。京都府、群馬県伊勢崎市などの先行例を視察し、12年度予算案に設計費2千万円を計上。15年度の供用開始を目指す。
<地場企業も波及期待、採算なお不透明感>
再生可能エネルギー事業がもたらす波及効果には地場企業も期待を寄せる。屋根メーカーのカナメ(宇都宮市)は太陽光パネルを住宅屋根に固定する金具を工場用に改良。2月末からの業界展示会に出展する。配電盤のバンテック(栃木県那須塩原市)も研究を重ねてきた水素エネルギーの活用を狙う。
再生エネルギーに詳しい足利工業大学の牛山泉学長は「北関東も発電事業の潜在力は十分ある」と評価する。同時に「活動のシンボルをつくる時期はもう終わり。事業採算を見極め、利益を確保できる枠組みにしないと意味がない」とも話す。
ただ採算面の不透明感は残る。肝心の全量買い取りの価格がどの程度になるかまだ決まっていないからだ。太田市のメガソーラーは「1キロワット時で35円」が実質負担ゼロの前提だが、下回れば「市が赤字補填する必要がある」(清水聖義市長)。
栃木県のある設備メーカー社長も「『価格が決まってから』と言われ、商談にならない」とこぼす。今は「価格決定」の号砲を待ちながらスタートラインに並んでいるのが実態だろう。再生エネルギー普及とビジネスの行方に期待と不安が交錯する。
(宇都宮支局 河野俊)