新たな稼ぎ手 世界へ 和製ソフト 飛躍の鼓動 :日本経済新聞
ニッポンの企業力 第4部 サバイバル(3)
人気キャラクター「ハローキティ」がアジアから世界に広がっている。
米ウォルマート・ストアーズが販売する衣料品、オーストリアの高級ガラスメーカー、スワロフスキー、スイスの時計メーカー、スウォッチ……。キティの商標権を持つサンリオと、ライセンス契約を結んだ欧米の企業数は2008年以降に急増。200社から4倍以上に増えた。
■自前抑え利益3倍
12年3月期の営業利益予想は前期比21%増の181億円、5年前の約3倍だ。海外はライセンスによる収入が7割を占め、5年前の2割から跳ね上がった。
直営店を通じた物販中心のビジネスモデルをがらりと変えたのは08年にサンリオに入社した三菱商事出身の取締役、鳩山玲人(38)。「世界でこれほど知名度のあるブランドを生かさない手はない」と社内を説得。キャラクター商品の在庫や出店経費がかさむリスクを抱えながら拡販する「自前主義」と決別した。
ライセンス先の企業がキティ関連商品の販売を伸ばせば、サンリオの収入が増える。一方で30店以上あった米国の直営店はすべて閉めた。固定費が減って売り上げが伸び、利益が拡大した。鳩山は世界に通用するキャラクターを増やすため、昨年12月には幼児向けの絵本で知られる英国企業、ミスターメン(ロンドン)を買収した。「米ウォルト・ディズニーと張り合うぐらいの規模にしたい」と意気込む。
31年ぶりの貿易赤字となった日本。製造業の復権は欠かせないが、サンリオのようなブランド力のあるサービス・ソフト企業も国富を築く担い手になり得る。
ただ、日本のコンテンツ産業全体の収入の海外比率は約5%。米国の17%に遠く及ばない。慶応大教授の中村伊知哉(50)は「日本のアニメやゲームなどは海外で高く評価されているがその強みを生かせていない」と指摘。「人材を育てコンテンツともの作りを融合させて世界に売り込めば新たな成長エンジンの芽が見えてくるはず」と話す。
例えばネット産業。楽天の電子商取引の国内流通総額は昨年、1兆円を突破した。社長の三木谷浩史(46)は「通過点にすぎない」とさらなる高みを目指す。中国やブラジルなど新興国を含む9カ国・地域に進出ずみで、27カ国・地域に広げる計画だ。海外比率はまだ約10%だが、いずれ日本を上回ると予測する。
カギを握るのは楽天を通じ、日本の女性ファッションや家電製品を個人輸入する中国や台湾など海外の若者たち。徐々に増えているが「配送費を抑えれば国境を越える商取引が劇的に拡大する」(三木谷)とみる。大手物流会社と組んで新たな仕組みを模索中だ。
楽天に続く企業も育ちつつある。3〜5年後に世界の会員数10億人、将来は海外売上高比率8割を目指す――。ほかの人と交流しながら遊ぶソーシャルゲーム大手、グリー社長の田中良和(35)は成長の舞台を海外と定めた。現在約1億6千万人いる海外の会員をいかに増やすかが課題だ。
昨秋、ベトナム・ハノイの下町にある民家を、副社長の山岸広太郎(35)が訪ねた。所狭しと並ぶパソコンに向かい、若者らがゲーム開発に没頭している。約100人が4交代勤務で働くベンチャー企業だ。「完成までの期間は?」。ゲームの出来栄えを確認しながら山岸が質問する。
山岸はアジアや南米など世界のゲーム会社1万5千社以上を登録してある社内のデータベースから、これぞと見込んだ企業に足を運ぶ。有望ならゲームの開発を委託したり出資したりする。すでに中国と韓国の企業に資本参加した。世界仕様の商品開発が進む。
■レシピを8億人に
グリー同様、ソーシャルビジネスで世界が注目する企業がある。月間1300万人超が訪れる料理レシピの投稿サイトを運営するクックパッドだ。昨年9月、世界で8億人が利用する米フェイスブックの戦略パートナーに日本企業として唯一選ばれた。
グリー54%、クックパッド48%、サンリオ25%――各社の直近の売上高営業利益率は製造業の平均を大きく上回る。世界で存在感を放つ「新顔」が増えれば、日本経済の閉塞を打ち破る力になるはずだ。