阪大、天然の光合成の性能超える人工光合成分子複合系の構築に成功 (PDF資料)bit.ly/J8khqP pic.twitter.com/rKqCvFKs
天然の光合成の性能を超える人工光合成分子複合系の構築に成功!
-エネルギー問題解決への重要なステップ-
http://www.eng.osaka-u.ac.jp/ja/dat/news/1335226784_1.pdf
概要
大阪大学 大学院工学研究科の福住俊一教授の研究グループ(山田裕介准教授、末延知義助教、大久 保敬特任准教授ら)は、ナノサイズの小さな孔を持つ材料の孔の中に、独自に開発した光エネルギー を蓄えることができる分子を固定化することで、室温で天然の光合成を超えるエネルギーと寿命を得 ることに世界で初めて成功しました。また、米国ジョンズ・ホプキンス大学の Karlin 教授が開発した 酸素と反応しやすい分子も同時に一緒に固定化することで、太陽エネルギーを利用した高効率な化学 反応ができるようになりました。
この技術によって人工光合成などの光エネルギーを有効に利用した 有機化合物の合成が可能となり、光エネルギーを用いた次世代燃料の合成プロセスの開発などへの応 用が期待されます。
本研究成果は、2012年4月23日の週に発行される米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of USA)の電子版に掲載される予定です。今回の研究は、JST 先端的 低炭素化技術開発(ALCA)「人工光合成複合システムの構築」(研究開発代表者:福住俊一)の一環とし て行われました。
研究の背景
私たちの暮らしに欠かすことができないエネルギー源は石油をはじめとする化石燃料です。化石燃 料の起源に関しては諸説ありますが、主に太古の動植物が堆積し、熱変成することで生じたと考えら れています。動物は小動物や植物を摂取することで生きていますので、化石燃料は主に植物が作り出 したことになります。植物の生育には、光合成を行うための二酸化炭素と水、光エネルギーが必要で す。植物は光合成の過程で、光エネルギーを利用して水から電子を取り出し、その電子を使って生命 維持に必要な化学物質を体内で合成し、太陽エネルギーを化学エネルギーとして貯えています。その ため、私たちの現在の暮らしは、大昔の太陽のエネルギーを植物が蓄えたおかげで支えられていると 考えることができます。産業革命以来、およそ 200 年の間に、人類は膨大な量の化石燃料を利用して きましたが、化石燃料は有限な資源ですし、地球温暖化の原因物質と考えられている二酸化炭素の排 出量も削減しなければならず、そろそろこれに代わる持続可能な新しいエネルギー源を利用する手段 を開発しなければなりません。
化石燃料に代わる新エネルギー源の中では、太陽光が最も有力な候補であると言えます。現在、太 陽電池を利用した発電が注目を集めていますが、電気は長期間貯えることが難しいエネルギーです。 化石燃料のように何万年の後までも利用することが可能な形でエネルギーを蓄えるにはやはり、光エ ネルギーを使って燃料として利用しやすい化学物質を作り出すことが最善の手段といえます。そのた めには、光をあてることでそのエネルギーを内部に蓄え、燃料として使うことができる化学物質の合 成に使えるような材料を開発することが必要です。
1 研究の内容
大阪大学大学院工学研究科の福住教授らは、以前に、低温で光の持つ高いエネルギーを内部に溜め 込むことができる化合物の合成に成功していました。 しかし、室温では分子同士が反応してしまうた め、天然の光合成のように長い時間高エネルギーを維持することができませんでした。
福住教授の研 究グループは、ナノサイズの細孔を持つシリカ-アルミナと呼ばれる物質の中にこの分子を閉じ込める ことにより、分子同士の反応ができないように工夫することで、室温で天然の光合成を超えるエネル ギーをより長時間維持することに世界で初めて成功しました。
蓄えられるエネルギーと時間は天然の光合成の性能をはるかに上回っています。光合成のように蓄えた太陽エネルギーを実際に使える化学エネルギーに変えるには、触媒といわれる物質と組み合わせる必要があります。
そこで酸素を活性化 できることが知られている分子(ジョンズ・ホプキンス大学の Karlin 教授が開発)を触媒として一緒 にナノサイズの細孔を持つシリカ-アルミナに閉じ込めました。このナノ粒子を用いると、太陽エネル ギーを利用してパラキシレンという分子と酸素から有用な化学物質であるパラトルアルデヒド(医薬、 農薬、顔料、香料、液晶、樹脂添加剤等への利用が期待され、安価で簡便な工業的製造法が求められ ています。)を選択的に得ることに成功しました。シリカ-アルミナの中には様々な触媒を閉じ込める ことができるので、この研究成果は、太陽エネルギーを有用な化学エネルギーへ変えるための重要な ステップとなります。
【図】シリカ-アルミナ細孔内に創出された人工光合成分子複合系 人工光合成分子(左)に光が当たると電荷分離状態(真ん中)となり、触媒分子(右)と協同し て働くことで、キシレン、酸素をパラトルアルデヒドと過酸化水素へと変換する。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究では、太陽エネルギーを効率よく蓄えることができる分子と触媒分子を複合化するための技 術を開発しました。この技術により、パラキシレンを酸素化してパラトルアルデヒドを高い効率で得 られることが分かりました。この技術は、太陽エネルギーを化学エネルギーとして蓄える人工光合成 の実現に向けて大きな一歩となります。さらに様々な触媒と組み合わせて用いることで、太陽エネル ギーを高エネルギー化学物質の中に貯蔵することが可能となり、これは化石燃料に頼らない持続可能な社会の実現へと繋がることが期待されます。
2 論文名
“Formation of a long-lived electron-transfer state in mesoporous silica-alumina composites enhances photocatalytic oxygenation reactivity” (メソ孔を持つシリカーアルミナ複合体内での長寿命電子移動状態の形成により光触媒的な酸素化反 応への活性が向上)
Proc. Natl. Acad. Sci., USA 109, 印刷中 (2012) 参考文献
1.“Electron-transfer state of 9-mesityl-10-methylacridinium ion with a much longer lifetime and higher energy than that of the natural photosynthetic reaction center.” J. Am. Chem. Soc. 126, 1600 (2004)
2.“Structural change upon photoinduced electron transfer of a donor-acceptor dyad detected by X-ray.” J. Am. Chem. Soc. 134, 4569 (2012).
本件に関する問い合わせ先
福住 俊一(ふくずみ しゅんいち)
大阪大学 大学院工学研究科 生命先端工学専攻 教授(下:研究所メンバー)
福住俊一 (ふくずみ しゅんいち、1950年1月18日(名古屋生まれ)-)は、日本の物理化学者である。大阪大学教授。
経歴
1973 東京工業大学 化学工学科 卒業
1978 東京工業大学 理工学研究科 博士号取得
1978-81 インディアナ大学 博士研究員 (J.K.Kochi教授)
1981-92 大阪大学工学部 助手
1992-94 大阪大学工学部 助教授
1994 大阪大学大学院工学研究科 教授
2005 日本化学会賞
2011 紫綬褒章