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必見!智慧得(519)「前野洋平&中山喜萬/日東電工開発のヤモリテープ」

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カーボンナノチューブを用いた「ヤモリテープ」(前野洋平氏の学術論文)http://www.nitto.co.jp/rd/report/2009_90/pdf/2009_90_11.pdf …写真有り

「ヤモリの足」から生まれた最先端のテープ  :日本経済新聞

 生物や植物などの持つ構造や仕組み、形状などを工業製品に応用しようという生物模倣技術(バイオミメティクス)の研究や製品展開が急速に盛り上がっている。日東電工はヤモリの足の裏にヒントを得た接着テープ「ヤモリテープ」を開発した。ナノテクノロジーの進化で、生物が持つ微細構造を忠実にまねることができるようになったことが技術開発を後押ししており、利用範囲は一気に広がりそうだ。

カーボン・ナノチューブを並べた「ヤモリテープ」の電子顕微鏡写真

 日東電工が開発したヤモリテープは、直径数ナノ〜数十ナノメートルのカーボン・ナノチューブを1平方センチメートル当たり100億本の密度でびっしり並べたもの。せん断方向の接着力に優れ、わずか1平方センチメートル程度の面積のテープで500グラムを保持できる。これはヤモリの接着力の8割強程度だが、実用的な接着テープとしては遜色ない。それでいて、めくれば簡単に剥離できる。従来の粘着テープのように粘着剤が残ることはなく、テープ自体も繰り返し利用できる。

 ヤモリの接着の仕組みが解明されたのは、2000年ごろのことという。電子顕微鏡でヤモリの指先を観察したところ、足の裏に細かな毛が1平方メートル当たり10万〜100万本の密度で密生しており、さらに先端が100〜1000本程度に分岐した構造を持つことが分かった。先端の分岐した毛の密度は、同10億本以上。この細かな毛の1本1本が、対象物に極めて近い距離まで接近するため、原子や分子間に働くファンデルワールス力によって接着する。

ヤモリの足の微細構造

 「この構造が重要な要因だと分かった」(日東電工研究開発本部新機軸探索グループ主任研究員の前野洋平氏)。日東電工は、当時の研究の最先端を走っていた米カリフォルニア大学バークレー校に前野氏を派遣。同校で先端部の細い毛が密集した構造をポリイミド繊維で再現してみたところ、繊維同士がファンデルワールス力で凝集してしまい、接着機能が発現しなかったという。ヤモリの足先の毛が先端部だけが細かく分かれているのは、凝集を防ぐという意味があったのだ。

 前野氏らは、先端だけを分岐させる代わりに、高剛性の材料を使うことで凝集を防げると考えた。大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻教授の中山喜萬氏らと共同で、カーボン・ナノチューブを毛のように並べたテープを開発した。カーボン・ナノチューブは直径が極めて小さく、非常に細長くできて剛性は高い。微細加工を施した基板上で生成条件を制御すると、一方向にそろって成長する。これを溶融状態のポリプロピレン基板に埋め込むことでテープ状とした。こうして、これまでとは全く異なる接着機構のテープが生まれた。

 カーボン・ナノチューブを使うことから、現時点では、高価で大量供給が難しいという難点もある。このため、利用分野は当面、分析試料固定用テープに限っている。今後、量産技術を向上させ、低コスト化を図って15年の一般販売を目指す。

 壁や天井などを自由に歩き回るヤモリの足は、世界の接着関係の技術者が競って研究開発を進めてきた対象だ。物質・材料研究機構(NIMS)環境・エネルギー材料部門ハイブリッド材料ユニットインターコネクト・デザイングループリーダーの細田奈麻絵氏が調べたところでは、ヤモリの接着メカニズムの関連論文は05年から07年にかけて急増した。

ヤモリの接着メカニズムに関する発表論文数(NIMSの細田氏の資料を基に「日経ものづくり」が作成)

 基本原理が発見・解明されてから5〜7年すると、それを工学的に応用する研究が大きく進む。これはヤモリに限らず、「ハスの葉の撥水(はっすい)効果」「モルフォ蝶の構造発色」といったテーマでも同様であるという。

 しかも、生物の微細構造を応用する材料系の論文が多かった。材料は、液晶用光学フィルムで日東電工が世界1位のシェアを持つなど、日本企業が強い分野。さらに東北大学大学院環境科学研究科教授の石田秀輝氏らは、日本は生物模倣の研究では有利であると見ている。自然は人間がコントロールすべきという西洋的な発想よりも、人間は自然の一部であるとする東洋的な自然観の方が、生物模倣技術との親和性が高いと考えているからだ。

 日本企業ではシャープが、08年から生物の形状を部分的にまねて効率や性能を高めた製品、例えば「猫の舌にヒントを得たサイクロン掃除機」「海を渡る蝶にヒントを得た扇風機」などで生物模倣技術の活用を加速させている。積水化学工業も木陰を模した屋外施設用日よけ材「エアリーシェード」を発売している。

 海外でも、生物模倣技術への関心は高まりつつある。中でもドイツは研究者も多く、11年にはドイツ政府の後押しで生物模倣技術の国際見本市が開かれたほどだ。生物模倣技術の概念や定義を明確化しようと、国際標準化に向けた活動を主導している。米国でも10年にサンディエゴ動物園からの委託で生物模倣技術の将来の経済効果についてレポートが報告され、25年に年間3000億米ドルの国内総生産、160万人の雇用創出があると予測されている。

 20世紀中に物理や化学の基礎研究において大きな発見が一段落し、現在は基礎理論による大きなブレークスルーは得られにくくなっているといわれる。その状況の中で、生物模倣は原理面で製品のイノベーションを推進する有力な手段になっている。

(関連記事を日経ものづくり5月号に掲載)

参照:
最先端のナノテクノロジー技術が生んだ構造発色繊維

「モルフォテックス」

http://www.teijin.co.jp/recruit/career/rd/pdf/teijin_labo_03.pdf

自然の知恵を応用した新発想のフラクタル日よけ「エアリーシェード」

SP201109 積水化学工業「エアリーシェード」

フラクタル・ピース

動物・昆虫にヒント「バイオミミクリー」 ネコの舌が掃除機に−−突起でゴミ絡め取る 

シャープが昨年10月に発売した新型掃除機「EC―WX300/VX300」(市場想定価格7万5000〜9万円)は、 

ネコの舌の特徴をまねた機能を取り入れた。吸い込んだほこりなどのゴミを圧縮する回転羽根の表面に、 
ざらざらしたネコの舌のように幅1ミリ程度のとげ状の突起が並ぶ。これがほこりなどを絡め合わせゴミを 
10分の1に圧縮し、ゴミ捨ての手間を大幅に省く仕組みだ。 

 開発した大塚雅生(まさき)・主任研究員(41)が注目したのは、毛繕いをするネコが舌で 
絡め取った毛玉をいったん飲み込み、吐き捨てる習性。「毛玉をまとめて捨てる点が製品にマッチした」 

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