こいつあー、春から、縁起がいいねえ!
「太陽光発電は高コスト」との認識は急速に過去のものとなりつつある。需要者目線に立った新しい太陽光発電ビジネスの台頭で設置コストが急激に下がっているからだ。
この傾向が定着すれば補助金は不要になる。2012年7月には再生可能エネルギーの全量固定価格買い取り制度(FIT)がスタートするが、将来的には買い取り価格の高値維持は必要なくなる。
驚きの安さ家庭用太陽光発電の工事費を含む設置コストは、2010年の実績で1kWあたり60万円以上だった。これを金利3%、20年償却の前提で発電コストに換算すると40円kWh/以上になる。家庭用電力料金の24円と比較すると現状は非常に高くつく。
発電コストが高くなる一因は、これまで太陽光発電のビジネス形態がパネルメーカー主導の閉鎖的なシステムで、販売方法などが非効率であったことだ。コスト問題を乗り越えるには、需要側の利益を最大化する新しいビジネスモデルを構築する必要がある。
この点で期待できるのが、メーカーから独立したシステムインテグレーター(SI)主導によるビジネスモデルである。これまでの商習慣にとらわれることなく、太陽光パネルも海外メーカー品を扱うなど世界から最適な機材を調達する。ユーザーへの販売方法も大幅に簡略化している。グローバルな調達戦略でこれまでの常識を打ち破る低コスト化の道筋が見えてきた。
最近、フジワラ(千葉県鎌ケ谷市)とエイタイジャパン(同)の共同による千葉県の販売事業者グループが29万円/kW(4kWタイプ)という家庭用太陽光システムを発売した。これは私が知る限りの最安値だ。発電コストに換算すると実に19円/kWhという驚異的な安さになる。
太陽光発電はこれまで、電力会社の電気料金同等(グリッド・パリティ)の24円を目指してきたが、これより30%も安い発電コストをあっさりと実現してしまった。販売実績はまだ少ないが、今後急速な拡販を目指して体制を整備しているところだという。
ビジネスプロセス刷新による低価格化
この低価格は外国製パネルの活用に負うところが大きいのだが、工事の標準化による生産性向上の効果も見逃せない。広い土地に太陽光パネルを敷きつめるだけのメガソーラーと違い、住宅向けは屋根の形状や強度、日照条件などに合わせた工事が必要になる。これをできる限り標準化し、工事業者の教育などを通して30〜50%程度の工事コスト削減に成功している。
コスト削減の状況
太陽光パネルについては残念ながら、現時点では日本メーカーの価格競争力は高いとは言えない。ヨーロッパ市場で激戦を繰り広げてきた中国勢、韓国勢に加え、最近はインドメーカーも日本市場開拓に力を入れている。迎え撃つ日本勢はこれまで国内市場が中心の温室育ちで、価格では海外勢に太刀打ちできそうにないのが現状である。
日本メーカーの巻き返しには期待したいが、太陽光パネルは国際商品であり、メーカーの国籍によらず最適なものを使う姿勢が大事だろう。「日本製」といっても今後は、外国製品のOEM版や海外工場製が増えてくる。日本は技術立国で貿易立国だと言うのなら、競争力の強い産業がどんどん輸出する一方で、弱い産業は保護するのでは世界から理解されない。
買い取り価格よりも買い取り保証ところで、29万円/kWのパネルを設置したときの経済性はどのようなものか。
日本の戸建て住宅用の平均である3.3kWを設置する総費用は96万円になる。このサイズの年間発電量は約3500kWhだ。このうち40%を自家消費して、この分で電力会社の電気料金24円を節約したと考え、残り60%を余剰分として42円で電力会社に売電すると合計で年間12万円の“収入”となる。つまり、8年で投資の元がとれる計算だ。固定買い取り期間が仮に10年なら、その間に20万円以上の“儲け”が出る。
この価格で広く普及が可能になれば、太陽光発電への補助金は不要になる。FITの買い取り価格を相当に下げても普及は進む。グリッド・パリティである24円まで買い取り価格を下げても、12年で投資を回収できるのである。補助金や高値買い取り制度があれば普及が加速することは間違いないが、補助金は納税者の負担になり、高値買い取りは電力料金のアップにつながる。本格普及には早期の“経済的自立”がなんといっても重要だ。
千葉のケースは突出した事例だが、ほかにも設置コストで40万円/kW(発電コスト27円/kWh)を下回るような案件が続々と出始めており、太陽光発電の経済的自立は目前といえる。
ただ、買い取り制度自体は自立後も必要だ。太陽光発電は晴れた日の昼間は発電量が余剰になり、夜や悪天候時には不足する。したがって、当面は電力会社との電力の売買はなくせない。買い取り価格は安くても買い取りを確実に保証する必要は残る。
住宅用太陽光発電の設備価格の動向
太陽光発電の弱点を補う蓄電池
「当面」と言ったのは、充電用バッテリーが普及すれば事情は変わるからだ。
バッテリーが家庭に行きわたれば、余剰発電分を電力会社に売却する必要はなくなる。夜間や雨天時には貯めた電気を使えばいい。電力の自給自足、自産自消を実現できる。電力会社に頼るのは、梅雨時など日照不足が続く時だけになる。
実際、太陽光発電の本格普及には家庭用バッテリーは不可欠である。太陽光による発電量が今後増加していくと、系統を不安定にする電力の逆潮流が問題になるからだ。
太陽光発電の調整用でバッテリーのニーズはまだ顕在化していない。だが、3.11以降、非常時用電源として家庭用バッテリーの発売が相次いだ。これは将来の太陽光発電の大量普及を後押しするものになるだろう。これまでの「電気は貯められない」という常識も過去のものになりつつある。
ただ、大量普及を考えたとき、それを支えるバッテリーは太陽光発電の新たなコスト要因になる。
原子力発電のコスト算定で、揚水発電コストも加算すべきという議論がある。理由は原発と揚水発電は仕組みとしてセットになっているケースが多いためだ。原発は電力需要の小さい夜間も止められない。その余剰電力で水を下池から上池に汲み上げて位置エネルギーとして蓄え、昼間の需要がピークの時に上池から下池に水を落として発電するのが揚水発電だ。
原発のコストに揚水発電コストを加算するのと同じ理屈で、太陽光発電のコストにバッテリー費用を加算する必要が出てくる。容量4kWh程度のバッテリーに昼間の発電による余剰電力で充電しておけば、夜間の使用には十分である。問題はバッテリーコストが現時点では高く、容量4kWhで80万円〜160万円にもなることだ。千葉で実現した19円/kWhも、バッテリー代を80万円として上乗せすると一気に35円/kWh程度まで跳ね上がってしまう。
太陽光の普及には今後、併設するバッテリーへの補助金、あるいはバッテリー代込みのコストをベースにした買い取り価格の設定を考える必要があるだろう。
それでもコスト負担の問題は長期的には心配ない。バッテリーの必要性が高まる10年後には、価格は現在の10分の1程度に下がるとみている。太陽光発電の設置総コストはバッテリー込みでも30万円/kWを切るようになり、発電コストも20円/kWh程度まで下げられると予想する。
バッテリー価格の低下を待たずとも、実質「無料」で家庭用バッテリーを装備する方法がある。電気自動車(EV)に搭載されているバッテリーを家庭用に流用するのである。三菱自動車の「i-MiEV」のバッテリー容量は16kWhで、日産自動車「リーフ」の場合は24kWhもある。一般家庭の1.5〜2日分の電気を蓄えることができる。
カギを握るEVのバッテリー
EVに搭載したバッテリーを家庭用にも使うアイデアは、2009年の「i-MiEV」発売前からあったが、実現は遅れていた。
しかし、3.11以降、全国的な電力不足を受けて、EVの駆動用バッテリーを事務所や家庭で使うためのシステムの開発が進んだ。車載あるいは外付けのインバーターを組み合わせる。複数の改造EV事業者が大手自動車メーカーに先んじて取り組み、いくつかのシステムがすでに登場している。
EVを家庭用電源に
三菱や日産も同様の技術を開発中で、2012年前半には実用化される見通しである。そうなると、EVを購入すれば追加コストゼロで高性能・大容量の家庭用バッテリーを同時に手に入れることになる。
三菱はさらにHEMS(家庭用電力マネジメントシステム)対応の、より高度なシステムをシャープと共同で開発している。三菱は「i-MiEV」のバッテリーから100Vの電気を供給する仕組みを、シャープはEVバッテリーと太陽光発電を連携させるための「インテリジェントパワーコンディショナ」を開発中だ。
太陽光発電とEVのコラボレーションが多くの家庭に広がり、地域全体に拡大していけばスマートグリッドのベースができあがる。
将来は使用済みになったEVのバッテリーを集めて地域の蓄電設備に再利用し、地域の再生可能エネルギーの導入や電力融通に役立てる構想もある。EVメーカーは、10年使用したバッテリーの劣化率は概ね20%程度とみている。定置用としては十分使用可能だ。
今回、工事費込みで1kWあたり29万円(発電コスト19円/kWh)という低コスト太陽光システムを紹介したが、これ以外にもこれまでの常識を破る低価格のシステムが続々と出ている。
「太陽光発電は高コスト」はすでに過去の話になった。今回の低コスト実現の背景には世界的なパネルの供給過剰や歴史的な円高などの要因もあり、一時的には反動があるかもしれない。しかし、低コスト化の大きなトレンドは変わらない。
脱原発・減原発の検討が進む中、日本の電力の主役の座を目指す太陽光発電のダッシュが始まった。
太陽光発電とEVによるスマートハウス