京大ら、青ジソから老化やメタボ予防に有望な生体内抗酸化力高める成分を発見 (発表資料)bit.ly/MnFqQF pic.twitter.com/6XD1Ryti
老化防止物質:青ジソから発見 健康食品への応用に期待− 毎日jp(毎日新聞)
京都大薬学研究科の久米利明准教授(薬理学)らは6日、がんや老化、メタボリック症候群の原因とされる活性酸素の働きを抑えるDDCという有機物質を、青ジソから発見したと発表した。健康食品への応用が期待できるという。米科学誌に15日掲載される。
酸素の一部は活性酸素となって細胞を傷つけ、老化を促進する。通常は体内のビタミンやポリフェノールが活性酸素を中和するが、喫煙や大気汚染、ストレスなどでバランスが崩れると、生活習慣病などを引き起こすとされる。
研究グループは桃やリンゴなど12種類の果物や野菜の成分を抽出し、培養したラットの細胞に加え、酸化を抑える酵素の働きを調べた。その結果、青ジソから抽出したDDCを加えると、酵素の活性化を示す指標が約70倍になった。他の野菜類は数倍程度だった。さらに、化学合成したDDCにも同様の働きがあることを確認した。
久米准教授は「青ジソ1枚に含まれるDDCはわずか。青ジソそのものを食べるより、化学合成して食品に加えるなどの活用方法が有効だろう」と話している。【榊原雅晴】
青ジソから老化やメタボリックシンドローム予防に有望な生体内抗酸化力を高める成分を発見 — 京都大学
左から久米准教授、泉助教、入江教授
久米利明 薬学研究科准教授、泉安彦 同助教、赤池昭紀 同客員教授、入江一浩 農学研究科教授らの研究グループは、株式会社セラバリューズ、独立行政法人医薬基盤研究所、同志社大学生命医科学研究科、同志社女子大学薬学部、名古屋大学創薬科学研究科との共同研究で、6種類の果汁および6種類の野菜から酸化ストレスの抑制に有効な成分を探索した結果、青ジソから新規有効成分2',3'-dihydroxy-4',6'-dimethoxychalcone(DDC)を見出し、細胞において顕著な抗酸化効果が得られることを確認しました。
このことは、老化やメタボリックシンドローム、神経変性疾患など酸化ストレスが関わる疾患に対する新しい予防薬の開発につながるかもしれません。
本研究成果は、米国科学雑誌「Free Radical Biology & Medicine」(Impact Factor:5.423)に8月15日に掲載されます。
研究の背景生物は呼吸をして体内に酸素を取り入れて利用することで生命を維持しますが、そのうち一部が不安定で様々な物質と反応しやすい活性酸素種に変化します。体内では活性酸素種を消去・軽減するための仕組みが働いていますが、活性酸素種が大量に発生してそのバランスが崩れると生体内分子を攻撃してしまう酸化ストレスという状態になるのです。活性酸素種により攻撃を受けた生体内分子は酸化されてしまい、多くの場合、その機能が損なわれます。したがって、過度な酸化ストレスの抑制は健康な生命活動の維持に重要なのです。
生体を酸化ストレスから防御するには、活性酸素種と直接反応し、除去できるビタミンC・Eやポリフェノールなどの抗酸化物質を大量に摂取する方法と生体内の抗酸化酵素の発現を上昇させる方法が挙げられます。しかしながら、前者の抗酸化物質の生体内濃度を高く維持するのはなかなか困難です。後者の抗酸化酵素を発現誘導する生体内抗酸化システムとしてNrf2-ARE経路が知られています。転写因子であるNrf2は通常Keap1と結合し細胞質に留められていますが、生体が酸化ストレスに晒されると核内に移行し遺伝子の上流に存在するARE配列に結合することで、グルタチオンペルオキシダーゼ、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)、カタラーゼなどの抗酸化酵素やNAD(P)Hキノンオキシドレダクターゼ1(NQO1)などの第二相薬物代謝酵素の発現を誘導します。このNrf2-ARE経路を低分子量化合物で活性化できれば、生体は酸化ストレスに対して抵抗性を獲得した状態を維持できると考えられます。
近年の研究から、老化や発がん、メタボリックシンドローム、動脈硬化、心筋梗塞、アルツハイマー病やパーキンソン病など様々な疾患の病態形成の一因として、酸化ストレスが関与すると考えられています。さらに疫学調査から、果物や野菜の摂取はこれらの疾患を予防する効果が期待できることが示唆されています。今回、研究グループは、身近な食品に着目し、生体内抗酸化機能の亢進に有効な新規成分の探索およびその機能解析を行うことを目的としました。
研究成果の概要果汁サンプルとしてピーチ、りんご、ストロベリー、クランベリー、ラズベリー、温州みかんを、野菜サンプルとして青ジソ、モロヘイヤ、春菊、セロリ、パセリ、赤ジソを用いて、Nrf2-ARE経路の活性化作用を有する化合物を探索しました。これらの果汁・野菜サンプルをジエチルエーテルにより抽出し、Nrf2-ARE経路の活性化作用を検討したところ、青ジソ抽出物が強力なARE活性の上昇を誘導しました(図1)。青ジソ抽出物中の活性成分を逆相HPLCにより単離・精製した後、核磁気共鳴(NMR)や質量分析(MS)による構造解析を行ったところ、活性成分の構造は2',3'-dihydroxy-4',6'-dimethoxychalcone(DDC)であると推定されました。そこで、化学合成したDDCはARE活性化を誘導し、Nrf2-ARE経路により制御される抗酸化タンパクが増加しました。以上の結果から、青ジソ中にNrf2-ARE経路の活性化作用を有するDDCが含まれることを発見しました(図2)。DDCは、熱帯に生息するバンレイシ科の植物の葉よりすでに発見されていましたが、青ジソのような身近な食品に含まれることは報告されておらず、またその薬理作用に関する検討は今回が初めてです。
青ジソ抽出物によりNrf2-ARE経路が活性化されるのが確かめられた。
図2:青ジソより見出されたNrf2-ARE経路活性化物質
2',3'-dihydroxy-4',6'-dimethoxychalcone(DDC)の化学構造式
酸化ストレスに対するDDCの有効性を評価するために、酸化ストレスを引き起こす細胞毒6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)を用いて、機能解析を行いました。DDCを予め処置しておいた細胞は、6-OHDAによる毒性に対し顕著な保護作用を示しました。また、6-OHDAにより増大した細胞内活性酸素量は、DDCにより抑制されることを確認しました(図3)。
図3:細胞内活性酸素種の定量
6-OHDAは活性酸素種(緑)を増加させるが、DDCを予め処置することにより抑制されるのが確かめられた。
図4:本研究成果の概念図