(4)大阪ガス、シェールガスで先行 自由化見据え権益確保 :日本経済新聞
電力と並び規制業種の代表格の都市ガス。将来予想されるガス小売りの完全自由化に備え、大阪ガスは海外で天然ガスの権益への投資を加速している。都市ガスの原料を割安で調達し、近畿圏外で販売することで、収益拡大を狙う。
米のLNGに的
「安い液化天然ガス(LNG)をいかに持ってくるかが勝負」。経営企画担当の北前雅人副社長は経営の勘所をそう表現する。
日本が輸入するLNGは原油価格に連動して値決めされるため、価格が高止まりしやすい。LNGの調達コスト削減策として、大ガスが業界内で真っ先に目をつけたのが新型天然ガス「シェールガス」だ。
7月末、中部電力と共同で2017年にも米国からシェールガスなどを加工したLNGを輸入すると発表した。米国の天然ガスは原油価格に連動しない。米政府の輸出許可が前提だが、今の価格水準なら3割程度安く調達できる。
米国産LNGを巡っては三井物産・三菱商事、住友商事・東京ガス連合がそれぞれ米社と交渉中。ただ合意には至っておらず、正式契約した大ガス・中部電が先んじた格好だ。
「大ガスは総合商社の領域に踏み込みつつある」。業界関係者は大ガスの変身ぶりに驚く。6月末には約200億円を投じ米テキサスでシェールガス権益も取得。主に北米向けだが、将来は日本への輸出も検討する。北前副社長は「欧州でも権益などの売却話がある」として、さらなる権益獲得を示唆する。
将来の自由化に備え、LNGの供給力を高めていく(大阪府内のLNG基地)
大ガスは海外エネルギー事業の売上高を20年度に11年度比約20倍の2200億円に伸ばす目標を掲げる。LNG使用量に占める自社確保分は約1%の10万トン(10年度)だが、20年度には150万トンに増やす。他のエネルギー企業に比べ、海外の「川上ビジネス」に積極投資する姿勢が際立つ。
自社権益比率が高まれば調達コストの低減は見込めるが、鉱区での事故発生による損失などリスクも同時に高まる。大ガスを海外エネルギー事業投資に駆り立てるのは人口減が続く近畿圏のガス需要が伸びないことが最大の要因だ。12年度のガス販売量見通しは前年度比0.7%減と北関東に供給区域を広げる東京ガスに比べ成長余地に乏しい。
子会社が貢献
一方、新規事業に積極的に取り組む社風も背景にある。子会社のグループへの業績貢献度を示す「連単倍率」を見ると東京ガス1.3倍、大ガス1.8倍。数値が高いほど子会社の貢献度が高い。大ガスは都市ガス事業を核に食品や情報通信分野などに多様な子会社群を形成してきた。新領域に果敢に踏み込んでいく経営姿勢が海外エネルギー事業にも反映している。
大ガスは海外のシェールガス権益を武器にLNG供給者としての地位を固め、国内の他地域へ参入する。まず沖縄電力には今年度、静岡ガスには14年度にLNGの卸売りを始める。
近畿圏では14年までに兵庫県姫路市〜岡山市、三重県四日市市〜滋賀県多賀町間に500億円以上を投じて天然ガスのパイプラインを敷設し、主に産業用ガス需要を開拓する。海外でのエネルギー権益拡大を国内事業にどう還元し、成長軌道にのせるか。大ガスの新戦略に国内のガス事業者が注目している。(中戸川誠)