(8)ブリヂストン、タイヤに新たな原材料 安定調達で収益確保 :日本経済新聞
ブリヂストンはタイヤの原材料を大幅に見直す。2050年をメドにゴム原料のほぼ半分を占める石油の使用をゼロにし、従来型天然ゴムの使用比率も低減。材料の再利用や新しい植物原料で置き換える。自動車の普及でタイヤ需要が増えても原材料の需給が逼迫、価格高騰リスクも高まる。独自の原材料技術を育成し、高収益の維持を目指す。
張り替えで新しい原材料使用を3分の1以下に
7月、米国アリゾナ州で、東京ドーム24個分(約113.7ヘクタール)の試験農場を購入した。栽培するのは「グアユール」という聞き慣れない木。乾燥地帯で育ち、幹からゴムが取れる。品種改良を進め、3年後から試験生産をはじめる。
タンポポも活用
現在、天然ゴムは「パラゴムノキ」からの抽出が主流。東南アジアでしか栽培しておらず「病気や異常気象で高騰するリスクがある」(森田浩一中央研究所長)。グアユールはパラゴムノキと栽培可能な場所が重ならず、実用化すればリスク分散になる。
タンポポの一種「ロシアタンポポ」からゴムを生産する技術開発にも着手。味の素と共同で微生物を使って植物からゴム成分を作り出す開発も始めた。開発コストはかかるが、津谷正明最高経営責任者(CEO)は「調達ソースを増やせば原料調達コストを安定させられる」とみている。原材料を切り替えても安全性や耐久性などタイヤの機能を向上できる開発も進める。
ブリヂストンの業績は好調だ。12年1〜6月期連結決算は営業利益が過去最高の1338億円を計上。通期も営業、経常とも最高益更新を見込む。売上高は仏ミシュランを抜き世界最大で利益もほぼ並ぶ。50年には世界の自動車保有が現在の約2倍の20億台になる見込みで、タイヤ需要は安泰にみえる。
だが、需要増が収益に結びつくとは限らない。需要が増えるほど原材料が不足し、原材料メーカーの価格交渉力が強まる。中国などの需要が増えた10年から11年は天然ゴム価格が急騰、ブリヂストンなどはタイヤを値上げした。
12年の全社の研究開発費は850億円。新しい原材料の開発へ重点的に資金や人材を振り向け、安定調達できる体制をいち早く構築。ミシュランなど2位以下を引き離す考えだ。
「張り替え」に力
原材料見直しのもう一つの柱がタイヤの再利用。力を入れているのが、すり減った表面のゴムを張り替えて再び使うリトレッド(張り替え)サービスだ。新品タイヤに比べ新しい原材料の使用は3分の1以下ですむ。新品タイヤを販売後、担当者が顧客の運送会社を訪問し、タイヤの状態を調べて寿命を判断。時期が来たら張り替えを提案する。
07年に約1300億円を投資し、同事業を手掛ける米社を買収、世界で事業を展開している。今後は中国などで拠点数を拡大する計画だ。積極的な投資を通じ、原材料の使用量の大幅削減を目指す。
原材料の見直しは、世界のタイヤ大手も力を入れている。仏ミシュランは米ナスダック上場のベンチャー企業アミリスと、3位の米グッドイヤーはデュポン子会社とそれぞれ提携。タイヤに使うゴム原料の新しい技術開発を始めた。
ブリヂストンは他のタイヤ大手に先駆け、石油を使わないタイヤの新製品を20年に発売する計画だ。世界のタイヤ市場で将来まで勝ち続けられるか。その行方は原材料改革の成否にかかっている。
(庄司容子)