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メモ「電力供給綱渡り 甘い需給計画/韓国」

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韓国、電力供給綱渡り 甘い需給計画、節電迫る 強みの安さ帳消し :日本経済新聞

 【ソウル=島谷英明】韓国が綱渡りの電力供給を強いられている。政府が長期的な需要の増大を見誤って供給拡大が追い付かなくなり、安定供給が懸念される状況は少なくとも2013年まで続く。日本などに比べ安い電力料金は自由貿易協定(FTA)網拡充とともに韓国が海外から製造業を誘致する武器。だが、電力自体が不足しているという弱点があらわになっている。

電力需給を管理する電力取引所(8月6日、ソウル市内)=聯合・共同

電力需給を管理する電力取引所(8月6日、ソウル市内)=聯合・共同

 8月6日午前。電力需給を一括管理する「電力取引所」(ソウル市内)の大型スクリーンに非常事態を知らせる警報が点滅した。全国各地の気温が朝から30度を超える猛暑で冷房需要が急伸。予備電力が安定目安を大きく下回る300万キロワット未満に落ち込んだ。

 需要ピークは午後2〜3時。担当閣僚の知識経済相が記者会見で「なおいっそうの節電をお願いしたい」と呼び掛けた。韓国電力公社はあらかじめ電力不足時の使用抑制契約を結んでいた企業にその実行を要請した。

 

あわや輪番停電

 

 需要管理策がなければこの日の予備電力は149万キロワット程度まで落ち込んでいた。100万キロワット未満になれば、全国一斉停電の「ブラックアウト」を避けるために地域を区切って電力供給を順次停止する輪番停電に追い込まれていた。

ソウル市内の街角に設置された電力需給状況を示す表示板

ソウル市内の街角に設置された電力需給状況を示す表示板

 韓国では夏の暑さのピークは過ぎたとみられるが、安心するのは早い。昨年9月15日、不意の残暑に見舞われて電力が枯渇。全国的に予告無しの大停電が発生し、市民生活や企業活動は大混乱に陥った。

 今冬はさらに事情が悪化する。予備電力は最少93万キロワットと払底寸前まで低下する見込み。韓国は夏の暑さより冬の寒さのほうが厳しく、日本とは違って冬場の電力消費が大きくなる。

 電力の逼迫は「大型発電所が完成する前の13年まで続く」(知識経済省)。政府の予測では13年までは供給予備率が安定目安の10%に届かない。需要抑制策をとらない基準でみると、10%を上回るのはさらに先の16年まで延びる。

 韓国はなぜ構造的な電力不足に陥っているのか。エネルギー経済研究院の李根●(かねへんに大、イ・グンデ)室長は「産業用を中心に需要の増加が政府予想を上回り、供給力拡大が遅れているため」と指摘する。主要メディアは需給計画を誤った政府などの「人災だ」(朝鮮日報)と批判している。

 06年の政府の「第3次電力需給計画」は20年の電力需要を最大7180万キロワットと見積もっていた。だが8月7日にはすでに7426万キロワットにまで達し、時間軸でも規模でも予想は大きく外れた。

 予測の狂いはすぐに補えない。発電所の新設は円滑に進んでも5〜10年はかかる。しかも5年前に計画されていた発電所新設のうち、地元住民の反対などで約700万キロワット分の建設が遅れたり、中止になったりしている。この結果、発電能力は08年からの3年間で約5%増えただけなのに対し、電力需要は産業用を軸に15%以上も伸びた。

 韓国の電気料金は産業用で日本に比べほぼ3分の1の水準。電気料金の安さが魅力となって韓国に進出した日本の製造業も多いが、そもそも安定供給が確保されなければ元も子もない。

 

料金上げの圧力

 そのうえ電力需要全体の半分を占める産業用の料金には需給問題と絡んで値上げ圧力が働いている。8月6日実施の平均4.9%の料金引き上げでは、家庭向けを2.7%に抑えた半面、産業用は6%と重くした。

 08年から赤字が続く韓国電力がさらなる値上げを探るなか、世論は消費者団体を中心に「値上げは家庭用より安い大企業向けの負担を重くすべきだ」との主張が勢いを増している。経済界は「家庭用と産業用の料金格差は主要国の中で小さい方だ」(全国経済人連合会)と反論するが、電気料金の安さを国際競争力の向上に生かしてきた韓国製造業への逆風は強まりそうだ。

 

<MEMO>公社の赤字が支える低料金

 韓国で電力事業をほぼ独占している韓国電力公社。単独ベースでは2008年12月期から赤字経営が続き、今年1〜6月期も4兆3500億ウォン(約3000億円)の営業損失を計上。上場会社で最大の赤字となったもようだ。

 主因は、燃料費上昇などで電気料金が原価を下回る状態が続いていること。しかし、8月実施の4.9%値上げは韓電が当初希望した13.1%を政府が抑え込み、原価未達の状況はなお続く。

 韓国では昨年に電気料金の燃料価格スライド制が導入されたが、政府は適用を留保。李明博(イ・ミョンバク)政権が支持低下を恐れ、値上げにはリストラなど韓電の努力が必要とけん制している。

 韓電は国が政府系金融機関と発行済み株式の51%超を保有。“暗黙の政府保証”で赤字でも資金繰りに困ることは事実上ないとみられる。だが、原価を賄えない料金体系で生まれた損失は、最終的には利用者であり納税者でもある国民に跳ね返る。


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