21世紀半ばまでかかる東京電力福島第1原子力発電所の廃炉作業には、世界でも経験のない難しい工程が待ち受ける。政府と東電、原子炉メーカーなどを中心にオールジャパン体制で取り組む計画だ。
まず原子炉内の核燃料の状態を把握しなければならない。1〜3号機では核燃料の大半が圧力容器から格納容器に溶け落ちたとみられるが、詳細は不明。現在の廃炉工程では2018年度にも格納容器内にカメラを入れて溶融燃料の状態を調べることになっている。
福島第1原発4号機では廃炉に向けがれき撤去が始まっている
続いて溶融燃料を回収する。放射線を遮蔽するため、格納容器を「冠水」しなければならない。まず、遠隔操作ロボットの開発から始め、格納容器の損傷場所を割り出し水漏れをふさぐ。その後、20年度をメドに格納容器を水で満たし、22〜27年にも燃料を回収する。
最後に原子炉や建屋を解体する。原子炉は高い放射線を発するため、専用ロボットが必要。建屋を更地に戻し、廃炉が終わるのは40〜50年ごろになる見通し。
事故で飛散した放射性物質を取り除く除染も長丁場となる困難な作業だ。政府は原発事故後に警戒区域・計画的避難区域とされた福島県内の11市町村を国が除染する「除染特別地域」と定め、年間放射線量50ミリシーベルト以下の地域の除染を14年3月末までに終えるとした。
森林除染後回し
しかし、事故から約1年半たったが、本格的な除染が始まったのは7月下旬からの田村市だけ。実施計画の策定が終わったのは田村市を入れて6市町村、汚染土を一時保管する仮置き場の確保が済んだのも5市町村にとどまる。
「平地をいくら除染しても森林を除染しなければ意味がない」。本格除染やその調整が進む地域でも政府方針への不満は尽きない。
環境省は7月31日、森林除染の今後の進め方について「森林全体を除染する必要性は乏しい」として、森林での除染対象は住居から約20メートルの範囲のほか、キャンプ場やキノコの生産現場などに限るべきだとの見解を示した。
福島県内は全面積の約7割が森林。地元住民にとっては、平地を除染しても森林を除染しないと風雨で放射性物質が生活圏に降りてくるとの懸念が強い。政府がどこまで県民の意見を尊重した除染方針を示せるかは不透明だ。
放射性物質の除染で出てくる汚染土を最長30年保管する中間貯蔵施設の議論も遅れている。中間貯蔵前の仮置き場の候補地の周辺住民にとっては「中間貯蔵施設の立地場所が決まらない中で、仮置き場に何年置かれるのか」といった不安が根強い。
最終処分を警戒
中間貯蔵施設に運び込まれる汚染土は計1500万〜2800万立方メートルで、必要な敷地面積は合計で3〜5平方キロ。政府は昨年12月に原発が立地する福島県双葉郡内に1カ所設置したい意向を示したが、土地の制約などから分散設置せざるを得ないと判断、今年3月に双葉、大熊、楢葉3町に設置したいと要請した。
しかし地元には「最終処分場にされてしまう」との懸念が強い。保管期間は最長でも30年ということになっているが、なかなか理解が得られない。
政府は8月19日、県と双葉郡との協議会で、既に設置要請済みの3町内の計12カ所を具体的立地候補地として示し、現地調査を始めたい考えを伝えた。県と双葉郡側はいったん持ち帰り論点整理をすることで一致したが、「とんでもない話だ。造ることも確定していない」(井戸川克隆・双葉町長)と政府への憤りの声も上がった。
この協議会では「土の搬出元・搬入先の自治体の組み合わせ」も示された。例えば伊達市など9市町村の土は双葉町の施設に、いわき市など3市町の土は楢葉町の施設に運ぶ。搬出元の自治体にとっては除染を加速するには搬入先の施設整備が絶対条件。「互いの自治体名を明確にしたことで議論が活発になる」(環境省幹部)との思惑もある。
中間貯蔵施設は15年1月までに建設を終え、運用を始める予定。除染が進まなければ、避難生活者が帰還できない。現実を踏まえた話し合いが求められる。