がん幹細胞を叩け 臨床研究相次ぐ 慶大など、胃が対象 阪大は肝臓で :日本経済新聞
がん細胞を生み出すもとである「がん幹細胞」を標的とした臨床研究が相次いで始まる。慶応義塾大学などは胃、大阪大学は肝臓が対象で、いずれもがん幹細胞の表面にある物質の働きを抑える。現在の治療でがんが治りにくく再発しやすいのは、がん幹細胞まで叩(たた)けていないからだと考えられている。新手法で効果が確認できれば、治療の大きな進展が期待できる。
慶大の佐谷秀行教授、永野修講師と国立がん研究センター東病院の大津敦臨床開発センター長らは、年内にも胃がん患者を対象にした臨床研究を始める。患者の体内に潜むがん幹細胞の表面にあり、抗がん剤などに対する防御能力を高める働きを持つたんぱく質「CD44v」に着目した。
マウスの実験では炎症を抑える薬「スルファサラジン」と抗がん剤を一緒に投与。たんぱく質の働きを抑え、がん幹細胞が死滅しやすくなった。増殖だけでなく、転移や再発も抑えられた。臨床研究ではまずスルファサラジンを投与し、効果や安全性などを調べる。
阪大の森正樹教授らは肝臓がんのがん幹細胞を対象にした臨床研究を来年にも始める。がん幹細胞表面の「CD13」という酵素の働きを抑える白血病治療薬「ウベニメクス」を、抗がん剤「5―FU」とともに投与する計画だ。
マウスの実験では、がんは縮小して確認できなくなった。従来、5―FUを単独で投与し続けると効き目が徐々に薄れてしまうなどの課題があった。
一方、骨のがんや乳がんでもがん幹細胞を狙った治療に向けた基礎研究成果が出ている。国立がん研究センターの藤原智洋医師は骨肉腫のがん幹細胞の内部で働き、病状の悪化を招く微小RNA(リボ核酸)を3種類特定した。
このうちの1つの働きを抑えた実験では通常、抗がん剤が効きにくいがん幹細胞でも薬の効果が表れた。がん幹細胞の数が大幅に減るのを確認した。研究チームは動物実験を続け、3年後をめどに臨床試験(治験)を始める計画だ。
東京大学の後藤典子准教授は乳がん幹細胞が増殖するために作る3種類のたんぱく質を見つけた。これらはがん幹細胞の近くまで血管が伸びるよう促す役割を持っていた。この働きを妨げることができれば、がん幹細胞を兵糧攻めにできるとみている。
臨床研究や成果については19日から札幌市で始まる日本癌(がん)学会で発表する。