イプシロン開発の苦労語る 宇宙機構の森田教授講演 : 鹿児島 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
「イプシロン」の想像図(JAXA提供)
↑新型ロケットの開発について話す森田教授
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めている新型固体燃料ロケット「イプシロン」についての講演会(県天文協会主催)が9日、鹿児島市中央町の市勤労者交流センターで開かれた。プロジェクトマネジャーの森田泰弘・宇宙科学研究所教授(53)が「M5ロケットからイプシロンロケットへ〜打ち上げに向けて」と題し、新型ロケットの特徴や可能性、開発秘話などを紹介。天文愛好家ら約50人が耳を傾けた。
イプシロンは、「世界で最も高性能な固体燃料ロケット」と言われ、2006年9月を最後に廃止された「M5」の後継となる3段式固体燃料ロケット。内之浦宇宙空間観測所(肝付町)から2013年夏に1号機が打ち上げられる。搭載される小型科学衛星1号機「スプリントA」は、地球を回る衛星軌道から金星や火星、木星などを遠隔観測する世界初の惑星観測用宇宙望遠鏡だ。
森田教授は「ロケットや人工衛星は失敗のリスクを回避するため、最先端の技術ではなく完成された古い技術を使うことが多い。このため、性能を高めると大型になっていったが、イプシロンは宇宙開発以外の分野で実用化されている技術を採り入れ、性能を維持しながら小型化、低コスト化を図る」と説明。
具体的には〈1〉人工知能を搭載し、打ち上げ前の点検作業などをロケット自身で行う。発射管制もパソコン1台でできるようにする〈2〉部品を減らし、打ち上げ直前の準備期間を2か月半から1週間に大幅短縮する〈3〉第1段ロケットにH2Aロケットの補助エンジンを流用し、第2段、3段ロケットはM5までで培った技術で性能アップを図る――などで打ち上げ費用を従来の半分の約38億円に削減する。
ロケット自体で行う制御の範囲をさらに拡大してコスト削減を進め、17年には打ち上げ費用を30億円以下にするのが目標という。
数年前に学会で、ロケットへの人工知能搭載やパソコン1台での発射管制の計画を発表した際、海外の科学者や技術者には批判的な意見の人も多かった。
森田教授は「宇宙開発も性能とコストのバランスが重視される時代。費用が安くなれば打ち上げ回数も増え、宇宙がより近くなるとイプシロンで実証したい。(英国のSFテレビ番組の)『サンダーバード』ではボタン一つでロケットを打ち上げていたが、それに近づけるようにしたい」と抱負を語った。
(2012年1月10日 読売新聞) JAXA|森田泰弘 新型ロケットで実現する世界初のモバイル管制