個別の情報は聴いていましたが、時系列で予測まで示されると、もう「SF」ですね!
人工知能、東大合格に挑戦 小説執筆、感性も磨く :日本経済新聞
コンピューターは東京大学の入学試験に合格し、掌編小説を執筆できるのか。人間にとっても一筋縄ではいかない難題に、人工知能で立ち向かうプロジェクトが相次いでいる。技術開発の進歩が研究者らの野心をかきたてるが、巧みで複雑な人間の知能をもっと深く理解したいという畏敬の念も見え隠れする。
富士通研究所(川崎市)の穴井宏和ITシステム研究所主管研究員は最近、大学入試の数学問題と格闘中だ。「大学入試センター試験の50〜60%は答えられるようになった」。上達ぶりを褒められたのは、同社が開発する人工知能ソフト。独自の情報処理技術を惜しげもなくつぎ込む。
富士通研を本気にさせたのが「ロボットは東大に入れるか」と問いかけた国立情報学研究所のプロジェクト。人工知能を究め、2016年までに大学入試センター試験で高得点を獲得、21年の東大合格を目指す。
人工知能は着実に進化してきた。1956年に米国で開かれた「ダートマス会議」には科学者らが集まり、「知能ロボットを労働力に」との期待が高まった。だが玩具の域を抜け出せず、70年代には研究が停滞。転機となったのは97年だ。米IBMのコンピューター「ディープ・ブルー」がチェス王者に勝ち、11年には同社の「ワトソン」が米クイズ番組で歴代王者を下した。日本では10年に将棋ソフトがプロ棋士に勝った。
それでも今のままでは、東大入試の数学問題には太刀打ちできない。人間は問題文を読んだら記憶を頼りにすぐに計算に入る。だが人工知能は言語や数式のある問題文の意味がまず理解できない。数式ならば「ソルバー」と呼ぶプログラムを幾つも作り、対応はできる。「方程式や三角関数などはソルバーの拡張などで解ける。だが数列や確率の問題は、意味の解析がまだ難しい」(穴井さん)
国立情報学研の新井紀子教授は若手研究者の士気が高まると東大入試への挑戦を待ち望む。跳ね返されても、人工知能の実力が分かり、次の課題が見つかる 。
人工知能は同じリンゴでも形が違うと戸惑う。常識や暗黙知、意味の深い理解は人間が上回る。創造力やコミュニケーション能力をもっと磨く必要がある。
公立はこだて未来大学の松原仁教授は「人工知能には感性が足りない」と話す。従来は計算処理能力の向上に軸足を置いたが「いずれ人間に似たロボットを造るのなら、計算能力だけではバランスに欠ける」。
松原さんらは人工知能を載せたコンピューターでSF作家の星新一が得意とした「ショートショート」小説が執筆できるか試そうとしている。
約1000編で言葉やリズム、起承転結の作り方などを分析。「宇宙」「博士」など複数の単語や形容詞を無作為に組み合わせて、物語の骨格を構築。文章や単語を引用し、似た雰囲気の物語を創る。最後には400字詰め原稿用紙で10枚程度の小説が書けると考える。5年後にはコンテストに応募する。
独創性あふれる小説の執筆は、人工知能の幅を広げる。前後関係やリズムを意識して文章を組み立て、一文の長さを変えるなどで文脈に流れをつける。人工知能で自然にこなせたら、柔らかな頭脳のロボットが生まれることだろう。
こうした大胆な挑戦ができるのも「長年の研究の積み重ねが大きい」と人工知能学会の山口高平会長は話す。自然な言い回しを読み解く言語処理などは数十年前から格段に進歩。NTTドコモがスマートフォン(高機能携帯電話)で展開するサービスは、利用者の音声から単語ごとの意味を解析し、自動合成したキャラクターの声で返答してくれる。シャープの掃除ロボットも会話ができる。
基本技術はそろってきた。「このあたりで一度、基礎技術を統合させよう」(山口会長)。難題挑戦は、人工知能研究者の間にこんな機運が出てきた表れだ。
研究者の熱意がかなったら人間は不要になるのだろうか。一抹の不安がよぎるが、山口会長はやんわりと否定する。「人工知能を作るのも人間。人間の英知とモラルが勝れば、大きな問題は起きない」。結局、人工知能はいつまでも人知を超えられないようだ。
(山本優)