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memo ∞ 「鹿児島で生む「金の卵」/住友金属鉱山」 

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住友金属鉱山、鹿児島で生む「金の卵」  :日本経済新聞

 住友金属鉱山は今月中にも国内最大の菱刈金鉱山(鹿児島県伊佐市)の新鉱床の採掘に向けた工事を始める。埋蔵量は約30トンと時価1300億円相当。掘削に必要な約32億円の40倍以上の投資対効果が得られる計算だ。文字通りの黄金の山だが、菱刈にはもう一つ大きな役割がある。グローバルに通用する鉱山技術者の育成だ。先兵となる「金の卵」を養成し、川上分野を強化するのが狙いだ。

■技術者を育成

 鹿児島空港から北へ車で約40分の山間部にある菱刈金鉱山。霧島山系に近く、人里離れたこの鉱山には20代〜30代前半までの約10人の鉱山技術者らが勤務し、新たな鉱床の発見などに向けて日々技術を磨いている。

 「入社してからの3〜4年は鹿児島の山の中でがっちり鍛える」と話すのは住友鉱山の資源事業本部副本部長、後根則文執行役員。大学の資源工学科などを卒業して入社する鉱山技術者候補生の多くが社会人生活のスタートを菱刈で迎える。

 菱刈鉱山は1985年に採掘を開始し、国内に唯一残った商業鉱山だ。鉱石1トン当たりに含まれる金の量は平均40グラムと一般的な鉱山の8倍以上。初期開発を手がけた石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の担当者も「あんな金鉱山は世界を探してもほかにない」と太鼓判を押す。

 一人前の鉱山技術者になるには何が必要か。鉱脈や鉱床を発見する探鉱、安全に鉱石を掘り進める掘削、そして鉱石中から少量しかない金や銅を抽出する選別と鉱山技術者には3つの大きな役割が求められる。特に探鉱や掘削は鉱山での実地研修が最も効果的で「育成できる場所も、国内には菱刈以外ない」(後根執行役員)。

 菱刈では地中の磁場の変化を計測する機器で地下に眠る新たな鉱脈を探索していく技術や、より安全に坑道を掘り進めるために霧状のコンクリートを側面に吹き付けていく技術など「最新の鉱山技術を教え込んでいる」(住友鉱山)。また海外鉱山への派遣に備え、技術だけでなく、英語やスペイン語など語学教育にも力を入れる。

 菱刈鉱山の採掘量は年間で約7.5トン。これまで埋蔵量は確認されているだけで約150トンとされ、今回の鉱床発見により30トンが加わる見通しだ。だが、金の国際価格が高値で推移する今の状況にあっても、住友鉱山は菱刈での増産はしない方針だ。そこには足もとの利益追求よりも、将来的な鉱山人材の育成機能をより長期的に維持することを優先させたいとの狙いが見える。

■グローバル化の先兵に

 住友鉱山などの非鉄大手の多くは鉱山経営を源流とする。だが国内鉱山の閉山により、その多くが鉱石中から銅などの金属成分を抽出する製錬業に事業の軸足を移してきた。だが近年、各社は再び海外を舞台に鉱山開発に力を入れはじめている。その背景にあるのは鉱山会社と製錬会社との地位の変化だ。

 数年前まで両者は銅価格の上昇による利益を互いに分け合う「プライスシェアリング」と呼ばれる方式を採用していた。だが新興国での需要の高まりを受けて、銅鉱石の需給が逼迫。近年は鉱山会社の立場が強くなり、製錬側の享受できる利幅は小さくなっている。

 JXホールディングスの大町章取締役常務執行役員は「足もとでは減速感もあるが、中長期的には中国やインドなど新興国の銅需要は拡大する」と見ており、鉱山優位の傾向は当分変わらないと指摘する。そこで住友鉱山など各社が進める戦略が鉱山権益の拡大だ。

 もともと業界内では上流側にあたる鉱山開発が得意といわれる住友鉱山。6日に発表した2012年4〜9月期決算は足もとの銅価格下落などで減収減益となったものの、営業利益率は約10%と高い水準を維持した。

 同社は目下、14年の稼働を目指したチリ・シエラゴルダ鉱山の開発に力を注ぐ。同社の出資比率は31.5%と、これまで手がけてきたペルーのセロ・ベルデ銅鉱山などのほぼ2倍。同社が得る銅権益の取得分はシエラゴルダが本格稼働し、他鉱山の増産体制が整う20年には年25万トンと現状の約2倍に増える予定だ。

 足もとでは銅価格は下落傾向だが、同日の決算発表で飯島亨執行役員経理部長は「新たなプロジェクトの採算には影響しない」と断言した。

 現在のシエラゴルダの開発状況は、まだ20%程度。日本からの派遣はまだ3人程度にとどまるが、「稼働が近づくにつれて2倍以上には増やしていく方針」(住友鉱山の後根執行役員)という。

 今後、海外鉱山での経営関与度をさらに上げていけば、それだけリスクも高まる。現地の技術者らと連携し、円滑に鉱山の運営を指導できる日本人の技術者への要求は高まる一方だ。その人材を育てる役割を一手に担うのが菱刈。国内に最後に残った鉱山は、日本が培ってきた鉱山技術を世界に伝える役割も課せられている。

(中村元)

 

[日経産業新聞2012年11月7日付]


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