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memo ∞ 「遺伝情報解析、養殖に活用/東大 他」 

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(1)高級魚、安く家庭に 遺伝情報解析、養殖に活用 :日本経済新聞

東大で飼育されている必ずオスが生まれる父親トラフグ(東大水産実験所)

 食の技術革新が著しい。畜産物や農作物では当たり前のバイオ技術を活用した「品種作り」が魚の養殖でも進む。高級魚も手ごろな値段で食べられるようになるかもしれない。野菜だけでなく果物を植物工場で作る試みもある。日本の食文化が世界で高く評価されるなか、最新の「フードテクノロジー」を追った。

 浜名湖に浮かぶ弁天島を拠点とする東京大学水産実験所。ここで今春生まれた60匹のトラフグは、夏の性別診断ですべて狙い通りオスであることがわかった。1年もすればフグ料理の中でもとくに高価な白子(精巣)がとれる。

フグ必ずオスに

 オスかメスかの確率は2分の1。どうして60匹全部がオスになったのか。親フグのオスの性染色体が通常の「XY」ではなく「YY」だったから。メスの性染色体は普通「XX」のため交配させて生まれてくるフグは「XY」で必ずオスになる。

 魚類はまれに環境や薬品の影響で性転換する。菊池潔助教らは性を決めるDNA(デオキシリボ核酸)配列の違いを目印に性転換しやすいフグを探索、稚魚にホルモン剤を混ぜたエサを与えて飼育した。試行錯誤を繰り返し、4年がかりでようやく「XY」の性染色体を持つメス作りに成功。通常のオス(XY)と交配させて「YY」のフグを手にした。

 この父親フグの精子は凍結保存済み。東大の技術移転機関(TLO)を通じて「YYフグ」の事業化に向けた準備を進める。今回の研究成果に全国ふぐ連盟の三浦国男会長は「不足気味の白子を安く提供できるようになるかもしれない」と期待を膨らます。

 ここ数年、国内外の養殖の現場では育種(品種作り)研究が盛ん。国内ではすでに病気に強いヒラメが登場、店頭に並ぶ。ノルウェーでは感染性の膵臓(すいぞう)病に強い遺伝子を持つサケが開発された。

2000年にヒトゲノム(全遺伝情報)が解読され、その後、ゲノム解析技術が急進展した。高速な解析機器も普及、フグやマグロなどのゲノム解読をはじめ、塩基配列のわずかな違いを目印に効率的な育種を探る動きも浸透しつつある。

 水産総合研究センターはこれまで養殖コストが高くついていたブリやウナギ、マグロなどで品種作りを進める。

 東京海洋大学などと共同で養殖中に寄生するハダムシから免れるブリを開発中。ブリのゲノムの一部を詳細に調べて、ハダムシがつきにくい個体だけが持つ塩基配列の領域を特定。この領域を持つオスとメスを交配させてできた子どものブリは、ハダムシに感染しにくかった。

 同センター・増養殖研究所の尾崎照遵主任研究員は「養殖現場で検証して効果があれば、実用化の可能性もある」と語る。

 稚魚のシラスウナギの資源減少が懸念されるウナギでも養殖の効率を上げるために、成長促進に関わる遺伝子の探索が進む。天然の中から成長の早いウナギを選び、ゲノムの解析に取り組む。天然に比べて長くかかる卵からシラスウナギまでの成育期間を半分程度まで短縮し「完全養殖」の実用化を目指す。

品種維持が課題

 こうしたゲノムを利用した養殖技術の改良には課題もある。増養殖研の飯田貴次所長は「できた品種を維持する体制がまだ整っていない」と話す。

 農作物や畜産物はいずれも長い時間をかけて人が作った品種だが、天然資源に依存している水産物では養殖の歴史は浅い。例えばコストと労力をかけて優れたマグロができても、何世代にも渡って飼い続けるような施設や仕組みがない。

 国内の水産物の消費量は停滞が続くが、世界的にみれば新興国の人口増や経済力の向上で拡大傾向にある。マグロのように天然資源の争奪戦が激しい魚も多く、必要量を安定確保するため養殖量は増えている。今後、魚の技術開発が勢いづくのは間違いない。


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