(1) 日本未来の党の発足に当たって... 茂木 健一郎
2012年11月27日 茂木健一郎
嘉田由紀子滋賀県知事が代表となって、日本未来の党が発足いたしました。私は、その趣旨に賛同します。
「卒原発」を政策の一つに掲げる同党に、私が賛同することに対して、意外だと思われる方がいらっしゃるかもしれません。二つの点について、ここで説明させていただきます。
一つは、「原発」をめぐる「文化」についての考察です。日本、そして世界のエネルギー状況を考えた時、原発をすぐにゼロにできるか、あるいは将来的になくすことが可能かということについて、私は依然として慎重な態度をとっています。それにも関わらず、私が今回、嘉田さんの趣旨に賛同したのは、原発をめぐる「文化」のあり方についての危機感があったからです。
東京で使う電気を、福島の原発でつくる。その福島の方々が、原発の事故で苦しんでいる。そのような社会のあり方、国のあり方について、根本的に見直す必要があるように私は感じます。
原発についての議論をしていた頃、私の心に一番刺さったのは、エネルギー安全保障の観点から、原発の地方への立地もやむなしという考え方は、人口10億を超える国の安定のためには、人権の抑圧もやむなしとする中国と本質的に同じ考え方だという意見でした。この意見に触れた時に自分の心に生じた痛みを、私は今でも覚えています。
エネルギー源としての原発をこれからどうするかについては、慎重に考えるべきだと思います。しかし、上のような原発をめぐる「政治文化」については、明らかに見直しが必要だと考えます。
もう一点は、最近の日本の政治状況です。アメリカでは、民主党から出馬したオバマ大統領が当選して、二期目をつとめることとなりました。市場の役割を妨げず、人々の創意工夫を邪魔しない「賢い政府」のあり方を模索し、公共の役割を重視し、人々のつながり、ネットワーク、そして国際的なオープンさを大切にするオバマ大統領の訴えが支持されたのです。
それに比べて、日本の政治状況はどうでしょう? オバマ大統領、米民主党に相当する政治勢力は、どこにいるのでしょうか? むしろ、一昔前の国家観に基づき、時計を逆回りさせるような主張が、目立つように思います。
主権国家である以上、領土を守るのは当然のことです。その一方で、軍備を強めたからと言って、それが国家の繁栄につながるわけでもないことも事実です。
今は、逆説的だけれども、「国家」というものにこだわらずに、国境を越えて優秀な人、必要なもの、イキのいい情報が流通するというグローバル化世界の文法を理解している国が繁栄する。列強が軍事力を背景に植民地獲得競争をした一昔前とは違うのです。
今の日本で巷に言われる「普通の国」は、一回り遅れの古いモデル。日本が、インターネットやグローバル化といった文明の波に乗り遅れ、また共生や、ネットワークといった現代の文明の文法についていけない傾向がある中で、ますます日本が繁栄の道から遠ざかっていってしまうことを危惧します。
このような危機感の下で、日本の政治状況を見た時に、嘉田由紀子滋賀県知事が今回代表となって立ち上げた「日本未来の党」は、かけがえのない意味を持つと、私は考えます。2009年の民主党マニフェストで政権交代を実現し、「国民の生活が第一」としてきた小沢一郎さんとそのお仲間も、大きな力となってくれることでしょう。
私は、日本の国のことを思い、日本が将来繁栄することを願う気持ちを、とても強く持っています。「日本未来の党」が、大きく成長して、文字通り「日本を未来につれていってくれる」力となることを願ってやみません。
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