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真珠の小箱(206)「佐野洋子/ドキュメンタリー映画『100万回生きたねこ』」

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佐野洋子の絵本を巡る記録映画  :日本経済新聞 2012.11.30 文化往来

 「普通の人はさ、がんになるとがんと闘うっていうドキュメンタリーを作ったりするじゃない。私ああいうのバカバカしくってしょうがないのよね。死ぬときゃ死ぬんだから」。一昨年に逝去した絵本作家、佐野洋子。「ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ」(12月8日公開)はそのすごみのある明敏な声から始まる。

 異色作だ。佐野洋子を巡るドキュメンタリーでありながら、佐野の姿は映らない。当人が撮影を許さなかったからだ。あるのは来し方行く末を語る佐野の肉声、代表作「100万回生きたねこ」の絵と文、その読者である様々な世代の女性が語るそれぞれの人生だ。

 親に愛されなかったり、子を産めなくなったり、生きづらさを抱える女たちが「ねこ」を読み聞かせる映像に実感がこもる。「ねこ」もまた感情を失った猫が生の実感を獲得するまでの物語だからだ。そして兄の死や引き揚げという過酷な経験をした佐野自身の喪失感と人生観も透けて見えてくる。

 「アンタ、私が死ぬこと、どう考えてるの?」。初対面の佐野に問われた小谷忠典監督は「その答えを探りながら映画を作ってきた」。監督が佐野の根っこにある死生観を発見していく過程にてらいがなく、感動を呼ぶ。東京・渋谷のシアターイメージフォーラムで。

ドキュメンタリー映画『100万回生きたねこ』劇場予告編

 さんが 2012/10/24 に公開

ドキュメンタリー映画『100万回生きたねこ』劇場予告編。出演 佐野洋子×監督 小谷忠典×音楽 コーネリアス/病で余命を宣告された作家・佐野洋子と、それぞれの生きづらさと向き合う読者たち―三十五年読み継がれてきた絵本が紡ぐ、命をめぐる物語。12月8日(土)­よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー。他全国順次公開。 http://www.100neko.jp/


 

 

100万回生きたねこ


佐野洋子

1938年、父利一、母シズの第二子、長女として生まれる。幼少時代を中国の北京で過ごし、終戦後に帰国。武蔵野美術大学デザイン科卒業後、白木屋デパート宣伝部勤務を経て、ベルリン造形大学でリトグラフを学ぶ。帰国後、デザイン、イラストレーションなどの仕事を続け、絵本作家としてデビュー。代表作に『100万回生きたねこ』『おじさんのかさ』『わたしのぼうし』など。エッセイストとしても活躍し、『神も仏もありませぬ』で2004年に小林秀雄賞、08年に巌谷小波文芸賞を受賞。03年、紫綬褒章受章。10年11月5日、東京都内の病院で死去。享年72。


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