製作期間が一年以上に及ぶ本作のロケ地は日本最後の秘境、礼文・利尻島。極寒のため、標高の低い場所であっても高山植物が群生し、高木が生えず寂寥感溢れる土地や崖が切り立つ厳しい自然の大地が広がっている。外気温が氷点下以下まで下がり、強風のため体感温度が-30℃にもなる厳しい真冬と、エゾカンゾウが美しく咲誇る初夏の二期に渡り一大ロケーションを敢行する。撮影は『劔岳 点の記』で監督を務め、大自然とそこに挑む人間の儚き姿を数々の作品でフィルムに焼き付けてきた木村大作。本作の原案は、2010年に映画化されその衝撃的な内容で原作・映画ともに大ヒットを記録した「告白」の著者、湊かなえの「往復書簡」(幻冬舎刊)に収録されている「二十年後の宿題」で、脚本を『北の零年』の那須真知子が手がける。
そして、『大鹿村騒動記』『闇の子供たち』など緻密に人間の内面を描くことに定評のある監督・阪本順治が、雄大な自然の中、豪華キャスト・スタッフとともに、綿密に練り上げられた壮大な物語に挑む。
吉永小百合「誰かいない!凍傷!凍傷!」 ニュース-ORICON STYLE-
吉永小百合(66)が、主演映画「北のカナリアたち」(阪本順治監督、年内公開)のロケで、北海道・礼文島の厳しい大自然を相手に奮闘している。体感温度が氷点下30度まで下がる酷寒に加え、同島は30年ぶりの大雪にも見舞われた。長い女優人生の中でも経験したことのない寒さに直面しながらも、たくましく生きる島民の姿に励まされながら撮影に臨んでいる。
一寸先が見えない吹雪の中、吉永の叫びが響いた。「すみません。誰かいない? 凍傷、凍傷! 手が痛いんだって!!」。吉永演じる元教師と森山未来(27)演じる教え子の再会場面。クライマックスシーンの1つだ。撮影は3分間。素手で演じた森山の左手に激痛が走った。異変に気づいた吉永が叫んだ。スタッフが駆け寄った。吉永は、棒のように固まった森山の手を少しでも温めようと素手でさすり続けた。大事には至らなかったが、大自然の厳しさを痛感させられた。
撮影は7日から開始。この日は氷点下11度。体感温度は氷点下30度まで下がった。島で30年ぶりという大雪も重なった。吹雪になると、刺さるような痛みが肌を襲う。天候は数分おきに変化する。撮影中断もしばしば。寒さに耐えながら屋外で出番を待つ。撮影が待機用のプレハブ近くで行われても、厳しさは変わらない。いくらストーブをたいても、室温は0度前後までしか上昇しない。
吉永は、高倉健(80)と初共演した80年「動乱」の撮影で、北海道・サロベツ原野で長じゅばん1枚に素足の姿でカメラの前に立ったことがある。「海峡」「北の零年」などの映画撮影でも厳冬期の北海道ロケを経験したが、「今回の寒さはもっとも厳しいですか」と聞かれると迷わず「はい」と答えた。「想定外です。寒いというのは通り越しています。年を重ねているのもあるかも知れませんが、風が吹くと厳しい」。
そんな吉永を奮い立たせているのは、エキストラのおばあちゃんだった。島内で撮影中、猛烈な風に吹かれ、「大変だ」と驚いた。ところが、おばあちゃんは「今日は風がなくて良かったね」とほほ笑んだ。島民のたくましさを感じ、気持ちを切り替えた。
防寒のため、撮影合間にはジョギングやシャドーボクシングで体温を保つ。日活時代の61年「闘いつづける男」などボクシング題材の映画に出演した経験がある。「相手役の高橋英樹さんがリングでやるのを見ていたので」。当時を思い出してパンチを繰り出す。教え子役の満島ひかり(26)は「シュッシュッって、上手なんです」と驚いた。
「寒いという言葉は絶対に言うまいと誓ってやっています」。吉永は寒さと戦い続けている。【村上幸将】
◆礼文島 北海道・稚内の西約60キロに位置する日本最北の島。礼文町の人口は3271人(昨年12月現在)。夏は島固有のレブンアツモリソウなど約300種類の高山植物が咲く。80年日本テレビ系「熱中時代」をはじめ、86年NHK「ドラマ 礼文島」や94年TBS系ドラマ「ボディーガード北へ」、02年テレビ朝日系「はぐれ刑事純情派」などのドラマ収録が行われたが、映画ロケは「北のカナリアたち」が初めて。
◆映画「北のカナリアたち」 日本最北の島にある小学校の教師、川島はる(吉永)と生徒6人の間で悲劇的な事故が起こった。はるは、夫を亡くして島を追われ、“天使の歌声”を持つ生徒6人も罪の意識を抱えて生きていた。はるは20年後、都内の図書館で司書をしていたが、最後の教え子の1人鈴木信人(森山)が事件を起こしたと知る。20年ぶりの再会を決意し、北海道へ渡り、7人が島で再び集まる。
「北のカナリアたち」に主演する吉永小百合ら出演者。彼らの前に立つ子がそれぞれの子供時代を演じる