◎1位:内部量子効率がほぼ100%の「蛍光材料」、九州大学が有機EL向けに開発
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TADFの原理。三重項状態(T1)に落ちた励起子が、熱のエネルギーを受けて一重項状態(S1)に「昇格」する。(図:OPERA)
今回開発した材料の例
新材料を用いて作製した有機ELパネルの例
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)は、蛍光材料でありながら内部量子効率がほぼ100%という、有機ELの新発光材料を開発したと発表した(
)。これまでは内部量子効率が高い材料は、レアメタルを利用するリン光材料に限られていたが、新材料ではレアメタルは利用しない。OPERAではこれを「Hyperfluorescence(本誌訳:ハイパー蛍光発光)」と名付けたとする。「これでリン光材料は不要になった」(OPERA センター長で九州大学 教授の安達千波矢氏)という。詳細は、学術雑誌の「Nature」に を発表した。有機ELの発光材料は、発光の原理的な違いによって蛍光材料とリン光材料に分けられる。蛍光材料は、励起子が「一重項状態」というスピンの状態を経由する場合にだけ再結合(発光)する。一方、リン光材料は、一重項状態に加えて、三重項状態というスピン状態からでも発光する。一重項状態と三重項状態は1:3の割合で発生するため、蛍光材料の内部量子効率は最大で25%、リン光材料は同100%と考えられていた。蛍光材料で三重項状態になった励起子のエネルギーは発光には使われず、ほとんどが熱として失われる。
これは、有機EL素子の発光効率の違いとなって現れる。このため、有機ELディスプレイや有機EL照明の開発では、リン光材料を利用する例が増えてきている。発光効率が50lm/Wを超える有機EL素子は、青色発光材料を除くとリン光材料で実現している。しかし、リン光材料にもいくつか課題があった。(1)リン光材料はレアメタルを含むため、材料が高価、(2)米Universal Display Corp.(UDC)がリン光材料の基本特許を握っており、利用には同社との交渉が必要になる、(3)青色に発光するリン光材料は発光寿命が短く、実用に耐えるものはほとんどない、などの課題である。
一方で最近、蛍光材料であるはずなのに、内部量子効率が25%を超える材料がいくつか見つかるようになった。OPERAの安達研究室はこの現象に注目し、その発光原理の一つを「熱活性型遅延蛍光(TADF)」と呼んで、その発光効率を高める材料の設計を研究していた。
TADFは、励起子が一重項状態を経由した場合にだけ発光し、その意味では蛍光材料である。ただし、三重項状態になった励起子が、熱によって一重項状態に「励起」される。結果として、すべての励起子が発光に寄与する可能性が出てくる。
今回、安達研究室は、TADFの原理によって内部量子効率が90%以上を示す材料を開発した。5〜9個のベンゼン環から成る低分子材料で、レアメタルや希土類元素を必要としない。さらに、この材料を用いた有機EL素子やディスプレイも試作した。外部量子効率は19%以上で、リン光材料を用いた素子に匹敵する結果を得たという。ちなみに、現時点で最も効率が高いのは緑色発光の材料だというが、「深い青色も含め、ほとんどの色で発光させることにもメドがたった」(安達氏)とする。