免疫療法に新潮流 がん守る細胞を除去 滋賀医大・東レなどが新材料開発 :日本経済新聞
体の中でがんを守っている細胞を取り払い、治療効果を高める免疫療法の研究が進んでいる。免疫療法は主に免疫を高めるワクチン物質を投与する方法が知られ、がんをとにかく攻め立てた。新療法はこれまでの発想を改め、守りを崩してすきを突く戦略への転換だ。滋賀医科大学や京都大学などがそれぞれ細胞を除去する材料を開発し、東レや旭化成も協力して動物実験で成果が出始めた。
体の中でがんの護衛役を務めるのは「制御性T細胞」。もともとは免疫を担うリンパ球の一種だが、免疫の過剰な働きを抑えるブレーキ役を果たす。この免疫が鈍る性質をがん細胞が逆手に取り、攻撃をかわしている。護衛役を取り除いてしまえば攻めやすくなる。
滋賀医科大学の小笠原一誠教授らと東レは、ポリスルホンという高分子材料を加工し、制御性T細胞を捕まえる。新材料の表面にある分子が細胞の表面から出る分子「TGF―β」とくっつく。
実験では、ラットの血液を新材料に約1時間さらして制御性T細胞を取り除いた。別のラットに輸血してがん細胞を移植してみると、がんは育たなかった。がんを守っていた細胞がなくなり、免疫の力でがんを倒した可能性が高いと説明している。2013年度からサルで実験する。5年後の臨床試験を目指す。
京都大学の木村俊作教授や旭化成、大阪大学の坂口志文教授らは、制御性T細胞の表面にある物質に結合するたんぱく質(抗体)をポリプロピレンに付けた新材料を開発した。
マウスから抜いた血液を約30分かけて新材料に通すことを2〜4回繰り返すと8割以上の制御性T細胞を除去できた。
14年度には装置の実用化のメドをつけて臨床試験の準備に入る。除去の効率がもっと高い抗体も探す。
医療現場では血液中から過剰に働く白血球を除去する装置がすでに利用されている。同じ医療機器という意味で、制御性T細胞を取り除く装置も実用化のハードルは低いとみる。同細胞に絡みつく抗体を新薬として開発する方法もあるが、体内で反応させるには大量に投与する手間やコストがかかる。