再生可能エネルギー「藻類バイオマス」を国策に――筑波大学・渡邉教授の思い | 日刊SPA!<文と写真/寄本好則(三軒茶屋ファクトリー)>
第5回:つくば藻類バイオマス利用ワークショップ2012
電気自動車で突撃して「元気!」になれそうな話題をレポートする『日本をつなげ!プロジェクト』。5回目は、再生可能エネルギーの隠れた大本命ともいえる藻類バイオマス。つくば市役所で開催された『つくば藻類バイオマス利用ワークショップ2012』に参加して、オーランチオキトリウム研究の第一人者として知られる、つくば大学の渡邉信教授の話を聞いてきた。今回の取材車はレンタカーの日産リーフ。東京からつくば市への取材なら片道70km程度。電池切れの心配もなくて快適だった。
藻類バイオマスとは「藻」の力で石油を作る新しいエネルギー形態のこと。藻類のある種には石油と同じような「炭化水素」の油を生み出す能力をもっている。今、人類が活用している原油は太古の藻類が作った油という説もある。アメリカなどで研究が進められている「ボトリオコッカス」という種が有名だが、渡邉教授の研究グループが2010年に日本国内で発見した「オーランチオキトリウム」はより効率的に油を生産できる能力があり、有力な次世代再生可能エネルギーとして期待されている。
トウモロコシなどから燃料を生産する「バイオマス」には、食料との競合問題があるけれど、藻類バイオマスなら大丈夫。渡邉教授の試算によると、東日本大震災で塩を被った約2万ヘクタール(全国の耕作放棄地の10%程度でもある)の土地でオーランチオキトリウムを中心にした藻類バイオマスを実用化すれば、現在の日本の年間消費量に匹敵する約2億トンの石油を生産できる。そう遠くない将来、日本が産油国になるかも知れないのだ。
オーランチオキトリウムは光合成ではなく有機物をエサにして増殖する。2011年の9月ごろ、渡邉教授の筑波大学と仙台市などが共同で、下水を活用したオーランチオキトリウム活用の実証実験を始めるというニュースがあった。その後に期待して注目していたのだが、いっこうに「続報」が流れてこない。仙台市役所に電話して聞いてみると、国に補助金を申請して審査待ちってことらしい。なんてこった。オーランチオキトリウムの実用化は、核燃サイクルなんかに比べてリスクは低いしリアリティは高い。ぼやぼやしてないで国を挙げて推進してくれよ、と思う。
はたして、仙台市とのプロジェクトはどうなっているのか。オーランチオキトリウムはいつごろ実用化できそうなのか。直接お話しを聞いてみたかったが、ご多忙でなかなか取材のアポも取りにくい渡邉教授。ところが、つくば市役所で渡邉教授も参加するワークショップが開かれるということで、取材を兼ねて参加してきた、というわけだ。
◆プロジェクトは着々と進んでいた!
結論からいうと、渡邉教授のプロジェクトは着々と進んでいる。仙台市とのプロジェクトの続報がなかなか出てこないのは、国の補助金が出ないからというよりも「実用化に向けた規模での実証実験の途中だから」という理由だった。オーランチオキトリウムを培養する容器の水深はどれくらいにするのが効率がいいのか。水槽に酸素を送り込む方法をどうするか、etc……。実用規模のレベルで効率を上げ、さらなるコストダウンを実現するための方法を研究し、実証している段階にあるということだ。
※渡邉教授の研究室公式サイト
http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~makoto/
日本の官僚は優秀だ。生半可な情報で「国」に対して苛立つのはよくないな、と反省しつつ、渡邉教授に話を聞くと……。やっぱり「国」に対しては「なんとかならないのか」という思いがあるという。
◆渡邉教授の「日本」への思いとは……
プロジェクトは着々と進んでいる。とはいえ「国に対して苛立ちとかはないですか?」と、渡邉教授にぶしつけながら質問してみると。穏やかな笑顔を湛えたままに「いっぱいありますよ」という返事。
オーランチオキトリウムをはじめとする藻類バイオマスの研究は日本国内でもいくつかのプロジェクトが進められている。でも、それぞれバラバラに研究しているのが現状だ。藻類バイオマスは近未来の日本の趨勢を左右する重大な課題だからこそ「国として戦略を練り、明確なロードマップを作成して対応すべき」というのが、渡邉教授の熱い思いだ。
渡邉教授のもとには国境を越えた企業などからのオファーがある。でも「私はまだ日本を愛している」し、藻類バイオマスの技術は日本がリードしていくのが世界平和のためにも理想的という思いから、渡邉教授はあくまでも日本国内で日本資本による実用化を目指している。筑波大学が中心となり、藻類バイオマスの産業化を目指す『藻類産業創成コンソーシアム』(http://algae-consortium.jp/)を設立しているが、明確な国のロードマップが示されていないから参加企業も「まだまだ様子見でしかない」のが現状だ。
実用化に向けて、渡邉教授のプランではオーランチオキトリウムを培養したあとの二次処理水でボトリオコッカスを培養する「併せ技」を計画している。ボトリオコッカスの研究はアメリカが巨費を投じて進めているが、日本には神戸大学で品種改良された有望なボトリオコッカス(「榎本藻」と名付けられている)がある。国が中心となって日本国内の藻類バイオマス技術をまとめ上げ、集中的に投資を進めれば、実用化への道筋がより明確になるはずだ。
つくば市役所で開催されたワークショップには100名ほどの参加者が集まって盛り上がっていた。しかも、集まっているのは研究者や専門家ではなく、つくば市周辺や、なかには「大阪から日帰りでやってきました」という女性など、普通の市民がほとんどだ。学術的なテーマが主題のワークショップとしては、異例なほどの注目度の高さといっていいだろう。国が原発再稼働を巡ってじたばたしてる間にも、賢い日本国民は藻類バイオマスの可能性に希望を見つけ、自分にできることを探して行動を始めているということでもある。
渡邉教授の計画によると、オーランチオキトリウムの実用化は、2015年までにつくば市内の2ヘクタールの土地で実証実験。2015年から2020年にかけて茨城県や宮城県内の約300ヘクタールに拡大。2020年以降、全国の耕作放棄地などを活用して年間2000万トンの石油(炭化水素)を生産することを目指しているという。
2000万トンは現在の日本国内の原油消費量の約10%程度となる。これが決して夢物語ではない確かな技術が日本にはある。もし、国が国策として本気で取り組めば、さらに大規模な石油生産を実現できるはず。逆ギレ総選挙で禊ぎを受けた国会議員のみなさんも、ビジョンなき脱原発をおまじないのようにつぶやいたり、逆噴射的に原発ゴリ押し新設を目論む前に、藻類バイオマスを本気で考えてみて欲しい、とほんとに願う。