環日本海域環境研究センター
「骨の特効薬」宇宙で効いた 金大グループ開発
金大の研究者が開発した薬剤が、宇宙空間の無重力環境で起きる骨量の低下を抑えるこ とを、同大環日本海域環境研究センターの鈴木信雄准教授らのグループが宇宙実験で確認 した。企業と連携し、今月から地上で動物実験を開始する。宇宙での健康管理上の課題で ある骨量減少の克服につながる可能性があるほか、高齢化で患者が急増している骨粗しょ う症の「特効薬」として実用化に期待が掛けられている。
鈴木准教授らのグループは2010年5月、宇宙航空研究開発機構に選定され、国際宇 宙ステーション日本実験棟「きぼう」で、この薬剤の効果を確かめた。宇宙飛行士の野口 聡一さんが実験を担当。人間の骨のモデルとして金魚のうろこを使用した。
宇宙空間に持ち込んだ金魚のうろこは、骨を壊す「破骨(はこつ)細胞」の働きが活発 化した一方、骨を作る「骨芽(こつが)細胞」の働きが低下。しかし、この薬剤をうろこ に作用させたところ、「破骨細胞」の働きが抑えられ、「骨芽細胞」の働きが向上し、宇 宙特有の骨量減少を防ぐ可能性が示された。
この薬剤は医薬品に多く用いられるインドール化合物の一種で、骨形成の促進に関わる とされるメラトニンと似た構造や性質を持つ。染井正徳金大名誉教授と鈴木准教授らが2 004年に開発し、日本と米国で特許を取得。地上での実験で、女性ホルモンを欠乏させ たり、カルシウム抜きの餌を食べさせたラットに薬剤を与え、骨密度が上昇することが分 かっていた。
今月からは実用化へ向け、科学技術振興機構の助成を受けて、動物実験で国内有数の技 術を持つ企業「ハムリー」(つくば市)と共同研究を開始する。骨折させたラットに地上 で薬剤を注射して効果を確かめ、骨が形成される仕組みの解析も進める。
現在利用されている骨粗しょう症の治療薬は、あごの骨が壊死(えし)するなど重い副 作用が課題となっており、鈴木准教授は「骨粗しょう症で大腿(だいたい)骨などを折り 、それがきっかけで寝たきりになる高齢者が多い。実用化を急ぎたい」と話した。