シェールガス、欧州でも一歩 ウクライナ、シェルと大規模開発 資源、ロシア依存脱却狙う :日本経済新聞
【モスクワ=金子夏樹】ウクライナ政府は24日、国内の大型シェールガス田を開発することで英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルと合意した。ロシアへのエネルギー依存を引き下げる狙いがある。欧州ではポーランドなど中・東欧を中心にシェールガスの開発計画が相次いで浮上。開発が本格化すれば、欧州向けの天然ガス輸出を収益源としてきたロシアは戦略の見直しを迫られる。
24日、ダボスで調印式を終えたヤヌコビッチ大統領(左から2人目)とボーサーCEO(右端)=ロイター
●100億ドル超を投資 開発するのは同国東部の「ユゾフスキー・ガス田」。ウクライナ政府によると2018年から年間で70億〜200億立方メートルの生産を計画。同国のガスの年間消費量の最大4割に相当する。投資額は100億ドル(約9千億円)を超える見込みで、欧州のシェールガス開発では過去最大の規模となる。
スイスのダボスでの調印式にはウクライナのヤヌコビッチ大統領とシェルのピーター・ボーサー最高経営責任者(CEO)が出席し、利益配分などを決めた生産分与協定を締結した。期間は50年で、シェルは権益の5割を取得する。
米エネルギー情報局によると、ウクライナのシェールガス埋蔵量は欧州第3位の約1兆2千億立方メートルに達する。米石油大手シェブロンも開発に着手する方針だ。
ウクライナのスタビツキー・エネルギー・石炭産業相は24日、「(シェールガス開発により)国内のエネルギー不足を解決できる」と強調。国内で消費する天然ガスの約6割をロシアから輸入しており、欧米メジャーとの提携をテコにロシア依存からの脱却を目指す。
●価格交渉で揺さぶり ウクライナとロシアはガス料金を巡って繰り返し対立し、ロシアは06年以降、2度にわたりウクライナ向けのガス輸出を一時停止。ウクライナ経由でロシア産ガスを輸入する欧州各国に影響が広がった。開発が軌道に乗れば、ウクライナはロシアとの価格交渉で揺さぶりをかけられそうだ。
ウクライナは欧州連合(EU)との経済統合路線を堅持する一方、資源を依存するロシアとも関係の改善を急いでいる。シェールガス開発の行方はウクライナの外交方針にも影響を与えそうだ。
欧州ではポーランド、ルーマニアなどでもシェールガス開発の計画が浮上し、仏トタルなど欧米メジャーが試掘を始めている。ロシア産よりも割安な中東産の液化天然ガス(LNG)の輸入を増やす動きに続き、シェールガスの開発が本格化すれば、国家主導で資源輸出を進めるロシアにとって痛手となる。
欧州でのシェールガス開発は中・東欧諸国を中心に進み始めた。西欧よりもロシア依存が強いため、欧米メジャーの資金力を活用しながらエネルギー自給を高める狙いがある。ただ、西欧を中心に厳しい環境規制が普及を阻む可能性もある。
中・東欧には欧米メジャーが相次いで開発に乗り出した。ただ、ポーランドで開発に向けた調査を進めていた米石油最大手、エクソンモービルが昨年に撤退する方針を表明。欧州での本格生産には時間がかかるとの見方が多い。
ガスの輸送パイプラインなどインフラ整備にも巨額投資が必要となる。ロシアは国営会社を通じて中・東欧のパイプライン会社などに出資する戦略を強化しており、欧州各国がエネルギーのロシア依存から脱却するのを阻もうとしている。
フランスなど西欧諸国は、環境への悪影響が排除できないとして慎重姿勢を崩していない。オランド大統領は、環境汚染を懸念し、大量の水と化学薬品を使う「水圧破砕法」によるガス田開発に許可を与えない方針だ。環境保護運動が盛んで緑の党の力が強いドイツも慎重な姿勢だ。
欧州でシェールガスなどの非在来型ガスの存在感が高まるには、調査・開発にかける投資を増やしたり、伝統的に高い環境規制の壁を乗り越えたりする必要がある。