電機産業が危機に直面している。パナソニックは今期、7800億円の大赤字、ソニーも2200億円の最終赤字を計上する。液晶テレビ事業の悪化で、2900億円の最終損失を見こむシャープを加えると、家電主体のこの3社だけで赤字額は1兆円を突破する。戦後の日本経済をけん引した電機産業はどこへ向かうのか。
電機の業績不振と聞いて、思い浮かぶのは2001年のIT(情報技術)バブル崩壊後の業績悪化だ。各社軒並み赤字に転落し、それまでタブー視されてきた人員削減にも踏み込んだ。
だが、今回の危機の深さはおそらく01年の比ではない。当時は家電や半導体の世界市場で日本勢のシェアや技術的な優位性はまだまだ高かったが、今では韓国のサムスン電子などに主導権を譲り渡した。
縮む得意領域
一方でIT・インターネットの主役は10年前のマイクロソフトとインテルのウィンテル連合からアップルやグーグルに代替わりしたが、日本企業の存在感がほぼゼロという残念な状態は変わっていない。得意領域がじわじわ縮み、かといって新たな成長の足場も見つからない「後退の10年」の末に、今回の危機が来た。
業績悪化の直接の引き金が円高や震災とタイの洪水に伴う生産網の混乱にあるのは言うまでもない。デジタルテレビ特需の反動という一時的な要因もあるだろう。
だが、心配なのは危機に「慢性化」の気配があることだ。ソニーは08年のリーマン・ショック以降一度も最終利益を計上できず、かつて「松下銀行」と呼ばれたパナソニックも有利子負債が現預金を上回るまでに財務体質が弱くなった。1千億円規模の最終損失を見こむNECやエルピーダメモリも、経営不振に陥るのは初めてではない。
統合は手遅れ
果たして突破口はどこか。以前よくいわれた処方箋は「日本の電機はプレーヤー数が多すぎるので、再編統合を進め、強力なリーディング企業をつくる」。例えば欧米勢に比べ日本企業の事業規模が見劣りする重電分野などでは、この処方箋は今も有効だろう。
しかし、ソニーなどの赤字の主因の薄型テレビや、ガラパゴス化といわれる携帯端末分野では日本勢が大同団結したとしても、もはや規模の優位は望みづらい。「再編による競争力強化」の機は既に逸してしまった可能性が強い。
残された道は「会社の再定義」「事業領域の再編成」ではないか。米IBMは大型コンピューターのメーカーから、「ITサービスの提供者」に自社の使命を変えることで再生した。日本企業でも富士フイルムは写真フィルムではなく光学材料のメーカーとして、日立製作所は総合電機からインフラ企業へと軸足を移すことで衰退の道を回避した。
例えばソニーであれば、テレビ事業が赤字を垂れ流す一方で、画像デバイス(部品)では他の追随を許さない。ソニーはもともと小さなモノ、軽いモノが得意な会社。やや暴論かもしれないが、大型テレビをそろそろ見切り、極小の画像部品や重さのない映画・音楽などに特化すればどうか。
むろん「会社の再定義」には不要事業のリストラなど痛みも避けられない。フィルムに代わる活路をプリンターに求めようとして失敗した米イーストマン・コダックのように、必ず成功する保証もない。だが、それに挑戦するしかない。そんな局面に日本の電機産業は立たされている。
(編集委員 西條都夫)