お隣の韓国では、今年は「黒龍年」でバビーラッシュ:1.5倍予想、中国でも「龍/辰」であり、出産増加を予想。何故日本では「辰」を言わないのかと訝っていましたが、多少はいい様な感じですね!…「辰年は株も上がる」言い伝えもありますよ!
今年はベビーラッシュ? 震災で実感「独りは怖い」 :日本経済新聞
「街で妊婦さんをよく見かけます。今年はちょっとしたベビーラッシュになるんですかね」。近所の主婦の話に、探偵の深津明日香が身を乗り出した。「東日本大震災で人との絆が見直されたそうだけれど、出産につながっているのかしら」
震災後の妊娠や出産の状況を調べた統計はまだない。「そういえば妊婦向けの雑誌があるわね」。明日香がリクルートに問い合わせると、雑誌『妊すぐ』の実売部数は昨年3月以降、前年よりも24%増えたとの答え。編集長の佐々木寛子さん(36)は「芸能人の妊娠・出産が昨年多かったことが影響しているかもしれません」と推測する。
妊娠しやすい体づくりなどの情報を発信する「妊活・net」へのアクセスも増えていた。月間で数千回だった閲覧数が昨年7月には3万5000回超に。運営する医薬品会社、メルクセローノ(東京都品川区)は「最近は子どもを欲しいと強く思う人が多くなったように感じます」という。
■入籍早める
母親学級で育児について保健師や助産師に教わる(東京都文京区)
「出産を控えた女性の声も拾ってみよう」。東京都文京区の母親学級を訪ねると、この日は満席。小中あゆみさん(32)は「地震で一人は怖いと実感しました。先でいいと思っていた入籍を5月に早めると、すぐ子どもができました」とほほ笑む。結婚を前倒しし、妊娠したと打ち明ける女性は他にもたくさんいた。
「震災で結婚や出産に変化が出てそうね」。家族の現状に詳しい中央大学教授、山田昌弘さん(54)に聞くと、山田さんは首を振った。「結婚についていうと、予定を早めた人はいるかもしれませんが通年では増えませんでした」
厚生労働省によれば、2011年の婚姻件数は推計で67万件と戦後最少。派遣社員やフリーターなど非正規社員を中心に未婚率は上昇している。「生活に不安があると、結婚に至らないことが多い。現在の経済や雇用環境では難しいですよね」
出生率などの将来推計を発表している国立社会保障・人口問題研究所も訪ねてみた。応対してくれた金子隆一さん(55)は「必ずしも、夫婦の希望通り子どもを持つわけではありません」と話す。金子さんが差し出したのは「出生動向基本調査」。約3割の夫婦は理想とする子どもの人数を持てないと考えていた。
理由を聞くと、「子育てや教育にお金がかかりすぎる」「高齢で産むのはいやだ」「自分の仕事に差し支える」などが挙がった。「金銭面で続けて支援したうえで、子育てしやすい環境を整え、将来安心して生活できるようにしないと、たとえ意識は変わっても実現しないままで終わってしまいます」
「家族の絆を再認識したとしても、思い通りにはいかないのかな」。明日香が企業の支援制度を調べていると、現在出産前の休暇中という明治安田生命保険勤務の関由美子さん(34)に出会った。「育児休暇が終わって短時間勤務制度などを利用している先輩を見て自分にもできると思いました」と関さん。自身も復帰する予定だ。
育児のための短時間勤務制度は10年、大手企業にまず導入が義務付けられた。自治体が医療費などを補助したり、政府も保育所の不足を解消できるように制度を検討したり、環境を整えようとしている。
仕事と生活の調和を助言するワーク・ライフバランス(東京都港区)社長の小室淑恵さん(36)に聞くと、「企業の様子も変わってきています」と話してくれた。原発事故による電力不足で節電を迫られ、帰宅時間を前倒しする動きは昨夏から広がった。これまで以上に効率よく仕事を進めることが必要になり、業務の見直しなども進んでいるという。
「仕事一辺倒だった男性社員が家族と過ごす時間を大切にするようになりました」。内閣府男女共同参画局の小林洋子さん(45)も「どうすれば節電後の工夫が続くのか、考えていきたいと思います」と話す。
「これで家族を持ちたいという意識が強くなれば、今までと違ってくるかも」。事務所に戻った明日香が報告すると、所長が質問した。「出産だけが家族の絆を強めることにつながるわけではないだろう。ほかにもあるんじゃないのか」
■親と同居も
再び調査に出かけた明日香は社会保障を研究しているみずほ情報総研・主席研究員の藤森克彦さん(46)の元に足を運んだ。藤森さんによると、「単身世帯はこれまで急速に増えてきました」と切り出した。女性の社会進出で結婚しない男女が増えたり、すぐに食べ物が手に入る店ができて一人暮らしでも不便を感じなくなったことなどが背景にあるのだという。
現在は全人口の13%程度が一人暮らしで、今後さらに増えるとの推計もある。ただ、震災によって単身者がこれまで離れて暮らしていた家族との同居や結婚を考え始めるかもしれないと、藤森さんはみる。「単身世帯の増加ペースが鈍る可能性がありそうです」
住宅メーカーの積水ハウスに問い合わせると、昨年3月以降、親との同居や二世帯住宅についての問い合わせは増えているという。
血縁者以外に家族を求めようと考え始めた人もいる。養育家庭や養子縁組の里親になるため、昨年4〜10月に東京都の研修を受けた家庭は、前年同期よりも4割多い。「震災を機に里親制度を知ったという声もよく聞きます」(都福祉保健局)。「難しいことはいっぱいあるけれど、家族の在り方を見つめ直す時期が訪れているようね」
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事務所で報告を済ますと所長がいつになく優しい声で話しかけてきた。「家族は大切にしないとな」。「我が家にも最近、新たなファミリーができました。夫じゃなくて、ペットのネコなんですけれど」
<災害が人口に与える影響?> 「本能的に子孫残す」根拠薄く
「災害が起こると生物は本能的に子孫を残そうとする」。時折出てくる説だが、総合地球環境学研究所の佐藤洋一郎副所長は「大きな環境変化があると、子孫を多く残す種類の動植物が生き残る確率が高くなるだけで、災害があったから子どもを多く産もうと本能が働いたとは限らない」と言う。
団塊世代は入学式もにぎやか(1956年4月、東京都世田谷区)
人類の歴史をひもとくと、大規模な火山の噴火や洪水の後で人口が増えることはあった。ただ、これは、洪水で肥沃な土が運ばれ、より多くの住民を養える環境が整ったことが大きい。戦後すぐの日本のベビーブームも、生活が落ち着きを取り戻したことに加え、戦場から成年男性が戻ったことが影響している。1995年に起こった阪神大震災では、人口に目立った変化が見られない。
今回の震災では、家族の絆を再確認して子どもを持ちたいとの意識が高まった半面、原発事故で被災地を中心に出産への不安も広がった。「福島県の女性は子どもが欲しいという思いと、放射線の不安で揺れている」(同県いわき市の婦人科医師、菅原延夫氏)。本能ではなく、社会制度や心の動きが人口の増減を左右するようだ。
(井上円佳)