【プレミアム】▽スマホにステマで大丈夫ですかあ : 47トピックス - 47NEWS(よんななニュース)
ようやく「スマホ」という言葉になれたと思ったら今度は「ステマ」だと。
ステルス・マーケティングの略だそうだ。ステルスは例えば戦闘機が敵方のレーダーに捕捉されにくくする技術、ないしはシステム。マーケティングは販売、営業。ステルス・マーケティングとは消費者ないし利用者にそれとは悟られずに宣伝・広告をすることを言うらしい。昨年秋頃から目についたり、耳にしたりすることが多くなった。
これって昔からあった「さくら」、だとか「やらせ」だとか言っていたこととどこが違うのかよく分からない。記事体広告でいえばパブリシティというのもあったな。でもパブリシティははっきり宣伝・広告であると分かるように書くことがお約束だけど、ステマの方はそれとは分からないようにもぐり込ませるのだから、たちが悪いといえば悪い。
それにしても最近の言葉の移り変わりの激しさにはついていくのも覚束ない。歳を取ったせいだろうと言われればそれまでだけど、こんなに新しい言葉があふれ、昔からある言葉の意味が変ってくると「同じ日本人じゃないか、話せば分かる」なんて言ってられなくなりそうだ。
最近、耳障りなのは「大丈夫ですかあ」というやつ。先日、家に宅配便が届いて、ドアを開けたら若い女性の配達さんが立っていて、ニコニコ顔で「今井さんで大丈夫ですかあ」と言われてぶっとびそうになった。
わしがいったい何をしたっちゅうんじゃい。けがも病気もしておらん。
配達の女性は「宛先に間違いありませんか」と言いたかったんだと思う。でもそんな時は「大丈夫ですかあ」とはいわないだろう。
病院に行って受付をする時もそうだ。
「お名前様をうかがっても大丈夫ですかあ」と聞かれたりする。
これこれ「お名前様」などと言うではない。ここで診察してもらっても大丈夫か、と思ってしまうではないか。
例えば職場で上司が部下に相談していて「あいつにこの仕事をやらせて大丈夫か」と尋ねたり、道路で転びかけたお年寄りに手を差し伸べて「大丈夫ですか」と声をかけたりするのが本来の使い方だろう。…まあ本来の使い方でなくてもいいんだけどね。
なんでもかんでも「させていただく」のもいいかげんにしてもらいたい。勢いがあまって「やらさせていただく」などと変な言い方が大手を振ってまかりとおってしまっている。使わないにこしたことはないが、どうしても、というなら、もちろん「やらせていただく」でいいのだ。
近頃の耳障りな言葉の氾濫にフンガイしていたら、安井二美子さんという人が書いた「彦根ことばとその周辺」(サンライズ出版)という本を紹介された。滋賀県彦根市出身で40年間関東圏に住んでいるが、「いまだに東京語が自分の言葉になりません」という安井さんは、共通語では表現できない彦根のことばを自身の言語感覚で紹介している。
「ほっこりする」という彦根ことばがある。仕事が一段落してほっとした時に使うが共通語には適切な表現が見つからない。疲れていることが前提だが、遊びで疲れた時には使わない。あえて共通語で表せば「やるべきことを終えて、疲れているが安堵感がある」と冗舌になってしまう、のだという。ほっこりする、という響きのよい言葉は耳にしたことがあるが、疲労感まで意味しているのだとは知らなかった。
彦根ことばで綴った桃太郎もあり、彦根ことばの単語帳的なミニ辞典もある。言語習得期に身に染みた安井さんの言葉への思い入れが伝わってくる。
安井さんは大学で中国語を教えている。なので、彦根ことばと共通語との関係だけでなく、日本語と中国語との関係の中にも言語感覚の食い違いを見つけている。
「お茶が入りました」という日本語表現は、自分が入れたお茶でも相手に精神的な負担をかけない、恩に着せない、という心遣いがある。中国語で言おうとすると、「私があなたにお茶を入れました」というような表現になる。行為の主体を明確にする言語といえる、と安井さんはいう。
どんな言葉であれ、その言葉を育んだ共同体・社会の歴史があり文化があり、構成員に共通の言語感覚がある。むやみやたらに破壊してもらいたくないものだ。
あ、それからこの文章はステマではありませんのでよろしく、ね。
(2012年2月2日 今井 克)