政府は都道府県など計26自治体が独自に運営している中小の水力発電について、東京電力など地域独占の電力会社に限定している販売先を特定規模電気事業者(PPS)にまで広げる方針を決めた。PPSを通じて企業が自治体の電力を購入できるようにする。売却の際の入札の義務化も検討する。水力発電の設置規制も緩和し、自治体の電力供給力の強化も同時に進める。
自治体が運営する中小の水力発電は現在、東電など地域独占の電力会社のみに電気を卸売りしている。この規制を緩め、契約電力が50キロワット以上の企業や病院に電気を小売りしているPPSに販売することも認める。
契約の透明性を高めるため現在の随意契約を改め、競争入札を導入する。総務省の通達などにより、入札方式でPPSが公営電気を購入できる仕組みをつくる。
公営水力発電の総発電量は2011年4月現在で240万キロワット。国内水力発電の約1割を占める。企業でも再生可能エネルギーによる「クリーンな電気」への需要が高まっており、公営水力の売却先をPPSに拡大することで環境志向の強い消費者のニーズに応える。PPS側は例えば「長野の再エネ電気」という料金メニューの多様化で市場を拡大できるメリットがある。
今夏の電力不足をにらみ、政府は自治体の電力供給力を強化するため、中小水力発電所を設置する際の規制も年度内に緩和する。中小水力発電のほとんどは自治体が運営しており、水利権の許認可を簡素化し、環境アセスメントを不要とする。
また、河川や農業用水に水車を設置して発電する小水力発電には全国15地域をモデル地域に選定した実証実験に乗り出す。12年度予算案に7億円を計上し、効率的に発電できる発電設備を開発し、自治体の水力発電普及を後押しする。
公営の水力発電については14日に開かれた経済産業省総合資源エネルギー調査会でもPPS側が「買える電力が不足しており、自治体の電力も一般競争入札を徹底してほしい」と要望していた。
関西電力は15日、富山県黒部市の出し平ダムに最大出力510キロワットの小水力発電所を設けると発表した。出し平ダムが河川環境を保つために放流している水量を使い、2014年12月の営業運転開始を見込む。年間の発電電力量は約170万キロワット時で、一般家庭の約500世帯分に相当する。同社のダム併設型小水力発電は2カ所目。
「マイクロ水力発電」と呼ばれる出力100キロワット以下の超小型水力発電で、中堅中小メーカーが製品開発を競っている。用水路などの僅かな水流を利用して様々な場所に設置できるのが特徴。再生可能エネルギーの全量固定価格買い取り制度が7月に始まることから普及が期待される。
水門・ポンプメーカーのミゾタ(佐賀市、井田建社長)は、水位差のほとんどない水路でも、効率よく発電できる装置を開発した。水車を内部に備えた箱状のユニットを水路に設置、水をせき上げて0.8〜2メートルの落差をつくり、発電効率を高める仕組み。
ポンプで培った技術を活用し、水流が効率的に当たるように水車の羽根の形状を工夫した。
標準的家庭2世帯分に相当する1キロワット時の装置から、20世帯分の10キロワット時まで4種類を発売する。価格は400万〜500万円。浄水場や農業用水を管理する自治体や関連団体などの需要を見込み、初年度5千万〜1億円の売上高をめざす。
機械メーカーの中山鉄工所(佐賀県武雄市、中山弘志社長)が手がけるのは、水が流れ込む入り口を狭め、エネルギー効率を高めた装置。
回転軸が垂直な水車を2つ並べ、水車と水車の隙間に水が流れ込むようにすることで水の勢いを増し、効率よく水車を回せるようにした。水流をせき上げ0.5〜1.5メートルの水の落差をつくり発電する。発電能力1キロ〜10キロワット時の4種類。価格は500万〜1千万円。
特許を所有するシーベルインターナショナル(東京・千代田)が販売を担当、中山鉄工所が製造を請け負う。
小さな河川や水路が多い佐賀県。嬉野市が用水路を使った発電をめざして適地調査を始めたほか、県もダム放水路や農業用水路を利用した水力発電についての調査費を来年度予算に盛り込む方針。
九州では大分県が農業用水を利用したマイクロ発電の実証実験に取り組むなど、佐賀県以外でも自治体の動きが活発だ。再生可能エネルギーの全量固定価格買い取り制度を追い風に、地理的な特徴なども生かせれば、関連産業の育成も期待できそうだ。
(佐賀支局長 檀上泰弘)