京大と名古屋大、炭素材料にホウ素を組み込む新手法。有機エレクトロニクス材料の開発に応用(発表資料)bit.ly/xKOXRk pic.twitter.com/pdYhRRWw
平成24年2月28日
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−革新的な有機エレクトロニクス材料の開発に向けて躍進−
JST 課題達成型基礎研究の一環として、名古屋大学 大学院理学研究科の山口 茂弘 教授と京都大学 化学研究所の若宮 淳志 准教授らは、有機エレクトロニクス注1)材料の革新的な素材の開発法として、ホウ素注2)を炭素骨格に組み込むという新手法の開発に世界で初めて成功しました。
有機エレクトロニクス分野における共通の課題の1つに、電子を流しやすい電子輸送性有機材料注3)の開発が挙げられます。例えば、有機薄膜太陽電池注4)では、正孔(正電荷)輸送性材料の改良により光電変換効率は10%にまで向上して注目を集めていますが、その対となる電子(負電荷)輸送性材料は依然、フラーレン注5)誘導体注6)にほぼ限られており、光電変換効率には限界があるのが現状です。変換効率のさらなる高効率化には、さらに高い電子移動度と電子受容性(電子を受け取りやすい性質)を持つ新しい有機材料を開発することが鍵となります。その分子設計の有効な手段として、炭素材料の炭素のいくつかをホウ素で部分的に置き換えるホウ素ドーピング注7)による電子構造の修飾が挙げられます。しかし、実際に炭素骨格にホウ素を組み込んだ材料を開発するためには、化合物の不安定性という決定的な問題がありました。
今回、ホウ素を炭素骨格に組み込み「完全な平面構造に固定する」という分子設計の新たな概念により、ホウ素を組み込んだ材料が十分に安定化できることを実験的に明らかにしました。また、モデル化合物の効率的な合成手法を開発し、これらにおいて炭素骨格にホウ素を組み込むことで電子を受け取りやすい性質になることも実証しました。
この発見により、従来の炭素材料へのホウ素ドーピングという新手法に基づく材料開発およびデバイス化に道が開かれ、今まで限界があった電子輸送性材料の開発が飛躍的に進むものと期待されます。将来的には、本手法をグラフェンの部分構造やフラーレン、カーボンナノチューブなどのより広い炭素骨格へ展開し、フラーレン誘導体よりも優れた電子輸送性材料を開発することで、高い光電変換特性を持つ有機太陽電池の実現につながることが期待されます。
研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で近く公開されます。
<用語解説> 注1) 有機エレクトロニクスシリコンなどの無機材料に代わり炭素をベースとする有機材料を用いて「軽くて曲がる」という物理的な特徴に加え、印刷プロセスで安価に大量生産が可能なデバイス。有機電界効果型トランジスター・有機電界発光素子・有機薄膜太陽電池・色素増感型太陽電池など。注2) ホウ素13族元素であるホウ素は周期表では炭素の左隣に位置し、炭素に比べて電子が1つ少ない。化学においてホウ素は、これまで反応位置の目印として反応化学に用いられてきた。特にホウ素は、三配位構造の3価の状態で空のp軌道を持つことが特徴である(図6)。注3) 電子輸送性有機材料負電荷を流す半導体有機材料。有機電界効果型トランジスター、有機ELディスプレイなどでは、フラーレン誘導体(注5、注6参照)の他、さまざまな炭素材料も用いられているが、優れた電子輸送特性を持つものは限られている。注4) 有機薄膜太陽電池有機材料で作られた太陽電池。従来のシリコン太陽電池に比べ材料や製造コストが安くさらに曲げることが可能なフレキシブルなものも作れ、次世代型太陽電池として注目が高い。有機材料としては主に正孔輸送性材料と電子輸送性材料を混ぜたブレンド層が用いられる。注5) フラーレン炭素がサッカーボールのように結合した分子。注6) 誘導体化合物の一部を他の原子や原子団で置換したものを元の化合物の誘導体という。主に置換体に用いられるが、フラーレンの場合は水素がないため付加体を指す場合が多い。 有機薄膜太陽電池の電子輸送性材料に用いられているフラーレン誘導体としては、PCBMの他、ICBAやSIMEFと呼ばれるフラーレンの付加体にほぼ限られている。注7) ドーピング半導体シリコンなど無機材料で一般に用いられている技術で、多くの場合ドーパントと呼ばれる微量の添加物を混ぜて電子や正孔のキャリア密度を上げている。用いるドーパント(元素)の特性により、p型n型といった望みの半導体特性を制御することができる。注8) アリール基ベンゼンなど芳香族炭化水素の環に結合する水素が1個脱離して生じる基の一般名。注9) ホスト−ゲスト科学酵素のように特定の分子を選択的に認識し捕捉できる空間を持つ分子をホスト分子、そこに受け入れられる分子をゲスト分子といい、これらの相互作用の研究や分子認識能に関する科学。 <論文名>
“Planarized Triarylboranes: Stabilization by Structural Constraint and Their Plane-to-Bowl Conversion”
(平面型トリアリールボラン:構造制御による安定化とそれらの平面−ボウル型構造変化)
若宮 淳志(ワカミヤ アツシ)
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