東大・奈良先端科技大ら、生きた細胞の内部の温度分布を画像化できる蛍光試薬を開発 (発表資料)bit.ly/xViGVrpic.twitter.com/wHuLlwOO
平成24年2月29日
科学技術振興機構(JST)
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東京大学 薬学部
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JST 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)の一環として、東京大学 大学院薬学系研究科の内山 聖一 助教らの開発チームは、世界で初めて生きた細胞内の温度分布を計測できる蛍光プローブ注1)の開発に成功しました。
細胞温度は、細胞が示すさまざまな機能と密接な関係にあると考えられており、温度を正確に測ることができれば、病態細胞の新しい診断法の確立や、より効果的な温熱療法の適用が可能になると期待されています。しかし従来の技術では、細胞内部の局所的な温度やその分布を測ることが出来ませんでした。
開発チームは、独自に設計した蛍光プローブを細胞の内部に導入し、その蛍光寿命の値が温度に依存して変化することを確かめました。蛍光の寿命は、蛍光寿命イメージング顕微鏡を用いて可視化できます。これらの技術を組み合わせ、細胞内に導入した蛍光プローブの蛍光寿命の違いを可視化することで、生きた細胞内部の温度分布を計測し、画像としてとらえることに成功しました。
今回、生きた動物細胞の温度分布を画像化した結果、細胞核や中心体注2)が特に温かいこと、ミトコンドリア近くでは局所的に熱が発生していることが分かりました。従来から、細胞内で行われているさまざまな化学反応などに伴って、局所的に熱が発生したり、吸収されたりするのではないかと考えられてきました。今回得られた結果は、個々の細胞内部に温度分布があり、それが細胞の機能と密接な関係にあることを、世界で初めて生きた細胞内で実測したものです。
この成果によって、例えば、細胞の種類による内部温度分布の違いを比較することで、がん細胞などの病態細胞の新しい診断法が確立できる可能性が生じるなど、生物学や医学分野の発展に大きく貢献することが期待されます。
本開発成果は、2012年2月28日(英国時間)発行の英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載されます。
本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。
事業名 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)要素技術タイプ 開発課題名 「細胞内温度計測用プローブの開発」 チームリーダー 内山 聖一(東京大学 大学院薬学系研究科 助教) 開発期間 平成22〜25年度(予定) 担当開発総括 奥居 徳昌(東京工業大学 名誉教授)JSTはこのプログラムの要素技術タイプで、計測分析機器の性能を飛躍的に向上させることが期待される新規性のある独創的な要素技術の開発を目指しています。
(参照)
図1 細胞内温度分布計測を可能にする蛍光プローブ本蛍光プローブは、温度変化を感知するNNPAMユニット、細胞内での凝集を防ぐSPAユニット、蛍光シグナルを発するDBDユニットで構成され、平均分子量は約19,300です。
図2 生細胞内の温度分布計測(細胞全体)蛍光プローブを導入したCOS7細胞(4個)の蛍光像(左)および蛍光寿命像(右)です。蛍光寿命像では、蛍光寿命の長い(温度が高い)ところを赤く、短い(温度が低い)ところを青く示しています。この蛍光寿命像より、細胞核(細胞内の丸円部分)の温度が細胞のほかの部分(細胞質)に比べて高いことが分かります。62個の細胞に対してデータ解析を行ったところ、これらの細胞において細胞核と細胞質の平均温度差は0.96℃でした。また同様に、中心体(矢頭で示す)も細胞質より平均0.75℃高温であることが明らかとなりました(細胞35個に対する解析より)。なお、蛍光像内の白線は10μmを表しています。
図3 生細胞内の温度分布計測(ミトコンドリア付近)蛍光プローブを導入したCOS7細胞の蛍光像(左および中)および蛍光寿命像(右)です。右2つの画像は蛍光像(左)内の四角内に対応する拡大像です。また、蛍光像(左および中)において温度計測用蛍光プローブは緑色、ミトコンドリアは赤色で示しています。蛍光寿命像より、ミトコンドリアの近くで局所的に熱が発生している様子が確認できます(矢頭で示す)。なお、蛍光像内の白線は10μmを表しています。
<用語解説> 注1) 蛍光プローブ蛍光試薬の一種。蛍光色素を含む構造体で、観察者が観測したいものや事象を蛍光で可視化するもの。今回新たに開発した蛍光プローブは、温度によってその構造が変化し、それに伴い異なる蛍光寿命を示すものである。これを導入した細胞を蛍光顕微鏡下で観察することで、生きている状態での細胞内変化を鋭敏にとらえることが可能となる。注2) 中心体細胞核の近くに存在する細胞内小器官のこと。細胞分裂に先立って起こる核分裂の際に、中心的な働きをすることが知られている。この働きは、さまざまな酵素などによるいくつもの化学反応の結果であることから、中心体の周囲で、局所的な熱の発生や吸収があることが予想できる。 <論文名>“Intracellular temperature mapping with a fluorescent polymeric thermometer and fluorescence lifetime imaging microscopy”
(ポリマー状蛍光温度計と蛍光寿命イメージング顕微鏡法を利用した細胞内の温度マッピング)
内山 聖一(ウチヤマ セイイチ)
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