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必見!智慧得(403)「村沢義久/家庭用太陽光発電」

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すべての家庭用太陽光発電を24円/kWhに:日経ビジネスオンライン

ユーザー直結のビジネスモデルで普及を目指す 村沢 義久  【プロフィール】    

 前回、設置コスト29万円/kW(発電コスト換算で19円/kWh)という驚異的な低価格による太陽光発電システムについて紹介した。これを実現したのは、フジワラ(千葉県船橋市)とエイタイジャパン(千葉県鎌ケ谷市)を中心としたグループ(以下、フジワラ/エイタイ)である。この記事に対する反響は非常に大きく、フジワラ/エイタイには全国から照会が殺到している。彼らがやろうとしていることは格安太陽光発電の急速な普及だが、同時に日本の古い商習慣を打ち破る可能性を持つ大いなる挑戦でもある。

メーカー主導の限界

 新しい製品や技術の普及のためには何か起爆剤が必要である。太陽光発電について言えば、これまで、普及の最大のネックが高コストであったことを考えると、圧倒的な低コスト化こそが最大の起爆剤になるはずだ。

 インターネット上でも「激安」をうたうサイトが増えてきたことは心強い。しかし、調べてみると、安いものでもだいたい47万円/kW、発電コストに換算すると32円/kWh程度である。2010年の設置コスト平均が61万円/kW、2011年後半でも53万円程度だったから、確かに平均よりかなり安いことは間違いないが、起爆剤としてはまだまだ不足だ。

 メーカー主導で、従来型の代理店方式の販売ルートを使っていてはこの程度が限界である。代理店とは、メーカーの代理であり、消費者の利益を代表するものではない。メーカー主導による、売る側の論理が支配する20世紀型のビジネスモデルの行き詰りである。

 となれば、これまでの古いビジネスモデル(商習慣)を創造的に破壊することが必要だ。それに挑戦するのが、フジワラ/エイタイである。フジワラの本業は宅地造成工事など。エイタイジャパンは中国深圳にある工場でTUV(ドイツの規格団体)認証取得済みのパネルを製作しているメーカーと取引をしている。

ユーザー直結のビジネスモデル

 日本の産業の悪い方の特徴の1つとして、流通経路が長いこと(多層構造)が挙げられる。典型例は建設、土木の分野で、元請け、下請け、孫請け、(さらに場合によってはひ孫請け)という垂直重層構造になっている。ほとんどの場合、本当に仕事をしているのは最底辺の孫請け(あるいはひ孫請け)だけであるにも関わらず、上流側のそれぞれの層で口銭などの経費が発生するので、全体として高コスト体質になっている。

 この業界に詳しくない人は、コーヒーショップの例を考えると分りやすい。ウエートレスがいる店は1杯500円以上と高く、セルフ店は150〜300円と安い。ここで、ウエートレスが多層構造になっていたらどうだろうか。元請けウエートレスは単にコーヒーを下請けウエートレスに渡すだけ。次に下請けウエートレスが1m運び、最後に孫請けウエートレスが残り4mを運び客に出す。こんなことをやっていたら、コーヒー1杯が2000円ぐらいになってしまう。

 同様の問題が、かつては消費財の流通にも見られた。メーカーから消費者に届くまでに一次、二次、三次問屋といった多くの卸店が存在し、最後に小売店に到達する。

 筆者は、1980年代後半に経営コンサルタントとして、消費財の流通改革に取り組んだことがある。一言で言えば、実際に小売店に納入している(本当の仕事をしている)二次問屋(場合によっては三次問屋)を地域限定の代理店に格上げし、単なる仲介役として、口銭を取っているだけの一次問屋(場合によっては二次も)を排除した。これが、「中抜き」の考え方である。現在では卸問屋を全く通すことなく、メーカーから小売までの直接取引も珍しくなくなった。

 流通の上流側を排除し、下流側の三次問屋や孫請けを活用することは、ピラミッド型から「文鎮」型へのビジネス構造の転換である。それはまた、従属的な垂直構造から対等な水平分業へのシフトでもある。この改革により、末端で実際に仕事をする人が報われる仕組みを作っていける。しかも、それは、地方経済の活性化にもつながるものだ。そして、このやり方は、太陽光発電ビジネスにも応用できるのである。

 太陽光発電システムの場合には、メーカーが製造したパネルがまず商社を経由して問屋に卸された後、代理店などに入る。さらに工事店を経由してユーザーの元へ届く。これを中抜きする。フジワラ/エイタイが一種のシステムインテグレーター(SI)となり、メーカーから直接仕入れたパネルや機器類を、格安の価格で工事店に販売する体制を確立しつつある。

  DIYの発想からスタート

 ここまでは、ビジネスプロセスを少しずつ段階的に「改善」する方法である。現在の商習慣の中で、どこに無駄があるか、どうすればコスト低減ができるか、と考えるのである。

 改革にはもう1つの、もっと本質的なやり方がある。それは、現在のやり方に全くとらわれることなく、ゼログラウンドからいきなり一種の理想形を目指す方法である。フジワラ/エイタイは、こちらも視野に入れている。中抜きどころか、工事店さえ飛ばす究極のビジネスモデル、つまり、DIYビジネスである。太陽光発電のセルフ化と言ってもよい。この点で、当初アドバイスした私の考えより一歩先を行っている。

 太陽光発電のDIYは、従来の日本の考えの中では「突拍子もないこと」だが、海外では太陽光発電システムのDIYに関するウエブサイトがたくさんあり、DIYキットや講習コースが紹介されている。従って、フジワラ/エイタイにとってはしごくあたり前の発想であった。当面は、従来型の工事店経由の販売を中心に進めるが、DIYビジネスについても教育体制の充実などに取り組み、積極的に開拓していく予定である。

 ただし、安さだけでは日本のビジネスは成功しない。価格と同様に重要視されるのが品質と安全である。品質の良さを証明する最善の方法は実績を示すことである。最近、そのための格好のチャンスがやってきた。あるユーザーが、エイタイジャパンが仕入れた中国製パネルと日本の大手メーカー(S社)のパネルを並べて設置したのである。まだ、テスト開始から1カ月ほどではあるが、その実績データを見る限り、両社に大きな違いがない。価格的には2倍以上の開きがあるのに対し、発電量の差は5%程度である。

 

 さらに、品質の信用度を高めるために、JET認証(電気製品の安全の第三者認証制度)の手続きも進めている。とは言うものの、太陽光パネルには可動部分がないため、元々ほとんど故障することはない。問題が起こりやすいのは、屋根からの雨漏りなど工事に関係する部分と、制御を担うパワーコンディショナー(PC)である。PCは10年程度で取り換えが必要と言われるし、途中で故障の可能性もあるが、現状ではほとんどが国産である。従って、パネル自体は国産であろうと外国製であろうと本質的に問題はないということになる。

真のネットメータリングへ

 住宅用太陽光発電の買い取り制度については、現状では発電量から自家使用分を差し引いた余剰分のみを対象としている。逆に発電できない夜間や悪天候時には電力会社から買うことになる。売った分、買った分のそれぞれにメーターがあり、月末にはその差額(正味=ネット)を精算することになる。そのため、この方法はネットメータリングとも呼ばれる。

 現在は、家庭が電力会社から買う値段がだいたい24円程度であるのに対し、余剰分の売値は42円である。これは、普及のためにはありがたい制度であるが問題もある。電力会社による割高な買い取り価格が、一般ユーザーの料金に上乗せされるからだ。しかし、太陽光発電のコストを24円まで引き下げることができれば、電力会社との売り買いの値段を同じにでき、厳密な意味でのネットメータリングが可能になる。

 同じ太陽光発電でも、メガソーラーは大規模で需要地から離れているから様々な間接経費が発生するし、事業としてやるのだから最低限の利益確保も必要だ。さらに、オフィスや工場など業務用への供給まで視野に入れると、24円ではまだ高い。しかし、家庭用の場合は、屋根で発電して居間まで下ろすだけなので、間接費などはかからないから、電力会社からの購入価格である24円まで下げればよいのだ。とりあえず、今年中にすべての新規の家庭用太陽光発電のコストを24円/kWhまで引き下げることが当面目指すべき目標である。

ビジネスモデルの普及が課題

 従来の、メーカーを起点としたトップダウンの流通は、高コストではあるが、広域に展開しやすいという長所を持っている。いわば、大動脈から毛細血管まで流すようなものだから全身に行きわたる。逆に、「中抜き」により地元企業経由で直接ユーザーに販売する形態では、コストは削減できる代わり、その商圏は狭い範囲に限られる。彼らは地域密着型なので、広域展開は難しいのである。

 実際、フジワラ/エイタイでも、29万円/kWという格安価格を提供できるのは、提携する工事店の守備範囲内に限られる。従って、このビジネスモデルを普及させるためには、全国に第二、第三、第四のフジワラ/エイタイの誕生が必須である。

 低コスト太陽光発電の普及について、「外国のパネルメーカーに儲けさせても意味はない」という趣旨のコメントをいくつかいただいている。だが、その指摘は正しくない。理由の第一は、日本は貿易立国であること。得意分野の製品やサービスはどんどん輸出するが苦手分野では鎖国という考えでは世界に通用しない。3.11後の日本には、減原発と減CO2実現という大きな課題がある。その達成のためにはコストパフォーマンスの良い太陽光パネルをどんどん使うことが必要である。

 第二に、太陽光パネルのような国際商品については、「国産」「外国製」の区別をつけることが次第に難しくなっている。これからは、ブランド的には日本メーカーのものであっても、外国製品のOEMであったり、自社製であっても工場は中国やマレーシア、ということが普通になってくるからだ。

 第三に、パネルがどこ製であっても、工事を行うのは地元の工事店である。「付加価値」の点では、設置工事などのほうが重要だ。すべて国内の業者の手に落ちるので、地方経済活性化への貢献が期待されるのである。

 今年の5月には、日本中にある54基の原発がすべて停止する可能性が高くなってきた。夏までに運転再開できなければ、電力は昨年以上の需給ひっ迫となる。さらに、化石燃料の輸入増により発電コスト上昇と電力料金値上げが予定されている。加えて、イランがホルムズ海峡を封鎖すれば日本の原油輸入の8割がストップすると言われる。

そういう時に、格安の太陽光発電システムは救世主になり得る。太陽光は政治や経済の影響を全く受けず、世界中に降り注ぐ(日照時間は異なるが)。ドイツは2010年の1年間に740万kWもの新規導入を実現している。日本でも1日も早く年間500万kWレベルまで市場を拡大したい。

 現在は、20世紀型の古い体制と21世紀に期待される新しい体制が激突する「第二の幕末・維新時代」である。20世紀を支配したキーワードは、中央、集中、大企業、メーカー主動。21世紀は地方、分散、中小企業、消費者主導の時代である。私たちが進める太陽光発電の普及は、日本の古い商習慣の打破にもつながるものである。

 

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