食糧不足解決へ…大麦「進化」酸性土壌に適応 岡山大が解明 - MSN産経ニュース
世界各地で栽培されている大麦が、植物が生育しにくい酸性土壌にも適応する仕組みを岡山大の馬建鋒教授(植物栄養学)の研究グループが解明した。応用すれば、酸性土壌でも栽培可能な作物の増加が期待できるという。7日付の英科学誌ネイチャーコミュニケーションズ電子版に掲載された。
酸性土壌は毒性の強いアルミニウムイオンが溶け出すことで、根の成長を妨げる。大麦はアルカリ土壌の近東が起源だが、栽培域が拡大する中でアルミニウムイオンへの耐性を備え、日本をはじめ、酸性土壌が広がる東アジアでも栽培されている。
馬教授は、他の品種に比べて、酸性耐性品種はクエン酸分泌を促す特定の遺伝子が活発に働き、根の先からクエン酸を分泌させてアルミニウムイオンを無毒化していることを発見。今回、東アジアで栽培されている20種の酸性耐性品種のDNAにだけ存在する約千の塩基の組み合わせがこの遺伝子を活性化させ、アルミニウムイオンを無毒化する仕組みをつきとめた。
耐性のない品種にこの塩基の組み合わせを導入したところ、耐性が高まったといい、馬教授は「大麦や他の作物にも導入することで、世界の耕地面積の3〜4割を占める酸性土壌でも栽培できる作物を作り出し、食糧問題やエネルギー問題の解決にも貢献できる」としている。
馬 建鋒(マ ケンボウ) (MA Jian Feng)
生年 1963年
現職 岡山大学資源生物科学研究所 教授 (Professor, Research Institute for Bioresources, Okayama University)
専門分野 植物栄養学
略 歴 1984年 南京農業大学土壌及び農業化学部卒 1987年 京都大学大学院農学研究科修士課程修了
1991年 京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了 1991年 農学博士の学位取得(京都大学) 1991年 (財)サントリー生物有機科学研究所博士客員研究員 1995年 岡山大学資源生物科学研究所助手
1999年 香川大学農学部助教授 2005年 岡山大学資源生物科学研究所教授(現在に至る)
授賞理由 「植物のミネラルストレス耐性機構に関する研究」
(Studies on Tolerance Mechanisms of Mineral Stresses in Higher Plants) 馬建鋒氏は、世界の耕地面積の7割を占める酸性土壌およびアルカリ性土壌環 境における作物生育の阻害因子となるミネラルストレスについて、植物の耐性・ 適応機構を明らかにし、世界の食糧不足問題を解決するための基礎的研究を行っ
た。 酸性土壌におけるAl排除機構として植物の根が分泌するキレート物質の特
定とその遺伝子座の決定を行い、無毒化機構としてソバでは Al―シュウ酸錯体が 液胞に集積することを解明した。一方、アルカリ性土壌に適応するムギ類のムギ ネ酸類の生合成経路と主要水酸化酵素遺伝子の染色体上の位置の決定、および細 胞膜に局在する鉄―ムギネ酸錯体による鉄吸収の分子機構を明らかにした。さら に、ミネラルストレスを軽減するケイ素の集積機構について、イネ根のケイ酸輸 送体遺伝子を単離し、その細胞膜局在を明らかにした。
これら一連の研究成果は、作物栄養生理学や農芸化学の基礎研究としてきわめ て優秀であるだけでなく、植物生産性の向上にも直接貢献できる研究として高く 評価できる。