ドイツ大使が語るドイツの脱原発とエネルギー政策です。復興金融公庫(KfW)による洋上風力10施設推進、送電系統の整備、配電系統のスマートグリッド化、送電ロスの少ない高圧直流送電設備の建設計画、建物のエネ効率化等々。なかなか系統的です。 goo.gl/JPMHi
RIETI - ドイツにおけるエネルギーの将来への道筋確実かつ費用負担可能で環境にやさしいエネルギーを求めて
駐日ドイツ連邦共和国大使
ドイツのエネルギー政策がかつてこれほどまでに日本で注目されたことはない。実際、昨年夏ドイツ連邦議会で可決された法律は極めて重大な決定であり、原子力エネルギーからの撤退を大幅に加速するという意志の表れである。この法律は、福島原発事故発生後大多数の国民の支持を受け成立したもので、それゆえ、2011年3月11日とその後の日本の出来事に直接関係するものであるといえる。この法律の決定内容を実行に移すのは、ドイツのエネルギー政策にとり非常に大きな試練である。採るべき方策、起こり得る障害について徹底的な分析が必要である。
すでに2010年の秋、ドイツ連邦政府は「エネルギー計画(Energy Concept)」を決定し、再生可能エネルギー時代への道筋を示していた。とはいえ同計画では、再生可能エネルギーが確実にその役割を果たすようになり、必要なインフラが確立されるまでは、引き続き原子力エネルギーが「橋渡し」の役を担うこととされていた。これに対して今回の決定以降は、ドイツが遅くとも2022年に原子力発電から完全撤退するまで必要な「つなぎ」役は化石燃料が担うものとされている。
脱原発をより早期に実現するには、「エネルギー計画」において示されたエネルギー供給体制の根本的変革を大幅に加速させる必要がある。それゆえ、私たちは同計画をさらに発展させていく。再生可能エネルギーへの転換とエネルギー効率向上を図り、安定性・環境親和性・競争力の高いエネルギー供給体制を構築していくという同計画の基本戦略方針に変更はなく、この方針は今回の決定の土台ともなっている。同計画に掲げられた目標は、野心的であるが、実現可能である。
野心的な気候変動防止の取り組みは、引き続き、エネルギー供給体制変革の重要な原動力である。そこから、イノベーションや技術的前進にむけた投資の主要な動きが発生する。それゆえ私たちは、「エネルギー計画」において決定された、2020年までに1990年比で温室効果ガスを40%削減、2030年までに55%、2040年までに70%、2050年までに80%から95%削減するという気候変動防止目標の重要性を強調している。
エネルギー供給体制の根本的変革は、何より次の世代にもチャンスをもたらすものだ。我が国は、未来のエネルギー供給への道を切り拓く先駆的な役割を果たしている。ドイツは、高効率で再生可能エネルギー利用に支えられたエネルギー供給体制を主要先進国として最初に確立する国になり得る。しかしそのためには、現実的思考、理性、節度をもってのぞむことが大いに必要となる。私たちはイノベーション、先進的技術、実効性と費用効率の高い手段、環境と気候への負荷を抑えつつ市場志向、競争力志向の高い政策を追求していく。
ドイツ連邦政府は、エネルギーシステムの変革を加速するため、以下の決定を行った。
これからのエネルギー供給体制の中心となるのは、再生可能エネルギーの一層の迅速な普及拡大である。電力市場で再生可能エネルギーの割合が高まっていくような土台づくりを行い、これを進めなければならない。それには、従来型の発電と再生可能エネルギーによる発電が最適な形で組み合わせられねばならない(再生可能エネルギーの市場とシステムへの統合)。また、再生可能エネルギーの発電を、より需要の変動に合わせられるようにし、系統安定性、供給安定性を可能とするようなシステムを確立していかなければならない。他方、蓄電設備の整備、従来型発電設備の弾力的運用の向上により、再生可能エネルギーによる発電量変動を補う機能の拡大が必要である。
電力料金の負担可能な水準を維持するため、再生可能エネルギーの普及拡大においては費用効率への配慮が必要である。ニッチマーケットからボリュームマーケットへの拡大を進めなければならないが、これが早く進むほど、再生可能エネルギー時代への移行がもたらす成長のダイナミズムは大きくなる。今ある費用削減の余地を最大限に掘り起こし利用することで、再生可能エネルギー法(EEG)に定められた(最終的に消費者が負担する)再生可能エネルギー賦課金が1キロワット時あたり3.5セントという現在の水準を超えることなく、逆に長期的には、引き下げ余地が生まれるよう取組んでいかなければならない。風力は、再生可能エネルギーの中で、迅速かつコスト効率の優れた形の発電が最も期待できる分野である。
ドイツ連邦政府は、再生可能エネルギー法(EEG)を改正し、再生可能エネルギーの大幅な普及拡大の実現、コスト効率の向上、市場・システムへの統合強化を図っていく。そのため、以下のような措置を講じていく。
再生可能エネルギー法の原則を維持し、安心して計画を立て投資が行える環境を保つ。 沖合風力、水力、地熱等、従来の補償額(固定買取価格)が充分でない部分の改善を図る。逆に、過剰な奨励、補助の無駄となっている部分の補償は抑制していく。 例えば太陽光発電設備における出力に応じた逓減率の変更(「フレキシブル・キャップ」)は、半年ごとに見直し、バイオマス発電に関しては、補償体系の大幅な簡素化を図り、「グリーン電力特権(Green Electircity Privilege)」に関しても補助が無駄に支給されている部分を抑制していく。
再生可能エネルギーは、供給安定性の向上に、より積極的な役割を果たしうる。私たちは、再生可能エネルギーで発電された電力が総電力消費に占める割合を、現在の17%から2020年までに35%に拡大するという目標を設定した。送配電網系統の拡充を加速させ、市場統合・システム統合を強化し、電力貯蔵設備の利用を拡大することにより、より電力需要に合った再生可能エネルギーの供給を実現していく。尚、「エネルギー計画」では、電力消費量を2020年までに10%削減するとの目標が打ち出された。電力消費の抑制も、電力供給の安定性強化につながる要因である。
エネルギー集約型産業は、我が国の経済生産に重要な役割を果たしており、その総就業者数はおよそ100万人にのぼる。連邦政府は、電力多消費型の企業に対し、排出権取引による電力価格上昇についての包括的な調整措置を設け、「エネルギー気候基金」から最大5億ユーロを拠出し、必要に応じ連邦予算からの追加拠出も行う。こうした方針を、欧州レベルにおける措置も併せて徹底していく。また、再生可能エネルギー法(EEG)における電力集約的企業のための特別な調整措置をより弾力的かつ広範なものとしていく。
復興金融公庫(KfW)の総額50億ユーロにのぼる融資プログラム「オフショア・ウィンドエナジー」を通じ、沖合風力発電のドイツにおける導入にあたり最初の10施設への支援が行われる。当該施設における経験から重要な情報を収集するためである。洋上風力分野には今投資を行うことが必須である。軌道にのったのちのコスト削減余地は大きく、これを早期に活かすことにつながるからである。また、「海上施設令」の改正により、ドイツの排他的経済水域(EEZ)における施設に関する許認可手続の簡素化・迅速化を図っていく。
送電系統の拡充は、再生可能エネルギーの普及拡大を図る上で極めて重要である。送電系統の整備を迅速化するための法律(系統整備迅速化法 NABEG)を制定することで、送電網インフラを加速的に拡充するため必要な要件を整える。これはとりわけ、北部ドイツの風力発電設備から南部の消費地への送電について必要である。系統整備迅速化法の政府案では、長距離送電設備については、計画・認可手続が連邦ネットワーク庁に一本化されることとなっている。これについては、連邦経済大臣と連邦首相府長官を座長に各州が協議する作業グループが設けられ、予定されている法改正の詳細を可能な限り幅広い合意のもと詰めていく。こうした措置により、認可の事務手続主体が統一されることとなる。また、計画への関係者・一般市民の広範かつ早期の参加も確保される。国境をまたぐ送電設備の建設について、また、110kV線の地中線の敷設については、諸条件の最適化を図っていく。沖合風力発電施設の接続に関しては、費用・作業量のかさむ個別接続ではなく、より容易に施設をまとめて接続することを可能にしていく(クラスター接続)。将来送電線が通過することになる市町村は、奨励規定を適用し送電系統運営事業者との間で金銭的補償を取り決めることができる。
エネルギー事業法(EnWG)を改正し、スマーグリッド、スマートストレージ導入・拡大の基礎を整備する。変動の多い再生可能エネルギーを系統に統合していくためには、貯蔵(ストレージ)の仕組みは欠かせない要素である。それゆえ、新たな貯蔵設備を設置した場合、通常支払が必要な系統利用料を免除することとする。また、長距離・大容量の電力・ガス供給系統のために今回初めて拘束力ある包括的な供給系統拡充計画が(エネルギー事業法に基づき)策定されることとなった(「系統開発10カ年計画」)。「系統開発計画」は、一方で必要な規模のインフラ整備・拡充を行い、他方で関係各方面との広範な協議を通じて整備事業に対する市民の理解を拡大できるよう策定していく。連邦議会は、この系統開発計画に基づき、「連邦需要計画」を法律として制定し、系統拡充の需要を拘束力ある形で確定する。さらに、送電ロスの少ない高圧直流送電設備(HVDC)の建設計画に関しても、枠組みの改善を図っていく。系統整備迅速化法(NABEG)並びにエネルギー事業法(EnWG)改正を通じ、系統拡充のあらゆる手続き段階において市民参加の機会を大幅に拡大していく。
現在建設中の火力発電施設は、2013年までの速やかな工事完了が不可欠である。これに加え、安定供給の供えとして、すでに建設中のガス発電所、石炭火力発電所に加え、2020年までに、保証出力合計最大10ギガワットの発電能力を確保する。計画迅速化法(準備中)を制定し、必要な設備建設の早期確保を図る。
建物分野のエネルギー効率向上と温暖化防止については、今後も経済的な奨励措置と省エネルギー法に掲げられている要件が、取組を進める上で重要な要素であり、建物の省エネ基準は野心的な形で引き上げていく。全体の均衡を見て、所有者と賃借利用者の過大な経済的負担が懸念されない場合、2012年の省エネルギー令(ENEV)により、2020年までに新築建物の省エネ基準と、将来の欧州共通の「二アリー・ゼロ・エネルギー」(NZEB)基準との調和を図る。政府は、2012年より、政府建物全てに「二アリー・ゼロ・エネルギー」基準を適用することで、先行モデルを示していく。
エネルギー関連の建物改修はCO2排出抑制と省エネにつながるものであり、「CO2建物改修プログラム」の助成規模を2011年の9億3600万ユーロから、2012年から2014年にかけ15億ユーロに拡大する。また、建物分野の控除措置を拡大していく。さらに政府は、2015年に予算中立的な措置(「ホワイト証書」等)を導入できないか検討する。
公共調達における受注者決定の重要な基準として高いエネルギー効率基準を定め、法的拘束力をもたせていく。その第一歩として、「公共入札令」の必要な改正を実施する。行政が、製品や請負・役務に関する契約を行う場合、基本的にはエネルギー効率において最も優れた水準にある応札者に発注を行わなければならない。
原子力エネルギーを利用する世代は、その利用に伴い発生する放射性廃棄物の貯蔵・処分についても対応を考えなければならない。それゆえ、ゴアレーベンのサイト調査を、サイト決定の結論を先取りすることなしに今後も進め、同時に地層特性からみた一般的なサイト適合性の基準並びに他の処分方法を採用する可能性につき、調査を行う。そして、これについて連邦政府は、できるだけ早く立法措置の提案を行う。
再生可能エネルギーの普及拡大とシステムへの統合強化を図るため、配電系統のスマートグリッド化が必要である。こうした新たな配電網においては、データ・情報の保護・安全性の保証が図られなければならない。分散型の発電調整・負荷管理を可能にし、再生可能エネルギーの系統への統合と系統負荷の最適化を可能にし、電力消費者側における省エネ余力の利用徹底化を可能にするこうした配電網が、市場に支えられた形で構築されるための環境を順次整えていく。変動の大きい再生可能エネルギーによる発電に安定性をもたらすため、新たな蓄電・エネルギー貯蔵技術の開発と応用が必要である。また、ドイツをはじめ欧州における再生可能エネルギーの普及を一層拡大し、その効率的な組み合わせを実現しなければならない。
さらに、エネルギー効率向上を進め、建物・電力消費の双方で眠っている可能性の徹底的な利用を可能にするための基準・標準等をさらに発展させる新たな戦略が必要である。また、かなりの部分を再生可能エネルギーによりまかなう電力供給体制となっても、柔軟で安定した出力をいつでも利用できるよう、電力分野の新たな市場設計を行う必要がある。
新たな低炭素型エネルギー供給体制に向けた移行は、欧州の文脈、国際的な文脈を踏まえて進めていかなければならない。直面する課題に対処していくためには、「エネルギー計画」に掲げられた目標をしっかりと実現し、欧州のエネルギー経済と産業の競争力の持続的強化を図っていくことが基本とされなければならない。
決して容易な道ではないが、ドイツ連邦政府・議会ともに実現可能性を確信している。ドイツは、国力の面でも、経済力の面でも世界のトップクラスに属する。その前提となっているのは、ドイツ企業への競争力ある形でのエネルギー供給である。国民は、電気が、昼夜のいずれの時間においても、量を問わず適正な価格で消費できるものであることを当然としており、この電力供給の信頼性にも変更があってはならない。私たちは、ドイツのエネルギー供給体制が経済的な基盤を強化し、イノベーションと技術の進歩の推進役となり、私たちの生活基盤としての自然を壊さず、気候変動の防止に貢献するものとなるよう取り組んでいく。野心的だが、達成可能な目標である。