大久保 聡 2012/03/22・23・27
熱放射を加えた熱対策(第1回) - グリーン・デバイス - Tech-On!
東日本大震災に端を発する電力不足の影響で、省エネが特徴のLED照明器具の出荷数量が急増している。例えば、数量ベースでLED電球が電球全体のシェア・トップに立った。家庭の天井灯に使うLEDシーリングライトは金額ベースで品目別のトップである。オフィスでの導入も進む。ある照明器具メーカーによれば、2011年のLED照明器具の売上高は2009年比で約10倍になる見込みという。
LED照明器具はもはや特別なものではなく、しっかり市民権を得たといえよう。伸び盛りのLED照明市場に魅力を感じ、新規参入するメーカーは後を絶たない。既存や新規参入、そして国内や海外のメーカーを問わず、数多くのメーカーがLED照明器具の製品競争を繰り広げている。
今後、一層激化するとみられる製品競争で抜き出るカギは何か――。そのヒントになりそうな技術がある。光源である白色LEDの放熱対策だ。白色LEDが発する熱を効果的に逃がせれば、白色LEDの発光部分の温度、いわゆる接合温度の上昇を抑えられる。接合温度が低いほど発光効率を高くできるので消費電力を抑えられ、製品が“エコ”であることをより強調できる。あるいは、従来と同じ接合温度で動作させるのであれば、少ない白色LEDに電流を多く流すことで明るさを稼ぎ出すことも可能だ。部品コストの抑制が狙え、製品の低価格化にもつながる。
熱放射への期待度大もちろん、LED照明器具ではこれまでにも放熱対策が採られてきた。アルミニウム基板など、熱伝導率が高い金属製のヒートシンクによる熱伝導を使い、白色LEDの熱を逃がすのは常套手段だ。LED照明器具は筐体内が密閉されているケースが多く、かつ筐体内は狭いので筐体内の空気を利用した対流による放熱はあまり期待できない。そのため、熱伝導による放熱に頼ってきた。
だが、より効果的な熱対策を施すことを考えると、熱伝導に加え、熱放射を活用することが重要になるとみられる(図1)。熱対策のコンサルタントであるサーマル デザイン ラボ代表取締役の国峯尚樹氏によれば、筐体が密閉型かつ対流による熱移動が望めない状況ほど、熱源から熱放射で筐体などに熱を放出する重要性が高まるという。放熱手段を通信にたとえるならば、有線の経路を使ってデータ(熱)を伝えるのが熱伝導、無線の経路を使うのが熱放射といえよう。
図1 放熱ルートは伝導・対流・放射 : 機器内部で発生した熱は、伝導と対流、放射によって外部に放出される(a)。放熱経路は、熱抵抗による等価回路で表現できる(b)。密閉型の筐体では、放射による放熱を効果的に活用したいところだ。(図:サーマル デザイン ラボ 代表取締役の国峯尚樹氏)
熱放射を加えた熱対策(第2回) - グリーン・デバイス - Tech-On!
セラミックスを活用放熱部品としてセラミックス材料を展開する西村陶業によれば、そこにいち早く気付いた照明器具メーカーは熱放射を活用した製品開発を強化しているという。西村陶業が行った密閉型筐体内の熱源からの放熱実験を見ると、熱源に貼り付けた放熱体の熱放射率の影響が明確に現れることが分かる(図2)。
図2 セラミックスの放熱板で熱放射を生かす 密閉型筐体内に配置した発熱体に密着させる放熱体の材質による、発熱体の温度変化の様子。放熱体の材料にアルミナ(図中N-9B、N-9H)を使うことで、発熱体の温度上昇が金属材料を用いるよりも抑えられることが分かる。(図:西村陶業の資料を基に本誌が作成)放熱体と筐体が接する面積が限られる状態では、熱伝導率が高い金属よりも、熱伝導率は低いが熱放射率が高いセラミックス(例えばアルミナ:Al2O3)の方が熱源の表面温度上昇を抑制できるのだ。
LED電球への応用を考えると、図3(a)のようになる。現状、白色LEDをアルミニウム基板などの放熱板に実装しているが、ここをアルミナに切り替える。白色LEDとアルミナの放熱板を一体化する手もある(図3(b))。アルミナ放熱板の表面から筐体内部に向けて電磁波として熱を放射させるのだ。筐体の内側には熱を吸収しやすいように、樹脂などを塗布しておく。なお、筐体内部の電源回路が熱放射で加熱されないように、電源回路には熱を反射させる工夫が必要だ。
図3 熱放射を活用したLED照明の例 熱放射を使うことで、セラミック基板から熱吸収層付きヒートシンクに直接熱を逃がすことが可能である(a)。LEDチップからセラミック基板に熱を効果的に逃がせるように、西村陶業はLEDチップを直接実装できるセラミック基板の開発を進める(b)。放熱板を金属からセラミックスに切り替えると、部材コストが上がる懸念がある。だが、セラミックスが電気的に絶縁なことを活用すれば、むしろLED照明器具全体で見た部材コストを引き下げられる可能性がある。従来、金属の放熱板の近傍にある電源回路では部品を絶縁材料で被覆してきたが、こうした処理が不要になるからだ。
映像機器の光源やLSIの放熱でも活躍 実は、熱放射を有効に使って半導体デバイスを放熱する取り組みは、以前から一部の機器で用いられてきた。例えば、数年前にある機器メーカーが発表したリアプロジェクション・テレビでは、密閉型の光源モジュールにおいて、モジュール内部の発光素子の冷却に熱放射を利用した。放熱設計に関わった西村陶業によれば、発光素子にアルミナ放熱板を貼り付け、発光素子からアルミナ放熱板に伝わった熱をアルミナ表面から熱放射で金属筐体に伝えたという。
金属剥き出しでは熱を反射してしまうので、金属筐体の内側には熱吸収できるように樹脂を塗っておいた。当初、発光素子から金属の放熱体で熱を逃がそうとしたが、発光素子のケース温度が仕様値より10℃近く上回ってしまった。アルミナに切り替えることで仕様値に収まったとする。
LSIの放熱にもセラミックスを利用した例がある。西村陶業が海外のある大手テレビ・メーカーの大型液晶テレビを調査したところ、セラミックスの板が画像処理LSIの上に貼り付けてあったという。研究事例では、太陽電池の背面にアルミナを貼り付けることでセルの温度上昇による効率低下を抑え、発電量を約26%高めた発表がある。「公開情報が少ないために、熱放射の有効性に気付いている機器設計者は現段階ではほんの一部」(同社)にとどまっているようだ。
熱放射を加えた熱対策(第3回) - グリーン・デバイス - Tech-On!
熱源との密着性と、小粒径材料がカギセラミックスを使った放熱で数多くの事例に携わった西村陶業によれば、LEDなどの電子デバイスを効果的に放熱するには、(1)放熱板(セラミックス)と電子デバイスの密着性、(2)セラミックスの材質が重要になると明かす。
まず(1)については、放熱板と電子デバイスのそれぞれが接する部分の平坦性を高め、接着剤や放熱グリースなどを使わずに直接貼り合わせてビス止めするのが効果的だという。界面でセラミックスによる熱の吸収を有効に使うためだ。電子デバイスの熱を放熱板に伝える際、界面は熱抵抗になる。電子デバイスと放熱板は接しているといっても、細かな凹凸などがあるために接触している箇所は点であり、厚さ数十μmの隙間が広く存在する。そこで、隙間を狭め、熱放射を利用して電子デバイスから放熱板に熱を伝える。表面粗さ0.5μm以下、放熱板の反りを50μm未満に抑えることができれば、熱移動はスムーズになると西村陶業は説明する。
(2)については、セラミックスの熱伝導率が重要になる。セラミックスは一般に、金属に比べて熱伝導率が低い。白色LEDを取り付ける金属の放熱板をセラミックスに切り替える際、いくらセラミックスが熱放射に優れていても熱伝導率が低いのであれば、白色LEDから受ける熱をセラミックスの放射面に伝えにくくなってしまう。こうした問題に対応するため、西村陶業が放熱部品に用いるアルミナは、熱伝導率を39W/m・Kに高めている。これは汎用材料の2倍、熱伝導率が高い他社品に比べても10%以上高い(表1)。
表1 粒径を1/2にしたことによるAl2O3特性の変化
熱伝導率が高くなる理由として、セラミックスの粒径が10μm以下と一般的な品種の半分にも満たないことを挙げる(表2)。粒界には、材料中の不純物に起因する熱伝導率が低い部分がある。粒径が1/2になると熱伝導を妨げる粒界の表面積は全粒で8倍に広がる。不純物量は同じなので、粒界での不純物の濃度が薄くなりフォノンが透過しやすくなる。その結果、熱伝導率が高まると西村陶業は説明する。
表2 Al2O3材料の材質比較