太陽光発電システムの価格が低下、設置容量は急拡大へ :日本経済新聞
メーカーの過当競争で太陽光発電システムの価格が下がっている。しかも、余剰電力の「全量買取制度」といった政策的支援が加わることで、2012年の太陽光発電システムの設置容量は急激に拡大する見通しである。
2011年の日本の太陽光発電システムの設置容量は、前年比30.7%増の約1.3GW(ギガワット)だった(図1)。設置する際の補助金がなくなった2007年〜2008年に比べると約6倍の規模で、短期間に飛躍的に増えた。補助金が復活したことに加え、太陽光発電システムの価格が下がり、投資した資金を回収する期間が10年程度まで短くなったためである。この結果、2011年末の日本の累積設置容量は約5GWというレベルにまで達した。
図1 日本の太陽光発電システムの設置容量の推移 (出所:太陽光発電協会)
2012年はさらに需要が膨らみそうだ。2012年7月に始まる余剰電力の全量買取制度で、投資が加速する可能性が高いからである。買い取り価格はまだ決定していないが、1kWh当たり35〜40円程度に落ち着きそうで、システム価格が大幅に下落していることを考えると、35円を切るような安い設定でなければ、投資する価値は十分にある。
2012年末の日本の累計設置容量は、2011年と同じ伸び率(前年比30%増)で計算しても6.6GWに達する。買い取り価格が40円前後と高く設定されれば、さらに投資が膨らんで7GWに達するだろう。
■2012年に中国と米国が倍増以上の伸び
世界全体でみても太陽光発電システムの需要は旺盛である。欧州太陽光発電協会(EPIA)の発表によると、2011年の太陽光発電システムの世界設置容量は27.7GWに達した。
これにより2011年末の世界全体の累計設置容量は67GWを上回った(図2)。2011年の最大設置国は、2010年まで1位だったドイツを抜いてイタリアだった。設置容量は9GWに急成長した。これは、同国において他の再生可能エネルギーに比べて太陽光の買い取り価格が高めに設定されたためである。
図2 世界の太陽光発電システムの累計設置容量の推移 (出所:EPIA)
2012年は、中国と米国で大幅に増える見通しである。中国は、2011年に2GWの設置容量だったが、2012年には最低でも2倍の4GW、場合によっては4倍の8GWまで拡大する可能性がある。米国も2倍以上の伸びが予測されている。
中国と米国の伸びによって、他の地域があまり増えなくても2012年の世界の設置容量は35GWに拡大する。この場合、2012年末の世界の累積設置容量は、100GWを超えることになる。これは発電能力で見れば原子力発電所100基分に相当する。発電量で見ても、原子力発電所の約15基分に当たる。原子力を代替する自然エネルギーとして太陽光発電システムが現実味を帯びてきた。
世界全体で太陽光発電システムの需要が旺盛な背景には、大幅な価格下落がある。2008年には1Wあたり4米ドルしていた価格が、2011年末には1米ドルに近づいている(図3)。2012年には1米ドルを下回ってもおかしくないほどだ。
図3 太陽光発電の平均価格推移 中国Suntech社の太陽光発電の売り上げと販売量から日経BPクリーンテック研究所が算出した。
これを反映して、需要は過去最高を更新するほど伸びているが、メーカーの売上高は増えていない。中国メーカーの売上高を見ると、2009年と2010年は各社とも売上高を好調に増やしたが、一転して2011年は下落基調になった(図4)。これは中国企業に限った話ではない。日本メーカーや台湾メーカー、欧州メーカーも同様である。そして、ほとんどのメーカーが赤字に転落するほど市場環境は厳しくなっている。
図4 主な中国太陽光発電システムメーカーの売上高の推移 各社決算データより日経BPクリーンテック研究所が作成した。
2012年は生き残りを懸けてメーカー間の争いが激しくなるだろう。特に急成長する中国市場でのシェア争いが重要になる。中国でどれだけ売り上げを伸ばせるかがメーカーの明暗を分ける。
2011年は中国など海外メーカーが日本市場に参入し、日本メーカーのシェアを奪ったが、2012年は逆に日本メーカーが中国へ進出し、シェアを奪い返すチャンスである。コストで勝てないからという理由で最初からあきらめていては、この先二度と日本メーカーが復活することはないだろう。
(日経BPクリーンテック研究所 菊池珠夫)