事故発生から6カ月以上がたってもいまだに収束しない東京電力福島第1原発事故。原発と石炭火力発電に多くを依存してきた日本のエネルギー政策の根本的な見直しは避けられない。内外の専門家に、日本の今後のエネルギー政策の在り方などを聞いた。
米国の著名な環境シンクタンク、ワールドウオッチ研究所の創設者として知られる著名な環境思想家で、今は環境シンクタンク、アースポリシー研究所代表のレスター・ブラウン博士は、原子力のリスクとともに化石燃料のリスクにも注目すべきだと言う。
―原発事故から何を学ぶべきか。
「三つのリスクに注目するべきだ。地震活動が世界でも特に活発で、人口密度が高い日本に54基もの原発を並べることには大きなリスクがあることは以前から指摘されていた。地震国、火山国である日本にとって最もリスクが大きい発電手法が原発だ。逆に最も潜在能力の高いものが地熱発電なのだが、日本の地熱発電の開発は遅れている。日本は逆のことをやってきてしまったと言える。一方で、化石燃料の大量使用には、『アラブの春』にみられるように政治的に不安定になった中東の石油に大きく依存するリスクや地球温暖化のリスクが高まっているという問題がある。今回の事故はそんな中で起こった。日本人はエネルギーの将来を考え直す時で、決め手は、再生可能エネルギーだ」
―再生可能エネルギーの現状は。
「温暖化の原因となる二酸化炭素を出さず、設備投資が少なくて済むので、米国をはじめ各国で投資が急拡大している。やがては枯渇する油田や炭鉱への投資と違って、再生可能エネルギーへの投資は、地球が続く限り利益が得られる。原発事故はいつ起こるか予測できず、一度発生すると、大量の電力が一度に失われる。これが今回の教訓だ。だが、分散型の再生可能エネルギーにはその心配もない」
―不安定で、量が小さいとの批判があるが。
「どこかで風が吹き、太陽が照っているものだ。風況や天候を予測する技術は進んでおり、安定度は高まっている。設備の数が増えればさらに安定度は増す。トヨタなどが開発を進めているプラグインハイブリッド車が家庭に普及すれば、自動車を蓄電池代わりに使って、ためておいた電力を必要な時に利用することも可能になる」
―原子力は有効な地球温暖化対策だとの指摘があるが。
「建設コストが高く、事故のリスクも大きい原発に頼るよりも省エネや再生可能エネルギーの開発を進める方がはるかに効率的な温暖化対策になる。原発に多大な資金を投じることは、省エネや再生可能エネルギー開発の機会費用を奪うことになるので、逆効果だと言える。米国政府は積極的な原子力の利用を打ち出しているが、米国ではリスクの大きさから原発はずっと昔に投資家から見放されている。政府がいくら支援策を講じてもウォールストリート(の投資家)は反応しない。事故によってこの傾向はさらに強まり、投資は風力発電などの再生可能エネルギーに向かっている。英国など、政府が原発推進の方針を打ち出している他の先進国でも状況は同様だ」
―日本の再生可能エネルギーの可能性は。
「日本には世界有数の地熱エネルギーがある。なぜ、これを利用しないのか理解できない。自然環境保護からの反対があるのは理解できるが、近年は2本の井戸を深くまで掘る新技術が開発され、限られた面積の発電所で大量のエネルギーが得られるようになった。日本には太陽光や風力の資源も豊かで、将来的にはすべての電力をまかなえるだけの能力がある」
―日本のエネルギー政策への提言は。
「日本政府は原子力の研究開発には年間23億ドルの投資をしているのに風力には同1千万ドル、地熱の研究開発への投資はほとんどゼロだ。原子力のための資金を再生可能エネルギーに回せば、多くのことができる。電力市場の自由化と国の支援策が必要で、技術力でまさる日本の産業界はこの分野で世界のリーダーになれるはずだ。日本は、持続可能なエネルギーのためのビジョンを持つべきで、政治家がどれだけ切迫感を持って改革に取り組むかが問われている」(聞き手・井田徹治)
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レスター・ブラウン 1934年、米ニュージャージー州生まれ。米農務省勤務などを経て74年にワールドウオッチ研究所を設立。環境問題に関する報告書や政策提言の発表、環境思想の提案などによって世界的に知られる。食料問題、人口問題、エネルギー問題などに詳しい。2001年、米ワシントンにアースポリシー研究所を設立、代表を務める。