JBEI、微生物によるバイオディーゼル燃料の高効率生産システムを開発。収率3倍増 « SJN Blog 再生可能エネルギー最新情報
DSRSを備えた遺伝子改造微生物 (Image courtesy of Joint BioEnergy Institute)
米国バイオエネルギー共同研究所(JBEI)が、微生物によるバイオディーゼル燃料生産を高効率化する新技術を開発したとのこと。燃料合成に用いる微生物の代謝状態をセンシングし、代謝経路に関与する遺伝子の発現を動的に調整するダイナミック・センシング-レギュレータ・システム(DSRS)を用いるといいます。このシステムによって、グルコースからのバイオディーゼル燃料の生産量が3倍増えることが実証されたとしています。
この研究を主導しているのは、JBEI所長で合成生物学の第一人者である Jay Keasling氏。「ネイチャー・バイオテクノロジー」に論文が掲載されています。
植物バイオマスから得られる液体燃料は、コスト効率の良い商用生産方法が見つかりさえすれば、最も有力な化石燃料代替物になります。これまでバイオ燃料に関しては、植物細胞の中に存在する高エネルギー分子である脂肪酸に焦点を合わせた研究が多く行われています。脂肪酸は「自然の石油」とも呼ばれており、バイオディーゼル燃料の原料としてだけでなく、界面活性剤、溶剤、潤滑油など重要な化学製品の原料としても幅広く使われるようになっています。
「微生物を使って脂肪酸から燃料や化学物質を生産する方法は、化学合成を代替することができる低環境負荷かつ持続可能な技術」であると論文の筆頭著者 Fuzhong Zhang氏は言います。ただし、微生物による化学製品の生産、特にバイオ燃料や低付加価値のバルク品などの生産が経済的に可能になるためには、生産性・滴定量・収率の高さが不可欠であるとします。
Jay Keasling氏とFuzhong Zhang氏 (Photo by Roy Kaltschmidt, Berkeley Lab)
脂肪酸を基にした化学物質の微生物による生産では、生産物の合成過程における代謝のアンバランスが生産阻害要因となります。Zhang氏によれば、代謝経路に関与する遺伝子発現のレベルが低いときには生合成経路にボトルネックが生じますが、逆に遺伝子発現のレベルが高すぎると、不必要な酵素や中間代謝物の生成に細胞のリソースが割かれてしまうという問題があるといいます。さらに、こうした不要な酵素や中間代謝物が集積すると微生物に対して有害な効果を持ち、収率と生産性の低下をもたらすことがあるとします。
合成生物学の技術を用いる上では、この問題に対応するための戦略がいくつか立てられています。ただし、従来の戦略は遺伝子発現レベルを静的に調整するにとどまっているといいます。
「遺伝子発現の制御システムがバイオリアクター内の特定の条件に合わせて調整されている場合、その条件が変わると制御システムが変化に対応できなくなり、生産物の合成に悪影響が及ぶことがある」とZhang氏は指摘します。
研究チームが開発したDSRSでは、合成過程においてバイオリアクター内の微生物の代謝状態に反応するために、遺伝子操作された経路内で鍵となる中間代謝物の検知を行います。次にDSRSは、バイオリアクター内の条件変化に応じて中間代謝物の生産と消費を制御する遺伝子の発現を調整することによって経路を最適化し、生産性を最大化するといいます。
Zhang氏によれば、自然の生物も生合成の中間体を検知する能力を進化させてきましたが、自然に存在するレギュレーターで遺伝子操作された反応経路を十分に調整することは困難であるとのこと。自然のレギュレーターが進化したのは、生物の生存を助けるためであり、化学物質を大量に生産するためではないからです。
DSRSを作り出すために研究チームが焦点を合わせたのは、グルコースからディーゼル燃料を直接生成するように遺伝子操作された大腸菌でした。ディーゼル燃料の生合成経路で鍵となる中間代謝物は脂肪酸アシルCoAであるため、研究チームは最初にこれを検知するバイオセンサを開発。次に、細胞内での脂肪酸アシルCoAのレベルに反応して特定の遺伝子の発現を促進するプロモーターを開発しました。プロモーターが完全に働くのは、脂肪酸と誘導物質IPTGが両方とも存在するときであるといいます。
「生産物の収率が最大化されるように厳密に調整された代謝経路では、プロモーターによって余計な遺伝子が発現されないようにすることが不可欠」とZhang氏は説明します。研究チームが開発したハイブリッドプロモーターは、IPTGによって誘導されるまでは働きが抑制されているとのこと。また、誘導レベルは脂肪酸アシルCoAのレベルによって自動的に調整可能となっています。このため、脂肪酸に基づくバイオディーゼル燃料やその他の化学物質の生産を迅速に調整できるとします。
バイオディーゼル燃料を生産する大腸菌株にDSRSを導入することにより、菌株の安定性が向上し、燃料の収率は3倍増加。これは理論上の最大値の28%に達しており、技術を洗練させることで収率はさらに高まるはずであるといいます。また、DSRSは、脂肪酸ベースの様々な化学物質に加えて、それ以外の物質にも適用可能であるとします。
「自然の生物にたくさんのセンサが存在することを考えれば、DSRSの戦略は他の多くの生合成経路に拡大可能であり、代謝バランスの調整、滴定量と収率の向上、生産用微生物の安定化に利用できる」とZhang氏。将来的には、自然のセンサの有無にかかわらずどんな代謝経路であっても動的調整が可能となり、微生物による化成品や燃料の生産が商用規模で行えるようになるとしています。
(発表資料)http://bit.ly/H34VW4