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メモ「太陽光発電センターは牧畜と共存/フランス:レ・メ村」

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フランス最大の太陽光発電センターは牧畜と共存する ──レ・メ村の選択(前編):復興ニッポン いま、歩き出す未来への道  竹原あき子[工業デザイナー、和光大学名誉教授]

ヨーロッパ再生可能エネルギー事情(1)

電力の75%を原子力発電に頼るフランス。原発依存が高いが、再生可能エネルギーの活用にも力を入れている。フランス最大の太陽光発電所を設けたのは、南仏プロバンスの小さな村だ。そこでは美しい自然の景観と農業が、太陽光発電と共存している。

 独シーメンスなど12の企業が2009年にコンソーシアムを組んだ「デザーテック」構想、フランス政府が2010年に構想を発表した「トランスグリーン」計画。中東からアフリカにまたがる地域に再生可能エネルギー発電基地を設け、送電網を築いてヨーロッパに電力を輸入しようとするこれらの壮大な構想をはじめ、ヨーロッパ各国は再生可能エネルギーの開発に既に着々と手を打っている。

 中東の地下に眠っていた石油資源を思いのままに買い取って使ってきたヨーロッパの先進工業諸国は、その枯渇を前に中東の砂漠に降り注ぐ太陽光という無限のエネルギー源の獲得に走り始めた。

 グローバルなこの構想が予定通り世界のエネルギー問題を解決できる保証はないが、ヨーロッパの国々が国外でのエネルギー確保に頼り、国内での再生可能エネルギーの開発に手をこまぬいているわけではない。

 イギリスは大規模な洋上発電施設を完成させ、ドイツの再生可能エネルギーの割合は2010年時点で既に全電力供給の17%に達している。

 ドイツは東日本大震災後に早々と脱原発を宣言したが、フランスではこれまでエネルギー戦略の転換は次期大統領選の論点になってこなかった。だが4月22日の第一回選挙を目前にし、現職サルコジ大統領の支持率が低下するにつれ、ようやく社会党候補のオランド氏は「電力の原発依存を75%から50%にする」との公約を発表した。

 とはいえ、実はフランスは2007年以来、再生エネルギーへの転換にやっきになっており、フランス政府は原発産業アレバと石油公社トタルに、太陽光、太陽熱、洋上・陸上風力、バイオマスなどあらゆるクリーンネルギー関連企業と技術を外国から買収させている。

 これらの国家レベルの取り組みと平行して、民間企業と地方自治体だけで巨大な再生可能エネルギーの生産に成功した事例がフランスにある事実は興味深い。そのひとつがレ・メ村だ。

土地の起伏がそのままパネルのうねりになって広がる

太陽光で50メガワットを発電するレ・メ村   小さなグランド・キャニオンのような奇岩の上に太陽光発電センターがある。丘に登らないかぎり、その存在に気付くことはない  

 フランスの新幹線TGV、エクサン・プロバンス駅から高速バスで2時間半ほど走ると、レ・メ村に到着する。目の前に広がる小さなグランド・キャニオンのような奇岩の上に太陽光発電センターがある。

 フランス南東部を流れるデュランス川沿いの国道を走る車の窓から眼をこらしても、フランス最大規模の太陽光発電センターは見えない。

 発電所につきものの高圧送電塔が見えないのだ。レ・メ村の住民ですら景観の変化に気付かない。それほど環境保護に配慮しているのだ。

 太陽光発電センターの総面積は70ヘクタール。19万1780枚の太陽光発電パネルで、50メガワットを発電する。設置工事は2011年秋にほぼ完了した。

 人口4000人の小村、レ・メの村長を1971年から務めているレイモン・フィリップ氏は、「この村は5つの幸運に恵まれたから、この発電センターが成功した」と胸を張る。

 5つの幸運とは、日差しの強い南フランスという立地、当初風力発電を予定していたが太陽光発電に切り替えたこと、レ・メ村の1500ヘクタールの太陽光発電センター候補地の所有者がわずか3戸だったこと、これらの農家がみずから土地の有効活用を望んだこと、環境保護団体との話し合いが順調に進んだことである。

丘の起伏に沿って太陽光発電パネルが設置されているレ・メ村の太陽光発電センター。太陽光発電所としてはフランス最大の規模だ。周囲にはラベンダー畑などが広がる  

 フランス政府は再生可能エネルギー戦略の遅れを挽回するために、2004年に民間企業に再生可能エネルギー発電所の建設計画を提案するように呼びかけた。その呼びかけに応じて複数の企業連合が風力、太陽光、バイオマスなどの大型プロジェクトを政府に提案した。

 レ・メとその周辺の村には住友商事とエコデルタなどの大企業の連合体が訪れ、最初は風力発電用の土地の提供を持ちかけた。風力発電所建設には、年間の平均風量、高さ60メートルを超える風車の巨大な柱を支える地盤の堅固さ、風車が発する騒音の影響などを調べる必要があった。

 調査だけで3年が経過し、遅々として進まない計画にしびれを切らしたフィリップ村長は2007年に、「風力をやめて太陽光発電にしたらどうか」と企業連合に申し出た。フランス政府が太陽光発電容量を2009年の約13万キロワットから2020年には540万キロワットにする計画を持っており、許認可手続きの簡素化が見込めたからだ。

発電と放牧が共存する

 この村は日照に恵まれ、年間300日も快晴が続く。しかも地面に置くだけの太陽光発電パネルなら地盤調査の必要は無く、騒音も発生しない。この地域の土壌は痩せていて、ラベンダーと養蜂だけが農家の主な収入源だった。だから借地料を20年間支払うという条件に地権者は飛びついた。

 環境アセスメントで問題になったのは、プロバンス地方の美しい景観をどう保全するかということだけだった。その結果、地形を変えることなく発電パネルを設置すること、送電線を地下に埋めてフランス国有発電公団(EDF)が既に設置している高圧配電塔まで送電すること、が条件になった。

 丘の頂上からデュランス河畔に向かって下る傾斜地に14キロメートルの溝を掘り、デュランス川の下にトンネルを通して既存の高圧配電塔に電線をつないだ。だからこそフランス最大の太陽光発電所は丘の頂上に立ってはじめて目に飛び込むのだ。

 太陽光発電パネルの発電効率が下がる20年後に再び農地として使用できるように、パネル設置枠の土台をコンクリートで作らない施行法を提案したことも、地元の人々に好感をもって迎えられた。

 アルミ製のパネルの枠を固定する支柱は、長さ2メートル以上ある巨大な釘のような形をしている。地中に深く入り込む部分に人参のような膨らみがあり、そこにネジが切ってある。地中深くネジ込めば、強風で倒れる危険はない。

 しかも傾斜したパネルの下とパネルの間にある5メートル間隔の通路で牧草を育て、発電所として稼働中に羊を放牧することもできる。ここでは発電と放牧が共存する、不思議な景観が生まれる。

太陽光発電パネルを固定するためのコンクリートの土台はない。パネルは巨大な釘のようなものを地面に打ち込み支えている。土地を提供した農家は、パネルの下の土地で牧草を育てて放牧してもよい

 フランス政府が2010年に、企業が地元に払う企業税の税率を引き下げたため、収入は当初の目論見の3分の1になったが、太陽光発電センターができたことで企業税が入ることはレ・メ村にとってはメリットだ。

 さらに、20年後に太陽光パネルの発電能力が落ち発電所としての機能が終了した後の撤去工事やパネルのリサイクルも、企業とレ・メ村との契約条件に盛り込んである。つまり、土地も発電装置も、共にリサイクルされるのだ。

 20年先を見越した区画整理に手間取り、政府に提出する書類の作成に手間を費やしたが、2009年7月に書類作成作業に着手してから約2年後の2011年6月には、発電所稼動に漕ぎ着けた。太陽光発電パネル設置にはたった9カ月しかかかっていない。

 完成した17区画は、ラベンダー畑の区画をそのまま生かしたものだ。事業は2つの企業コンソーシアムが請け負った。ソーラー・ディレクト(仏)とアンフィニティー(ベルギー)連合(36 ヘクタール、18.2 メガワット)と、エエコデルタ・ディベロップメント(仏)と住友商事(日本)が出資した特定目的会社ラヴァンソル ワンとシーメンス(独)連合(66 ヘクタール、31 メガワット)である。

 エネルギー産業とは投資、企画、工事を互いに分ちあい、リスクと利益を互いに分け合うグローバルな産業なのだ。

ベルギーの本社で集中管理している

 ベルギーの企業、アンフィニティーが請け負った区画は、ドイツに本社がある投資会社ドリック・ソーラー・プロバンスの所有になった。

 アンフィニティーは事業企画を立て、投資家を募り、工事を完了し、投資家に手渡すまでを事業としている。再生可能エネルギー産業に十分な可能性がある限り、投資家は集まる。だからこそ起業からわずか5年で太陽光発電企業としては世界の10指の1つに数えられるまでに成長したのだ。

 興味深いのは、アンフィニティーが世界中の発電施設をベルギー本社で集中管理していることだ。「現代はインターネットの時代です。施設の中に監視カメラを置き、異常があれば現地の契約会社に連絡して行動を起こせばいい。太陽光発電は、工事も管理も特殊な専門家は必要なく、どの発電方法より、合理的で安上がりです。もちろん安全と環境保全に最適であるのは言うまでもありません」と同社フランス支社のエレナ・メッシ広報部長は語る。

 レ・メ村に太陽光発電所ができたことで、デュランス川に沿った谷は“電力の谷”として脚光を浴び始めた。丘の畑の起伏がそのままパネルのうねりになって無限に広がる風景は、現代アートと言ってもいいほどの美しさだ。ラベンダーのかわりに発電パネルを植えたようにもみえる。表面は黒い。だが青空を映すと海の波のようになる。

21世紀型の柔軟な設計思想

 巨大な発電施設が寿命を20年に設定し、環境を保全しながら電力を生み出す。電力公社がそれを買い取り、地方自治体は事業税を、農家は敷地の賃貸料を得る。そして20年後に農家は土地を取り戻し、発電に使った資材はすべてリサイクルされる。

 この太陽光発電所というプロジェクトは確かに21世紀の事業だ。なぜなら先端技術は刻々と進化し性能を上げるからだ。つねに最先端の性能をもつ機材に置き換えることができる柔軟な設計思想が、これほど必要な分野はないだろう。その変化に備え、部品交換が簡単にでき、刻々と能力を増すことができるパネルという単位で構成する設計こそ、新たな設計思想なのだ。水平方向に広がる新たな風景は、その姿を技術の進化に応じて変えてゆくだろう。

 2011年6月に送電を始めた発電所は予想を15%上回る発電量を生み出した。農地に戻すことを想定して太陽光発電パネルを設置した20年後のレ・メ村に、さらに進化した発電所があるのか、それとも畑に戻っているのか、20年後が楽しみだ。

 国の援助に頼らず、投資家を募ってこの事業を始めたのはフランスの小さな企業、ソーラー・ディレクトだった。投資の不足を補ったアンフィニティーとの共同作業により完成に至ったが、その横で大企業の連合体であるラヴァンソル ワンとシーメンスの工事を同時に進めた村長の舵取りも優れていた。

 「原子力発電に80%近くも頼っているフランスのエネルギー政策は変える必要があります。安心できる再生可能なエネルギーに変換させなければいけない。福島はそのことを教えてくれました。どうぞレ・メを見学してください」とレイモン・フィリップ村長は日本に向けてメッセージを送る。


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