「グラフェン」…余りよく解りませんが、なんとなくこれからのナノテクノロジーをリードするテクニックではないかと思います。日本の会社であり、大いに期待します。
大面積・無欠陥のグラフェン成膜装置、アイトリックスが販売開始。ロール・ツー・ロール方式の装置開発も « SJN Blog 再生可能エネルギー最新情報
アイトリックスが、大面積かつ高品質なグラフェンを作製できる成膜装置の国内販売を2012年4月から開始している。装置を開発したのは、韓国ソウル大学のByung Hee Hong教授らが創設したベンチャー企業グラフェンスクエア(GSQ)。日本・台湾・中国では、GSQと提携したアイトリックスが独占販売する。
グラフェンは、炭素原子がハチの巣状に結合し、原子1個分の厚みで平面に広がった材料。A4サイズから30インチ型という大面積のグラフェンを高品質に成膜できるのが同装置の特徴である。グラフェンの品質については、結晶欠陥の有無や、単層成膜なのか多層成膜なのかといった観点から評価されている。
まず、単層・多層の区別については、Hong教授らが同装置で成膜したグラフェン上での単層エリアの割合を調べたデータが、2010年の「ネイチャー・ナノテクノロジー」で報告されている。図中の囲み写真右は、光学顕微鏡で観察されたグラフェンの画像である。多層に成膜されているエリアは光の透過率の違いから濃い色に見えている。グラフは、各ポイントでのラマンスペクトルの分布を表したもので、積層されている層数(1〜4層)の違いによってピークの強さが異なることがわかる。グラフェン上の多数のポイントでラマンスペクトルを調べた結果、95%以上のエリアで単層成膜されていることが確認されたという。
同論文では、単層グラフェンのエリアで結晶に欠落がないことを確認したデータも報告されている。通常、結晶が欠落しているポイント(炭素の結合が切れている端面)でラマンスペクトルをとると、グラフの1350cm-1付近にDピークと呼ばれる急峻な波長の立ち上がりが表れるとされる。同装置で成膜したグラフェンでは、このDピークが観察されないことから、無欠陥状態のグラフェン結晶が形成されていると考えられる。
同装置によるグラフェン成膜では、真空のガラス管内に銅箔を入れ、炭素源であるメタンガスを流しながら約1000℃で熱CVDを行う。30分程度で銅箔上にグラフェンが成膜されるので、グラフェンを中間媒体に一度移して銅箔をエッチングしてから、PETフィルムなどの基材に転写する。
高品質のグラフェン成膜の鍵となるのは、熱CVDでの温度調整、メタンガスを流すタイミング、ガス流量制御といったプロセスレシピ。装置を購入した顧客に対しては、アイトリックスがレシピ提供を行い、トレーニングサービスやデバイス開発支援を行う。
すでに販売が始まっているのはバッチ式成膜装置だが、生産性の高いロール・ツー・ロール方式の装置開発も進んでいる。アイトリックス代表取締役社長の長谷川正治氏は、「ロール・ツー・ロールの場合、バッチ式と比べると、成膜プロセスでの条件制御により高い技術が必要になる。グラフェンの品質を保ちつつ生産性を上げるために装置のチューニングを行っているところ」と話す。
2000年に設立されたアイトリックスは、ナノインプリント分野で高い自社技術を持っている。今後は、大面積パターニングに適したナノインプリント技術をグラフェン成膜装置と組み合わせることで、新しいデバイス開発も進めるという。ITO代替となるグラフェン透明電極や、高速・低消費電力のグラフェントランジスタなどのテーマが挙がっているが、アイトリックスでは、グラフェンの応用可能性はこれからもっと広範囲に広がっていくと見ている。
「グラフェンは結局のところ炭素というありふれた材料。大面積かつ高品質に生産できるとなれば、いろいろな場所で当たり前に使われるようになると考えている。実際、電子部品メーカーや光学メーカーなど幅広い企業が、グラフェンに強い関心を示している」(長谷川氏)
アイトリックスは、山形県米沢市の試作センターにグラフェン成膜装置を導入。同センターには他にも各種ナノインプリント装置など約20台が揃っており、顧客向けの装置トレーニングやデバイス共同開発などの拠点になるという。装置価格は1500万円程度から。今後2年間で10億円の売上を見込む。
(取材・執筆/荒井聡)
おすすめ記事: マンチェスター大、点欠陥の制御によってグラフェンを常磁性化。スピントロニクスへの応用期待 グラフェン・デバイス実用化の鍵は「水」、モナッシュ大が報告。グラフェンをゲル状に湿らせて高性能二次電池を実現へ 「プラズモン効果でグラフェンの光電変換能力が20倍向上」 ケンブリッジ大らが報告 アルゴンヌ国立研究所、ダイヤモンド薄膜をグラフェンやGaNに適用。優れた熱特性を実証 ヴァンダービルト大、グラフェンの性能低下要因を特定 スタンフォード大、グラフェン圧電体の作製に成功。歪みを利用したデバイス制御技術「ストレイントロニクス」を提唱