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メモ「シェールガス革命/米国から世界へ」

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(シェールガス革命)(上)米国から世界へ :日本経済新聞

 (下)資源大国に異変 揺れる安保 市場も注視 :日本経済新聞

  世界の天然ガス埋蔵量を2倍に増やすとされる新型ガス「シェールガス」が世界のエネルギー地図を塗り替え始めた。米国発のガス革命は暮らしや企業活動を変え、マネーも動く。中東の石油を軸とした安全保障の枠組み論議も揺らいでいる。

 

1年で半値に

 「本当に助かるわ」。4月下旬、米ボストン市郊外の主婦、キャシー・リンチさん(58)が顔をほころばせた。地元ガス会社が家庭向け料金下げを発表したためだ。

 値下げをもたらしたのは地下1500メートル超の岩盤に眠るシェールガスだ。2000年代に米国で生産が本格化し、ガスの米市場価格は1年で半値に下落。家庭向け料金下げは「ガソリン高に伴う家計負担増の3分の1以上を相殺する」(ドイツ銀行ニューヨーク)。

 ガス安は企業も潤す。鉄鋼大手USスチールは高炉の燃料を石炭から割安な天然ガスに替え始めた。民間試算によると米製造業のコスト減効果は年116億ドル(約9300億円)。化学大手ダウ・ケミカルなど製造業の国内回帰が相次ぐ。

 テキサス州フリーポート。広大な敷地にそびえる液化天然ガス(LNG)基地は米国への輸入拠点として稼働したが、国内生産急増で輸入ガス需要が消滅。運営企業は輸出基地への転換を決めた。米国は16年にLNGの純輸出国になる見通しで、輸入依存を前提とした常識は覆ろうとしている。

 革命のうねりは石油に広がる。米国中央の大平原、グレートプレーンズ。ノースダコタ州は空前の石油ブームに沸く。シェールガスの技術を応用したシェールオイルの生産が本格化し同州の原油生産量は5年で3倍に増加。全米の原油生産も増加に転じ石油の海外依存度は45%に低下した。

 

関連M&A活発

 

 

 新興国が台頭し始めた00年代。原油需給ひっ迫が世界経済を圧迫するとのピークオイル論が再燃したが「技術革新が不安を杞憂(きゆう)に変えた」(エネルギー問題の権威、ダニエル・ヤーギン氏)。

 環境汚染などの懸念を抱えながらも革命は世界に広がろうとしている。

 「ガス圧力に変化がないかチェックしろ」。中国内陸部の四川省瀘州市を歩くと「陽101♯」と名付けられた試掘田が姿を現した。働くのは英蘭系ロイヤル・ダッチ・シェルと中国石油天然気集団(CNPC)の社章を付けた作業員。両社が10年に共同で始めたシェールガスの開発現場だ。

 原油の海外依存度が6割に迫る中国にとって、米国を上回る埋蔵量のシェールガス実用化は「経済の死活問題」(国家エネルギー局幹部)。自給への思いはアルゼンチンなどを開発に駆り立てる。米IHSヘラルドによると、世界の新型ガス関連のM&A(合併・買収)は11年に750億ドルと最高になった。技術確保を狙うアジア勢による北米企業買収が目立つ。

 恩恵は身近にある。「ガス革命がなければ停電は不可避だった」(中部電力幹部)。東日本大震災後の電力危機でLNGを緊急調達できたのは、ガス革命で世界的な供給過剰に陥っていたためだ。

 米国の約7倍のガス価格が下落すれば電力料金を抑えられる。エネルギー調達の選択肢も増える。全原子力発電所が止まった日本にとってガス革命の意義は小さくない。

色あせる大義

 「ホルムズ海峡を通過する原油の1割しか輸入しない米国が空母を派遣する必要があるのか」。4月上旬、ニューヨークで開いた討論会。米著名投資家、ブーン・ピケンズ氏の発言に会場が静まりかえった。イラン情勢で緊迫するペルシャ湾に米海軍が空母「エンタープライズ」を派遣した直後のことだ。

 石油の番人を担う米国の中東軍事介入は1970年代のオイルショックに端を発する。当時のカーター政権は原油輸入の3割近くを頼る中東への米軍本格展開を決定。米タルサ大学のロジャー・スターン助教によると、77年から2011年までの中東での累計軍事費は9兆ドル(約720兆円)と全体の53%になった。

 介入本格化と同時期に米国はシェールガスの技術開発に着手した。それから30年強。シェール技術を応用した新資源の開発も進み、石油の中東依存度は11年に22%まで低下した。国防費削減とアジアへの関与強化を優先課題とする米国。ガス革命の進展で石油の番人の大義は一段と揺らぐ。

 米国と中東に生じ始めた隙間を埋めるのが中国だ。原油輸入が急増する中国とサウジアラビアの貿易額は11年に前年比5割増。1月中旬には温家宝中国首相が中東3カ国を歴訪した。米国の中東離れの観測に反応するかのように「中国海軍艦船の湾岸諸国への訪問回数が増えている」(米IHSジェーンズの軍事アナリスト、スコット・ジョンソン氏)。

 ガス革命に伴うエネルギー安全保障の揺らぎ。隠れた焦点は欧州だ。

 「この試練に今こそ、対応しなければならない」。4月11日。ロシア下院にプーチン首相(当時)の冷めた声が響き渡った。世界有数のガス大国であるロシアは天然ガスの供給停止をちらつかせて欧州政治に隠然たる影響力を及ぼしてきた。だがポーランドなど「ロシアのくびき」に悩んむ欧州各国でシェールガス開発が活発になっている。

 強気に転じた独仏企業などの要求で、ロシア国営企業ガスプロムは値下げ財源として80億ドルの計上を迫られた。日本などアジア向け輸出に活路を探る動きは日ロ関係の停滞打開に意欲を見せ始めたプーチン氏と重なる。

 ガス革命の波紋が世界のエネルギー安全保障に広がるなか、金融市場でもその震度を探る動きが出ている。

 

「ドル高要因に」

 

 「長期的にはドル買い要因」。2月下旬、UBSのチーフ通貨ストラテジスト、マンスア・モヒウディン氏のガス革命に関するリポートが外国為替市場を駆け巡った。

 米エネルギー省の推計によると米国の消費エネルギーに占める輸入の割合は10年の22%から35年には13%に低下する。オバマ米大統領が「歴史的な進歩」と呼ぶエネルギー自給が進めば、米貿易赤字の約半分を占める原油輸入減を通じ、米経常赤字も減少しドルが買われるとの見方だ。

 ドル相場は米経常収支に加え、経済成長率やインフレ率、国際政治情勢などの要因が複雑にからむ。「ガス革命=ドル高」という単純な議論は危ういが、ガス革命の広がりが基軸通貨ドルに与える影響を巡り世界のマネーもざわめき始めている。

 

 西村博之、小川義也、石川陽平、多部田俊輔、中西俊裕が担当しました。


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