カリフォルニア工科大、水の熱化学分解の新手法開発。産業廃熱を利用した水素製造めざす « SJN Blog 再生可能エネルギー最新情報
カリフォルニア工科大学の研究チームが、水の熱化学分解による水素製造の新手法を開発したとのこと。1000℃未満と比較的低い反応温度で処理でき、有害な副生成物が生成されないことが特徴であるという。産業廃熱を貯蔵可能な水素エネルギーに変換する技術として期待される。2012年5月30日付の米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に論文が掲載されている。
水の熱化学分解による水素製造については、これまでもさまざまな研究開発が行われているが、大きく分けると反応温度が1000℃を超える高温処理方法と、1000℃未満の低温処理方法がある。このうち、高温の方法はプロセスがシンプルであり、2ステップで処理することができる上、副生成物が固体である点が長所だが、1000℃以上の熱の出るプロセスというと太陽光の集熱などわずかな利用分野しかないのが欠点。一方、低温の方法は、原子炉の廃熱など利用できる範囲が広がるが、ステップが複雑であり、副生成物として有害な腐食性液体が発生するという問題があった。
今回、カリフォルニア大 化学工学教授 Mark Davis氏らの研究チームが考案した方法は、これまでの高温処理方法と低温処理方法の長所を兼ね備えているのが特徴。反応温度が最高850℃と低く、4ステップで済み、有害な腐食性の副生成物の発生も回避できるという。
化学反応には、マンガン酸化物の酸化還元反応を利用する。水素と酸素の発生過程において、ナトリウムイオン(Na+)がマンガン酸化物に出入りすることで熱力学的駆動力が与えられ、850℃での閉じた反応サイクルが可能になるという。
第1ステップと第2ステップでは、Na+が存在することによって、水と反応したマンガン酸化物中の2価マンガンイオン(Mn2+)が3価イオン(Mn3+)に酸化される。このときに気体の水素が生成される。第3ステップでは、二酸化炭素が存在することで、ナトリウムマンガン酸化物からのNa+の抽出が効率よく行われる。Na+の抽出は、低温での熱化学サイクルを閉じる上で重要なステップとなっている。これは、ナトリウムマンガン酸化物の熱還元が1000℃未満では起こらないためであるという。第4ステップでは、ナトリウムマンガン酸化物からのNa+抽出によって生じた固体が熱還元され、酸素が発生する。
この反応では、水素、酸素ともに加えた水に対して90%超の収率が確認されており、5サイクルの間に非活性化の兆候は見られなかったとしている。水素製造技術として実用化するためには、数千回のサイクルで反応可能であることを実証する必要があるが、これは現在のDavis氏のラボの能力を超えているという。
研究チームは、この反応サイクルについて、さらに詳細な分子レベルでの研究を計画しているとのこと。各ステップで実際に起こっている現象についての理解を深めることで、反応温度をさらに下げられると期待しているという。より低い温度での水の熱化学分解が可能になれば、製鉄、アルミ精錬、石油化学など様々な産業分野で生じている廃熱を水素エネルギーに変換して利用できることになる。
(発表資料)http://bit.ly/N3fm30