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メモ「環境にやさしい触媒で抗がん剤つくる/東大 小林 修」

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「環境にやさしい触媒で抗がん剤つくる」東大、工業レベルで使用できる安全なオスミウム触媒を開発 (発表資料)bit.ly/NsrMyOpic.twitter.com/9apHdpUm

 

環境にやさしい触媒で抗がん剤をつくる! - プレスリリース - 東京大学 大学院理学系研究科・理学部


東京大学 大学院理学系研究科・理学部

2012/7/11 環境にやさしい触媒で抗がん剤をつくる! — 工業レベルでの使用を可能にする安全なオスミウム触媒を開発 —   発表者 小林 修(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授)   発表のポイント どのような成果を出したのか
環境にやさしい高分子固定化オスミウム触媒PI Osを開発し、これを用いて抗がん剤の中間体合成を行った。 新規性(何が新しいのか)
毒性や揮発性のため工業化の困難であった四酸化オスミウム触媒を、独自の方法で高分子に固定化することで無害化し、工業スケールにおいて使用可能であることを示した。 社会的意義/将来の展望
グリーン・サステイナブル・ケミストリー(環境にやさしく持続的社会をつくる化学)の観点から重要な成果であり、環境にやさしく効率的な化学品生産プロセスが可能になる。 発表概要

東京大学大学院理学系研究科の小林修教授らの研究グループは、環境にやさしい高分子固定化オスミウム触媒(PI Os)を開発し、抗がん剤の中間体合成を行った。ジヒドロキシル化反応は、医薬品を始めとする様々な化学品の製造に不可欠な反応である。しかしながら、ジヒドロキシル化反応の有用な触媒として知られる四酸化オスミウム(注1)は、毒性や揮発性のため工業化が困難であった。今回研究グループは、独自に開発した方法(高分子カルセランド法)によって高分子に固定化することで無害化することに成功した。さらに、この高分子固定化オスミウム触媒を用いて、抗がん剤カンプトテシン中間体が工業スケールにおいて合成可能であることを示した。これは固定化オスミウム触媒の工業スケールでの使用を実現した初めての例である。本ジヒドロキシル化プロセスが実用化されることにより化学品製造プロセスが環境にやさしくかつ効率的なプロセスに改善されていくことが強く期待される。また、本成果は、毒性のある触媒を無毒化し、工業化の可能性を実証した点においてグリーン・サステイナブル・ケミストリー(注2)の観点から極めて重要な成果であり、今後は他の毒性の高い触媒等への適用も期待できる。

発表内容

図1:触媒(PI Os)の調製方法および四酸化オスミウムとの揮発性の比較(写真中、a:90秒後、b: 2時間後、c:6時間後、d:24時間後)

図2 図2:カンプトテシンの合成ルート

 図3 図4 図3:トポテカンおよびイリノテカンの構造   図4:カンプトテシン中間体の1モルスケール合成(ee(鏡像体過剰率)は生成物の一部を酸化して決定)
背景

現代の有機合成においては、環境への負荷を減らし社会の持続性を重視するグリーン・サステイナブル・ケミストリーの観点から、例え高活性であっても毒性の高い試薬や触媒の使用は避けられる傾向にある。このような高活性だが毒性の高い試薬や触媒の使用例として、鉛や水銀由来の試薬や触媒、四価の有機スズ等の使用が挙げられる。四酸化オスミウムは、アルケンのジヒドロキシル化に用いられる非常に有用な触媒であるが、毒性が高くしかも揮発性であるためにやはり同様に使用が避けられる。四酸化オスミウムはキラル配位子と組み合わせることで触媒的不斉ジヒドロキシル化反応(注3)が可能であり、光学活性ジオールを極めて効率的に供給することができる。この手法は天然物や医薬品、ファインケミカル等の合成に広く用いられるが、高い毒性と反応後のオスミウムの分離や回収の困難さから、工業化に成功した例はほとんどない。

これまでにいくつかの研究グループによりキラル配位子の担体への固定化が検討されているが、オスミウムの回収や再使用はなお困難であった。これに対し小林教授らのグループでは、これまでに、高分子を用いたマイクロカプセル化法を独自に開発し、四酸化オスミウムを高分子に固定化することで、オスミウムが高分子から漏れ出すことなく触媒的不斉ジヒドロキシル化反応が高い収率および選択性で進行することを明らかにしている。しかしながら、使用できる溶媒の種類が限られるのが問題であった。他の研究グループにより種々の固定化法が検討されたものの、やはり同じ問題が発生しており、工業的利用を含むスケールアップ合成に関しては調べた限り報告例は無い。

今回、小林教授らのグループは、毒性および揮発性の無い高分子固定化オスミウム触媒(polymer-incarcerated osmium, PI Os)を新たに開発し、アルケンの触媒的不斉ジヒドロキシル化反応において活性を失うことなく回収および再使用が可能であること示した。

触媒の調製方法

新しいオスミウム触媒は、独自に開発した高分子カルセランド法(polymer-incarcerated method, PI法)に基づいて調製した。PI法はマイクロカプセル化と架橋反応の二つのプロセスから成っている(図1)。マイクロカプセル化法はもともと高分子のベンゼン環との相互作用により金属ナノクラスターを高分子内に安定に保持する方法として開発したものである。マイクロカプセル化法の欠点は、溶媒により高分子が溶解して回収や再使用が困難になる場合があることである。この問題を解決するため、PI法では架橋反応を行うことにより耐溶剤性が高められ、かつ触媒が高分子内に物理的にも保持されて漏れ出しが防がれている。今回は本方法を四酸化オスミウムの固定化に適用した。四酸化オスミウムを高分子の溶液に加えて72時間撹拌し、さらにヘキサンを加えることで黒色のマイクロカプセル化オスミウム(MC Os)が生成した。さらに一晩撹拌した後に溶媒を除去し、洗浄・乾燥した。さらに加熱して架橋反応を行い、濾過・洗浄を行い、PI Osを調製した。この触媒はほとんどの有機溶媒と水に不溶であった。三種類の高分子を用いることで本方法によりPI Os A~Cを調製した。

触媒の安定性・毒性

これらのPI Osは黒色粉末で空気中において数ヶ月保存しても安定であった。四酸化オスミウムとの揮発性の比較実験においてオスミウム成分の揮発は観察されなかった(図1写真)。また、マウスを用いた急性毒性試験において、PI Os Cを投与した5匹のマウスは特に障害なく投与後一週間生存した。また、マウス体内の器官を調べたところPI Os C投与の場合にオスミウムは検出されず、器官への吸収が起きていないことが明らかになった。

触媒構造

PI Os Cの活性部位の構造を調べたところ、オスミウムの酸化数が四酸化オスミウム(8価)と異なりPI Os Cでは4価であることが明らかになった。他の分析結果と合わせ、触媒の局所構造は二酸化オスミウム(OsO2)と類似の構造を有することがわかった。四酸化オスミウムは触媒調製時に二酸化オスミウムに還元されていると考えられる。

不斉ジヒドロキシル化反応への適用

モデル基質としてα-メチルスチレンを選び、PI Os A~Cを用いて不斉ジヒドロキシル化反応を行ったところ、良好な収率および選択性で反応は進行した。PI Os B及びCにおいてオスミウムの漏れ出しがほとんど無く、Cの高分子担体が調製容易であることからPI Os Cを今後用いることとした。他の様々な種類のアルケンを用いた場合にも良好な結果が得られた。また、PI Os Cは活性を失うことなく回収および再使用が可能であった。

抗がん剤カンプトテシン中間体への適用

さらに、抗がん剤であるカンプトテシンの鍵中間体の合成(図2)に本方法を適用した。カンプトテシンはDNAトポイソメラーゼIを阻害する細胞毒性のあるキノリンアルカロイドであり、類縁体であるトポテカンとイリノテカンはがん治療に用いられている(図3)。反応条件の最適化を行った後、原料を1モル(190 g)用いて工業化を視野に入れたスケールアップ条件での反応を行った。その結果、97%(234 g)、86% eeと高い収率およびエナンチオ選択性(注4)で生成物を得ることができた(図4)。PI Os Cは濾過によりほぼ定量的(97%)に回収することができた。

まとめ

本成果は、毒性や揮発性のある触媒を独自の手法で高分子に固定化することで無害化し、工業化の可能性を実証した点においてグリーン・サステイナブル・ケミストリーの観点から極めて重要な成果であると言える。本ジヒドロキシル化プロセスが実用化されることにより化学品製造プロセスが環境にやさしくかつ効率的なプロセスに改善されていくことが強く期待される。今回開発したPI Osは、さらに大きな工業スケールでのプロセスにも適用できることも予想される。さらに、今回の固定化手法(PI法)はオスミウム以外の高活性ながら毒性や揮発性のために使用されることが少ない種類の試薬や触媒に対しても適用できる可能性があり、今後の研究の益々の進展が期待される。

本成果は東京大学大学院理学系研究科(化学専攻有機合成化学研究室、グリーン・サステイナブル・ケミストリー社会連携講座)、東京大学大学院薬学系研究科、名古屋大学(大学院工学研究科、エコトピア科学研究所)の共同研究の成果です。

発表雑誌 雑誌名「RSC Advances」 オンライン版(2012年7月10日)に掲載論文タイトルNontoxic, Nonvolatile, and Highly Efficient Osmium Catalysts for Asymmetric Dihydroxylation of Alkenes and Application to One Mol-scale Synthesis of an Anticancer Drug, Camptothecin Intermediate著者Ryo Akiyama, Norio Matsuki, Hiroshi Nomura, Hisao Yoshida, Tomoko Yoshida, and Shu Kobayashi 用語解説 注1 四酸化オスミウム化学式OsO4で表されるオスミウムの酸化物であり、アルケンからジヒドロキシル化反応により1,2-ジオールを生成する際の触媒あるいは酸化剤として用いられる化合物。毒性と揮発性が高い。注2 グリーン・サステイナブル・ケミストリー環境への負荷を減らし、持続的社会をつくる化学技術のことであり、化学製品の全ライフサイクルを見通した技術革新により、人と環境の健康・安全・省資源・省エネルギー等の実現を目的としている。注3 触媒的不斉ジヒドロキシル化反応不斉とは、鏡に映した像が元の像と重なり合わない性質(右手と左手の関係)。触媒的不斉ジヒドロキシル化反応は、少ない量の不斉触媒を用いてジヒドロキシル化生成物の一方の鏡像体を多く得るための反応手法。注4 エナンチオ選択性立体選択性の1つ。エナンチオマー(鏡像体)同士における選択性。立体選択性を定量的に表すためには、エナンチオマー過剰率(ee)が使用される。

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