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メモ「九州の公立大、1法人に 11校で大学法人提案/矢田俊文」

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九州の公立大、1法人に 11校で大学法人提案 矢田俊文 北九州市立大学前学長(公立大学協会前会長) :日本経済新聞

矢田俊文 北九州市立大学前学長


 矢田俊文・北九州市立大学前学長(公立大学協会前会長)は、九州の公立大学・短大11校を「九州立大学法人本部」の傘下に入れる大胆な改革案を提唱する。文部科学省が1つの国立大学法人の傘下に複数の国立大学がぶら下がる「アンブレラ方式」を示すなかで関心を呼びそうだ。

 21世紀に本格化したわが国の大学改革は、すでに10年余を経過した。この間、公立大学は、特異な改革を進めてきた。

 第1に、この間の公立大学の学生増の約3分の2が、首都圏と関西圏以外の地方圏での増加だった。同じ期間に、私立大学の学生の増加分の97%が二大都市圏だったのとは対照的である。全学生の約3分の2が二大都市圏に集中するなか、公立大学だけが高等教育機会の地域的均等化に貢献した。

 第2に、国の政策誘導で国立大学の教養部解体が進むなか、首都大学東京が都市教養学部を開設し、北九州市立大学が基盤教育センターを設置するなど、真剣に教養教育強化を進めた。秋田県立の国際教養大学は、授業はすべて英語、教員の約半数が外国人、学生全員に1年間の寮生活と海外留学を義務付けている。

 第3に、多くの公立大学は、地域を志向した独創的な教育を行っている。福島県立医科大学は東日本大震災と原発事故の中で、県内唯一の医学部を持つ大学として医療と研究・教育で歴史的使命を果たす。沖縄県立芸術大学は、伝統工芸・伝統音楽・芸能など沖縄固有の文化を受け継ぎ、新たな担い手を育てている。

 

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 公立大学が自由な発想で改革に取り組めるのは、教授会自治の行き過ぎを抑え、学長のリーダーシップが確立しているからである。公立大学協会のアンケートによれば、58法人大学のうち、教授会が教員人事権を掌握しているのはわずか2校。大半の大学で、理事会か教育研究審議会が、個別選考を含めた人事権を握っている。公立大学改革第4の特色である。

 しかし、公立大学も、設立自治体との関係を中心に課題を抱えている。

 1つは、設置者である地方自治体との交渉力が弱いことだ。多くの自治体には大学行政の蓄積はなく、行政の論理で大学政策を行うが、中小規模が多い公立大学はこれに抗しきれない。

 第2は、職員の多くが自治体からの派遣で、2、3年で異動するため、学内に教学事項のノウハウが蓄積されにくい。

 第3に、首長自身も選挙で頻繁に交代する。これが大学の安定した運営を阻害しかねない。大学に無関心な首長の場合は改革が進まず、改革に熱心な首長の場合、首長と大学側の理念の擦り合わせが大きな課題となる。

 

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 こうした公立大学の課題解決を模索する九州の動きを紹介しよう。

 九州地域戦略会議(九州地方知事会と九州経済連合会など経済4団体で構成)は2008年10月、「道州制の九州モデル」を策定し、「大学相当以上の高等教育は、国ではなく、道州が担当する」との構想を示した。

 これを受けて09年3月、公立大学協会の九州・沖縄協議会は各公立大学が現状のまま、それぞれ「州立大学」となる場合と、まとまって1つの「州立大学法人」の傘下に入る場合のシミュレーションを行った。

 さらに九州経済連合会に置かれた「九州の公立大学のあり方を考える」研究会は今年3月、道州制が実現しなくても、設立自治体の広域連合で公立大学法人を統合したケースについて検討結果を発表した。研究会は、私や米沢和彦前熊本県立大学長、惣福脇亨九経連専務理事らが呼びかけ人になった。

 報告書は、九州7県の公立大学・短大11校を一法人化することで、学生数1万8千人の規模になり、スケールメリットの活用で多くの課題を解決できると指摘した。

 第1に、重複する分野を整理し、余裕資源を使って芸術、陶芸、観光、さらには過疎地域派遣を義務付ける大学や学部の創設が可能となる。

 第2に、付属研究所を統合し、アジアや地域政策関連の研究を深め、あわせて自治体職員向けの行政コースや、公立の農林水産・畜産、工業試験所研究員向けの科学技術コースをもつ大学院を併設する。多様な専門分野の研究者が集まり、分権的視点から九州発展戦略の知的拠点を構築する。

 第3に、大規模化した大学法人が独自に職員を採用し、地方分権と高等教育の観点からトレーニングすることによって、大学を支える事務スタッフを充実する。

 第4に、広域連合と大学法人のもとで策定される中期目標・中期計画、大学改革と法人評価によって、個々の首長選挙結果に大きく左右されることなく、持続可能な安定した運営ができる。

 

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 構想は、九州の各公立大学や設立自治体でまとめた公式見解ではなく、一部有識者の研究の域を出ていない。しかし、地方分権の大きなエネルギーが押し寄せる新たな歴史段階に入りつつあるなかで、改革を進めてきた公立大学が避けることのできないテーマである。

 一方で、大阪府と大阪市の統合による大阪都構想が現実化しつつある。実現すれば府立大学と市立大学の統合が不可避となり、学生数が2万人弱で国立の基幹大学と量質とも拮抗し、国際競争にも堪えられる公立大学が登場する。すでに統合本部のもとに「新大学構想会議」が発足し、鋭意統合案を検討中だ。私も座長として渦中にある。

 地方分権化の激流は、すでに有力公立大学をのみ込みつつある。


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