Quantcast
Channel: 鶴は千年、亀は萬年。
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1727

必見!智慧得(659)「ニューヨーク最新事情/田原総一朗」

$
0
0

シェールガスで「原発離れ」、NYでの発見と驚き| nikkei BPnet 〈日経BPネット〉

 7月15日から米国ニューヨークへ行き、現地に駐在する日本企業の幹部何人かと会うなどして19日に帰国した。いくつか発見があり、刺激を受けた。

ニューヨークで世界の情報収集に奮戦する日本のビジネスマン

 ニューヨークは世界で最も早く情報が入ってくる大都市である。そこで日本企業は毎日、勝つか負けるかの厳しい戦いを続けながら大変がんばっている。

 ニューヨークにいる日本企業のビジネスマンは、米国でモノを売る仕事をしているわけではない。世界中から集まる情報をいち早くキャッチし、米国をはじめアジアや東欧、南米など世界各地で展開するビジネスに役立てている。東京で世界の動きを知ろうとしても情報が遅すぎるのだ。

 私はこれまでに10回ほどニューヨークに行ったことがあり、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件以降では今回が2度目になる。現在のニューヨークは日本とは違い、人々の気持ちがとても明るい。

 意外に思ったのは、日本の政治がどうしようもない状況にあると皆が感じていることだった。これはもっぱら日本の新聞報道が悪いのではないか。

 私から見れば、そんなことはない。日本の政治はよくなっている。消費増税法案は成立するだろうし、尖閣諸島は国有化する方向に進んでいる。環太平洋経済連携協定(TPP)問題にも前向きに取り組もうとしている。「決められない政治」が「決める政治」に次第に変わってきているのである。

オバマ氏対ロムニー氏の戦いは五分五分

 ところが、日本発の情報が日本の悪いところばかり伝えているから、ニューヨークにいる人たちはそれを大仰にとらえてしまう。日本の悪い情報ばかりが話題になるので、私が「そんなことはない」と言うと皆驚いていた。

 ユーロ危機については、日本で見たり聞いたりしているよりも、ずっと深刻にとらえている。ギリシャをはじめとする債務問題の本質は何も解決していない。これまではドイツとフランスがユーロ圏を支えてきたが、フランスがオランド政権に代わってその構図が崩れてきた。

 しかもギリシャよりもはるかに経済規模の大きなイタリアやスペインの債務問題が日本で考えている以上に深刻に受け止められている。ただ幸いなことに、今年はドイツで選挙がない。これが唯一の救いだ。もし選挙があったら、メルケル首相はもっと弱気な政策をとっているだろう。

 米国で今年行われる大統領選挙については、オバマ氏対ロムニー氏の戦いは今のところ五分五分と見られている。日本では現職大統領のオバマ氏が優勢との見方が多いが、米国ではそうではない。

 日本でロムニー氏が劣勢と言われる理由の一つに彼がモルモン教徒であることが挙げられるが、その影響はほとんどないという。共和党内で強い支持を得るのは難しいようだが、全米レベルで見ればモルモン教徒であろうとなかろうとほとんど意味がない。アフリカ系(黒人)のオバマ氏が大統領になったのだから、モルモン教徒であろうと関係ないのだ。

「これからは金融からIT」、でも雇用は伸びず

 米国は自由主義の国である。ところがリーマンショック以降、オバマ大統領は「行き過ぎた金融資本主義」を是正するため金融規制を加えようとしている。政府が市場に関与し、規制を強化する姿勢に対して不満が全米に広がっている。オバマ氏が最重要課題として取り組んできた医療健康保険改革もしかり。

 ロムニー氏はそうした立場とは反対で、米国は世界でいちばん自由主義を守らなければならない国だと考えている。

 オバマ大統領の最大の悩みは失業率が思うように改善しないことだ。失業率は8%台に高止まりしている。最近は景気に陰りが見え始めているが、ひところの景気回復局面でも失業率はそれほど改善しなかった。その理由は米国のビジネスのやり方が変わったためだと考えられている。

 米国企業は海外へ生産拠点を移してきた。これは米国内で競争力を失ってマンネリ化した工場が海外進出したと言ってもいい。ところが最近ではアップルなど最先端のIT企業も生産は中国など海外で行っている。

 IT企業は米国経済の象徴であり、世界で圧倒的に強い。次から次へと新しいIT企業が誕生し、成長している。「これからは金融からITだ」とも言われてきた。だが、そのIT企業も生産は台湾や中国などで行い、雇用はいっこうに伸びない。グローバル化により水平分業型のビジネスモデルに変化してしまったのである。

シェールガスで米国の「原発離れ」始まる

 米国では原発に関する考え方も変わりつつある。日本では福島第一原子力発電所の事故以来、「反原発」のうねりが大きくなっている。原発事故の原因もわからず、その教訓も安全対策に反映されていないのに「原発再稼働とは、けしからん」という声が日増しに高まっている。

 ドイツの脱原発はイデオロギーである。しかし、米国も英国もフランスも、もちろんロシアも中国も、「原発は危険だから考え直さねばならない」という発想をそれほど多くは持っていないだろう。

 ところがその米国でも今、「原発離れ」が始まっている。原油価格の高騰により、シェールガスやシェールオイルの発掘が採算に合うようになり、今後の有望なエネルギー資源として注目されているからだ。その埋蔵量は米国が使うだけなら100年分以上とも言われる。そして、それらを使った発電コストは原発よりも安いことがわかってきたのだという。

 私がこの話を聞いたのは、ニューヨーク駐在のエネルギーの専門家からである。米国ではコストの面から「もう原発の時代は終わった」と見られ始めているという。これは私にとって大きな発見だった。

 これから経済産業省をはじめ日本の関係者に取材し、シェールガスの可能性と原発とのコスト比較について、どんな認識を持っているか調べてみたいと思う。

「ブルーマン」を観て米国の活力に驚く

 ニューヨークは世界最高のエンターテインメントの街でもある。ブロードウェイでミュージカル「スパイダーマン」を、オフブロードウェイでは「ブルーマングループ」を観た。演じる役者たちも見事なら、観客も素晴らしい。スタンディングオベーションで最大の賛辞を贈り、ショ―を大いに盛り上げる。

 20年以上続いている「ブルーマングループ」は、東京でも4年にわたる大ロングランを記録したのでご存じの方も多いと思うが、私が驚いたのは3人の役者が20年の間に次々に入れ替わっているということだ。ブロードウェイのオーディションに受かって出て行く者がいれば、その代わりに新しい役者がやはりオーディションで選ばれて入ってくる。ニューヨークは一晩で顔ぶれが変わってしまうほど人の流動性が高い。

 しかし考えてみれば、これは米国という国の特徴だ。たえず新しい才能が誕生し、それぞれの世界を変えていく。プレイヤーの顔ぶれが入れ替わるからいつまでも若々しくて活力があり、たくましさも備え続けている。これは日本とは大きな違いである。

 ただしニューヨークは競争の厳しい場所で、「大人も子どもも一人で生きて、一人で戦っている」と誰もが言う。ニューヨークとパリに高級アパートを持つデヴィ夫人は以前、「ニューヨークは戦いの場で、ときどき行くのはいいけれど長くいると疲労困憊する。パリは死んだ街だから長くいると退屈する」と言っていた。

 数学者の広中平祐氏も「ニューヨークは、若い時に行くのはいいが、年をとると疲れる」と語っていたが、ニューヨークはそういう街なのである。

田原総一朗(たはら・そういちろう) 1934年滋賀県生まれ。早大文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て、フリーランスのジャーナリストとして独立。1987年から「朝まで生テレビ!」、1989年からスタートした「サンデープロジェクト」のキャスターを務める。新しいスタイルのテレビ・ジャーナリズムを作りあげたとして、1998年、ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞。また、オピニオン誌「オフレコ!」を責任編集。2002年4月に母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講。塾頭として未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたっている。著作に『なぜ日本は「大東亜戦争」を戦ったのか』(PHP研究所)『原子力戦争』(ちくま文庫)『ドキュメント東京電力』(文春文庫)『誰もが書かなかった日本の戦争』(ポプラ社)など多数。近著に「大転換 『BOP』ビジネスの新潮流」(潮出版社)がある。
Twitterのアカウント: @namatahara

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1727

Trending Articles