朝日新聞デジタル:我こそ、未来のジョブズ 米のIT起業、きっかけは
ミート・ミーを創業した「クック3兄妹」=畑中徹撮影
■ミート・ミー 友人ほしくて
米ペンシルベニア州に本社がある「ミート・ミー」。34歳のジェフ、24歳のデーブ、22歳のキャサリンのクック3兄妹が創業した。
事業を始めたきっかけはデーブとキャサリンの高校時代のつらい体験だった。2人は引っ越しに伴って、新しい高校に転校したが、友人ができなかった。「ネットで友人をつくる方法があるのでは」と考えた。
知らない人同士でも、趣味などの意見交換が簡単にできるサイトを、2005年に開設。そのアドレスを書いた手作りのTシャツを校内で着て、宣伝した。「学校で一番の人気者はだれ? サイト上でぜひ投票を」といったイベントをしながら、知名度を高めた。近隣の高校でも使われるようになった。
サイトが軌道にのると、デーブとキャサリンは「本格的に事業化したい」と家族に相談した。ハーバード大を卒業後に起業した長男ジェフが投資を申し出て、事業の一歩を踏み出す。06年にはベンチャーキャピタルから410万ドル(約3億2千万円)の投資を受けた。デーブとキャサリンは午前4時ごろまでサイト運営の仕事をして、朝の7時30分には学校に通うという生活も多かったという。
昨年はメキシコのIT企業を買収し、ニューヨーク証券取引所にも上場した。86%が米国内の利用だが、世界にも広がる。サイトの機能も広げ、利用者同士がゲームやビデオチャットを楽しむこともできる。
デーブとキャサリンは高校卒業後、すぐに経営幹部となったが、2人は「私たちはまだ若い。経営は兄に任せ、純粋に仕事を楽しんでいる」と笑う。
■資金確保、存続のカギ
ネット技術の発達で、起業のハードルは確実に下がった。だが、IT系のベンチャー企業が乱立する中、生き残りは難しい。全米ベンチャーキャピタル(VC)協会によると「正確な統計はないが、IT系の新興企業の3分の1ほどは事業を始めてから、ほどなく廃業している」という。
米国のIPO(新規株式公開)市場は、08年のリーマン・ショック以降の極端な落ち込みからは、徐々に回復しつつある。
約2年前から、新興IT企業の上場も相次いでいるが、多くは上場時の公募価格を割り込んでいる。「10年に一度の大型ルーキー」と騒がれたフェイスブックも、5月の上場以降は、公募価格に届かない。株式上場を果たしても、市場ではさらに困難が待ち受けている。
成長が見込める未上場企業に投資するVCから投資を受けることも重要な要素だ。ただ、VCによるネット関連企業への投資の総額は景気にも左右され、近年の投資額は09年をピークに減っている。景気が落ち込み、VCのお金の調達が苦しくなっているからだ。
ベンチャー企業はいくら高い技術と、よいサービスがあっても事業で使う資金をしっかり確保しないと、企業として生き残れない現実がある。(ニューヨーク=畑中徹)