難病ALS治療に道 京大、iPSで薬の候補発見 :日本経済新聞
京都大学iPS細胞研究所(山中伸弥所長)の研究チームは、全身が思うように動かなくなる不治の病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因の一端を、様々な細胞に成長できるiPS細胞を使い解明した。神経細胞の一部に構造上の異常が見つかった。治療につながる薬の候補物質も突き止めたという。
治療薬の実現には10年程度かかるとみられるが、現代の医学ではどうしようもなかった難病克服の道が、iPS研究によって切り開かれた。
成果は2日に米科学誌に掲載される。
井上治久准教授らはALSの患者3人から皮膚細胞を採取し、iPS細胞を作製した後、運動神経の細胞をつくった。比較検討するため、健康な5人からも同じ手法で神経細胞を作製した。
ALS患者の細胞だけ、脳の命令を骨格筋に伝える突起の部分が通常より短かった。ALS患者の大半に見つかる特定のたんぱく質が細胞内に多くたまっていた。
植物に含まれ、抗がん剤の候補として研究が進む「アナカルジン酸」を細胞に振りかけたところ、このたんぱく質が減り、突起の長さも通常に戻った。
研究チームは今後、この物質の安全性を確認する。動物実験や人での臨床試験(治験)を経て、世界初のALS治療薬の実現を目指す。
iPS使いALS抑制 新薬候補物質発見…京大 : ニュース : 関西発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
全身の筋肉が徐々に萎縮していく難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の患者の皮膚からiPS細胞(新型万能細胞)を作製し、ALSの症状を抑える治療薬の候補となる化合物を見つけ出すことに、京都大iPS細胞研究所などの研究グループが、初めて成功した。すぐに治療に使えるわけではないが、iPS細胞の技術が、難病の解明や新薬開発につながることを確認した成果で、2日の米医学誌電子版に発表する。
同グループによると、ALS患者の約9割は、脳からの指令を筋肉に伝える運動神経の細胞内で、遺伝子の働きの強弱を調節する「TDP―43」というたんぱく質が変性し、蓄積することがわかっていた。
グループの井上治久・准教授らは、50歳代のALS患者3人の皮膚から様々な種類の細胞に変化できるiPS細胞を作製した。さらに運動神経の細胞に変化させたところ、変性した大量のTDP―43を確認。その影響で、運動神経の突起部分が、健康な人より短くなっていたことを突き止めた。
このALS患者の細胞に、TDP―43の正常な働きを補うことで知られる4種類の化合物を加えたところ、そのうちの一つ「アナカルジン酸」という化合物でTDP―43が減少、突起の長さも2倍になり、健康な人の細胞と同じ長さになった。
iPS細胞を開発した山中伸弥・京都大iPS細胞研究所長の話「研究所は10年間の目標の一つとして患者由来のiPS細胞を使った難病の治療薬開発を掲げており、一歩前進した。ALSや他の難病の新しい治療薬開発を実現するために、さらに研究を進めたい」
筋萎縮性側索硬化症(ALS) 脳と筋肉を結ぶ運動神経が徐々に機能を失い、全身の筋肉が動かなくなる病気で、有効な治療法はない。難病情報センターによると、50〜60歳代で発症することが多く、国内には、約8500人の患者がいる。米国では大リーガーのルー・ゲーリッグ選手が発症したことから「ゲーリッグ病」とも呼ばれる。
(2012年8月2日 読売新聞) 朝日新聞デジタル:ALS患者のiPS細胞から薬の候補 京大チーム成功全身の運動神経が衰える難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の患者のiPS細胞から運動神経の細胞をつくり、薬の候補となる化合物を見つけることに京都大チームが成功した。患者のiPS細胞をもとに治療効果のある物質にたどり着いたのは初めてという。
米医学誌サイエンス・トランスレーショナル・メディシン(電子版)で2日、報告する。
京大iPS細胞研究所の井上治久准教授(神経内科)らは、特定のたんぱく質をつくる遺伝子に生まれつき異常がある50代の患者3人に皮膚を提供してもらい、iPS細胞から運動神経の細胞をつくった。
この細胞は多くのALS患者の運動神経細胞と同じ特徴をもち、患者でない人からつくった細胞に比べて突き出ている突起が短く、老化につながるような刺激を与えると細胞死が起きやすかった。
このたんぱく質に異常があると、遺伝子素材のリボ核酸(RNA)がうまくつくれなくなることがわかった。そこで、RNAづくりに関係する4種類の化合物を細胞に加えると、カシューナッツの殻に含まれるアナカルジン酸を使ったときに突起が長くなり、細胞死が起きにくくなるなど、正常に近づいた。
アナカルジン酸の安全性はよく分かっておらず、そのまま治療に使えるかは不明。チームは今後、効果の仕組みや副作用について調べ、治療薬につなげたいという。(鍛治信太郎)